子どもの権利を認めるとわがままになる? 先進地「川崎市子ども夢パーク」で考えた 「人権は意見を押し通すツールじゃない」

 子どもの権利を保障する法律が施行されて3年。子どもの声に耳を傾ける大切さを感じる一方で、言いなりになるのも違うと戸惑う。どう実践していけばいいのか。全国に先駆けた条例をもとにつくられた居場所「川崎市子ども夢パーク」(夢パ)を訪れ考えてみた。
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まだ肌寒かったが、子どもたちはお構いなし

休息して自分を取り戻す場所が必要

 4月上旬、まだひんやりした土をはだしで踏み締め、夢中で泥団子を丸める子どもたち。ホースで水をまいたり、穴を掘ったり。1万平方㍍の敷地に、子どもたちと一緒に作った遊具が並ぶ。学校や家庭に居場所を見いだせない子どもが通う「フリースペースえん」もあり、さまざまな背景の子どもたちがごちゃまぜで遊んでいた。

 川崎市は全国初の子どもの権利条例を2001年に施行。第27条「子どもにはありのままの自分でいること、休息して自分を取り戻すこと、自由に遊び、活動することができる居場所が大切である」を具現化するため、2003年7月に夢パを開所した。

 えんに登録し、通っている13歳の少女は「親に自分の意見を言うとキレられる。ここは素でいられて楽しい」と無邪気に笑う。

 「夢パに来る全ての子どもたちが、誰かに大事にされたという経験を持ってほしい」と話すのは、所長の友兼大輔さん。子どもは時に危険な遊びをしたがるが、スタッフが入念に安全点検し「大丈夫の種」をまく。「自分で危ないと感じることで安全につながる」

 5歳の息子が危ないことをしたがるという川崎市中原区の母親(41)は、「ここは子どもに任せる場所だと知って来た」と話す。男の子はシャベルを手にわくわくしながら掘る場所を選んでいた。品川区の大堀さんの5歳の息子は、泥遊びが苦手だった。夢パで大人気の泥水にダイブする滑り台を一緒に滑ってみると、「2時間くらい泥だらけになって遊び続けた」という。

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夢中で遊ぶ子ども

子どもも大人も社会を構成するパートナー

 夢パは、子どもの声を市政に反映する市子ども会議の会場にもなっている。参加者をサポートしてきた市こども未来局の圓谷(つぶらや)雪絵さんは、「子どもの権利という言葉自体は広まっているが、今でも『権利を認めるとわがままになる』という誤解も根強い」と話す。「権利は自分の意見を通すためのツールではなく、誰もが生まれた時から持っているもの」。

 日本が子どもの権利条約に批准して30年以上たち、権利条例を定める自治体は増えている。2023年施行のこども基本法に沿って「こども大綱」を策定した国の動きも後押しした。子どもの権利条約総合研究所によると、条約を制定したのは93自治体。地域や家庭で理念をいかに実践するかが問われている。

 友兼さんは、「相互尊重が大事。夢パでも何でもしていいわけじゃなくて、仲間を尊重した上で自由が成り立つ」と指摘する。「子どもが特別というわけではなく、おじいさんにだって育つ権利はある。子どもも大人も社会を構成するパートナーだから」。

 夢パには、2001年に条例作りにかかわった子どもたちが紡いだ大人へのメッセージが掲げられていた。

 まず、おとなが幸せにいてください。おとなが幸せじゃないのにこどもだけ幸せにはなれません。

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子どもたちが紡いだ大人へのメッセージ

子どもの権利

 子どもが生まれながらに持つ人権を認め、保障する「子どもの権利条約」は1989年に国連で採択され、日本は94年に批准。2023年施行のこども基本法には条約の基本原則①差別の禁止②子どもの最善の利益③生命、生存および発達に対する権利④意見の尊重が盛り込まれている。

 子どもの権利擁護を現場で実践する友兼さんと圓谷さんに、記者や同僚が日ごろの子育てで迷うことを聞いてみた。

-5歳の娘が保育園でけんかし、先生から娘の発言で友達がいやな思いをしたことを注意しても「理解できていない」と報告されました。親として何ができるでしょうか。

(友兼さん)フリースペースえんでも、小学生や中高生に「今のはよくなかった」「お互いの権利が大事だよね」といろんな話をしますが、理念的なことが「ああ、こういうことだったのか」と伝わるのは5年や10年後くらいでいいと思ってます。ただ、伝えるチャンスは逃したくないから、トラブルが起こった直後に伝えるのが1番いい。伝え方は、「こういうルールに反するから常識的にダメでしょ」ではなく、「私はそうされるといやだから」と自分を主語に置いたアイメッセージで伝えるようにしています。

-ふざけて暴力をふるう友達に中学生の息子が困っています。どうやって付き合ったらいいのでしょうか。

(友兼さん)夢パにもたまに暴力がすぐ出ちゃう子がいて、子どもたちがなんで暴力が出るんだろうと話していた時に「それ以外に友達になる方法を知らないのかも」「人との接し方が分からないのかも」という意見が出て、すごいなと思いました。じゃあ、一緒にいる環境をどうやって作ればいいんだろうと中高生が話しているんです。

 暴れてもまた夢パに来るということは、俺たちがここにいたいのと同じように、あいつもここにいたいんだよなというベースがあるから、その子に思いを寄せられるんだと思います。

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子どもの権利について語る圓谷さん(左)と友兼さん

(圓谷さん)子ども会議でも、最初はずっと黙っている子がいるんですよ。他の人の意見を聞いて、何かを感じ取って、それを何ヶ月もあたためる子もいるし、1年かかる子もいて、そのうち自分でポッと発言するようになるんです。こういう参加の仕方があるんだなと、私も勉強になりました。ずっと黙っているけど、ほぼ休まず来る。そういう子は全体がよく見えているし、後に司会をする子もいました。

 大人は無理に意見を聞きだそうとするんじゃなくて、「どう?」と聞いたり、「じゃあ、パスでもいいよ」と声を掛けたり。そのとき感じたのが、大人側にどれだけ余裕があるかってことがすごく大事だなって思いました。親子のつながりもそうですよね。

ー職場や地域の人には自然とお互いの権利を意識しますが、親子や家族となるととたんに難しくなる気がします。

(友兼さん)夢パに関わる全ての子どもが大事にされた経験を持ってほしいと話しましたが、大人も大事にされてほしい。人として尊重し合う、相手を大事にするということです。僕がスタッフに対していつも聞くのは「子どもに失礼してないですか?」と。迷惑はかけてもいいと思うんだけど、失礼は敬意をなくすわけだから、相手を尊重できていない。

 その意見の聞き方、話の進め方で相手に対して、子どもに対して失礼じゃない?とよく考えます。

 命を守ることとお金を払うことは子どもは親の保護の対象になるけれど、その他のことは人としてお互いに意見を言い合える関係でありたいですよね。子どもは自分で考えています。例えば子どもが3000円しか持っていません、お腹を空かせています。その子は持っていたお金でトレーディングカードを買いました。

 親は頭ごなしに「なんでこんなカード買ったの」と言いがちですよね。でも、その子にとって生きる上ではご飯より仲間の方が大事だった。お腹を満たすことと仲間外れにされることのどちらが重要かを自分で選んで買ったということ。子どもはちゃんと考えていると、大人はもっと理解した方がいいんじゃないかなと思います。

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木製の遊具は子どもたちと一緒に作り上げた

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