幼保無償化で心配な保育士不足 就職先として人気を集める保育園の「働き方改革」とは
連絡帳は手書きからアプリへ
ウサギのぬいぐるみを差し出した一歳の女の子に向かい、保育士の河野房子さん(55)がスマートフォンでパシャ。他の園児が友達の頭をなでたり、つかまり立ちしたりする様子も写真に収め、コメントをつけてそれぞれの保護者に送った。
愛知県大府市の「なごころ保育園」で使っている「連絡帳アプリ」。子どもの園での様子を、担当した保育士が毎日、写真とともに伝える。
連絡帳はノートに書いて保護者に渡すのが主流だが、「慣れれば、手書きより早くて楽」と河野さん。同園が進める保育士の働き方改革の一環だ。
手作り装飾もなくし、子どもと向き合うこと優先に
ほかにも、保育士らが手作りする壁の装飾もなくすなど、保育以外の業務を極力なくし、決められた勤務時間の中で園児としっかり向き合えるように。また、ゼロ~2歳児1人を担当する保育士を2人決め、交代で休みやすくした。このため、週休3日も可能で、副業も認められている。それでも、給与水準は周囲の園とほぼ変わらないという。
同園は人材派遣などを手掛ける「長屋心」(名古屋市)が昨年4月に開園。ゼロ~5歳児を対象にした認可外施設だが、保育士の負担軽減と質の良い保育の実践を掲げ、開設時の20人の募集に80人が応募した。今春も10人の枠に45人が集まる人気ぶりだ。
採用担当の佐橋奈沖美さん(49)は「保育に集中できる環境が魅力なのでは」と手応えを感じている。
3割の保育所、認定こども園で保育士不足
10月1日から始まる幼児教育・保育の無償化で懸念されていることの1つが、保育士不足だ。独立行政法人「福祉医療機構」(東京)が昨年8、9月に行った調査では、全国約1000の保育所と認定こども園の3割で保育士が不足。そのために子どもの受け入れを制限している施設も1割近くあった。無償化で希望者が増えても、十分に受け入れられない恐れがある。
保育士不足の背景には、職場環境をめぐる厳しい現実がある。
今春、別の認可保育所から、なごころ保育園に移った女性保育士(28)は前の職場では残業や休日出勤が多く、発表会の衣装などを自宅で持ち帰って作ることも。「達成感はあったけど、消耗した」。同園で乳児3人を受け持つ女性保育士(23)も、以前勤めた幼稚園で約20人のクラスの担任に。工作の準備などにも追われ、子どもとうまく関われる自信が持てずに退職した。現在は、副業としてケーキ店でも働く。
余裕をやりがいを持って働ける環境を
名城大の蓑輪明子准教授らが愛知県内の保育職員約1万人を対象に2017年度に行った労働実態調査では、正職員の84.6%が「仕事量が多い」と回答。行事の準備や壁の装飾など保育以外の業務で残業する人が多く、残業時間が過労死の危険性が高まる月60時間を超える人も162人おり、最高は135時間に達した。
また、厚生労働省によると、17年の保育士の平均月給は約23万円。全業種の平均より10万円も少ない。保育士確保に向け、国や各自治体は給与の引き上げのほか、家賃の補助、子どもの保育料の無利子での貸し付けなど、多くの支援策を打ち出している。
蓑輪准教授は「保育士が余裕を持って子どもと向き合い、やりがいを持って働ける環境づくりが大事」と話す。
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