予防接種の後、運動と入浴はしていいの? 小児科医が解説 お風呂は1時間後からOK 「激しい運動」はNGです
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昔は「念のために」と控えていたが
―予防接種後、運動や入浴はしてもよいのでしょうか?
接種した当日は、激しい運動は控えるよう伝えています。お風呂は、接種後1時間おけば入っても大丈夫ですよ。
昔は運動もお風呂も「念のために控えましょう」とすることが多かったのですが、徐々に普段と同じように過ごしてもほぼ問題ないことが分かってきています。そのため、接種者の制限はなるべく少なくしようという流れがあります。
とはいえ予防接種には、注射した部位の赤みや腫れ、発熱などの副反応が出ることがあります。医療側としては、どの接種者にも当日は「激しい運動を控えてもらう」という条件で過ごしてもらい、接種の効果や副反応を正確に把握したいという狙いもあります。
―接種した後しばらくは、医療機関内で待機するように言われます。体調が急変する恐れもあるのでしょうか。
そうですね。例えば、アナフィラキシー(急性の激しいアレルギー反応)の場合は、反応が早ければ早いほど激しく起こります。本当に重篤なアナフィラキシーショックは打った瞬間に起こり、患者さんが診察室から出るまでの間にもう顔色が悪くなったり、呼吸が苦しくなったりします。そこまでのケースはまれですが、医師と患者さんのお互いの安心のために、私のクリニックでも念のため15分から30分くらい待ってもらっています。
ただ、今は新型コロナウイルス感染リスクを避けるため、院内で待機してもらわず、「何かあったら、すぐに来られるような距離にいてください」と伝えています。
「激しい運動」、NGのラインはどこ?
―どこからが「激しい運動」なのかと迷います。「激しい運動」と「激しくない運動」との線引きはありますか。
私は「普段やらないような運動」と理解しています。例えば、子どもの場合、保育園から走って帰ったり、公園で時々走りながら遊んだりするのは日常的ですよね。そのくらいならOK。特別な激しい運動をさせなければ、「いつものように外で遊ぶ、いつものように走って帰る、というのはいいよ」と伝えています。
逆にいつもはしないマラソンのトレーニングをその日に限ってするとか、プールでがんがん泳ぐというようなことは控えたいところです。息が上がってしまうようなスポーツや習い事も、その日は見合わせてほしいと思います。
―運動の程度で悩む場合は、「この後、△時から○○の習い事があるんですけれど」と、かかりつけの医師に相談したほうが良さそうですね。
そうですね。いつも通っている体操教室などの場合は、普段のお子さんの状態をよく知っている先生だったら、「いいんじゃない」と判断することもあると思います。迷うときは、予防接種を受けたかかりつけの医師に相談してみてください。
「お風呂はダメ」と言われたような…
―お風呂に入っていいかどうか、という問題は、今の親世代が子どもの頃には「注射した日はお風呂に入っちゃだめ」と言われていたので、NGと思っていることも多いようです。
私も小さい頃はそう言われて育ったように思います。ですが、最近は「予防接種をして1時間たてば、普段通りにお風呂に入って、湯船にもつかっていいですよ」と伝えています。昔は、家庭にお風呂がなくて銭湯を利用していた家庭も多く、往復で湯冷めをして体調が悪くなることを心配したのかもしれませんね。
―接種当日にお風呂に入るとき、気を付けることはありますか。
接種部位を、もまないようにしましょう。血行が良くなってしまうと、腫れや赤みがひどくなってしまいます。接種部位をゴシゴシこすったり、長くお湯につけたりするのは避けてください。それ以外は、いつも通りでいいですよ。
診療時間の終了間際は避けてください
―予防接種を受けるのに望ましい時間帯はありますか。
感染予防の観点から、他の風邪などのお子さんと一緒に待たないで済む予防接種の時間に来ていただくのが一番です。クリニックや病院によっては、予防接種専用の時間帯を設けているところもありますね。
また、診療時間の終了間近に予防接種の受診をするのは避けてください。接種後に具合が悪くなった場合、医療機関がもう閉まっていると困ります。何かあったときに、余裕を持って対応できる時間に接種をした方が安心です。
10代の子どもなどは塾や部活などで忙しいので、どうしても夕方から夜にかけてになることもあるかもしれません。その場合には、異変があったときに慌てず行動できるように、夜間に診てもらえる医療機関を調べておくと良いでしょう。
インフル予防接種、今年は出足が早い
―コロナ禍で予防接種にも例年と違うことがありますか。
今年のインフルエンザワクチンは、問い合わせも実際に受けに来る時期も、例年に比べて非常に早いですね。高齢者が優先されましたが、5歳未満の子もハイリスクということで、私のクリニックでも10月の初めから接種しています。
一方で、それ以外の定期接種の接種率は、全国で例年の7割ほどにとどまっています。とてもショックな数字です。海外では、麻疹(はしか)がはやりだしたとニュースになっています(※注1)。
日本では、今のところ麻疹の患者さんは増えてはいませんが、麻疹・風疹混合の「MRワクチン」は1歳の誕生日から打てるワクチンですので、ぜひ早めに打ってほしいと思います。麻疹は新型コロナやインフルエンザよりも感染しやすい感染症です。同じエレベーターに乗っているだけ、同じ部屋にいるだけでも空気感染します。7割の子しか予防接種していなければ、日本でも大流行する可能性が高いです(※注2)。ワクチンを接種する前の赤ちゃんに感染してしまうと、後に死に至る恐れもある疾患にかかるリスクもあります。
(※注1)世界保健機関(WHO)によると、メキシコでは、2020年4月までに1300人以上の麻疹患者(疑いを含む)が発生。新型コロナ流行で麻疹ワクチン接種が滞っていることが原因とみられている。
(※注2)日本医師会によると、国内では2008年に年間の患者数が1万人を超える大規模な麻疹の流行があった。
受診控えで定期接種の接種率が7割に
―定期接種の接種率が下がっているのは、コロナ感染への恐れによる「受診控え」からきているのでしょうか。
そうだと思います。全ての診療科の中で最も受診控えが多いのが小児科ですが、小児科で新型コロナのクラスターは発生していません。国内では、新型コロナで10代までの子どもが亡くなった例も今のところありません。にもかかわらず、親御さんの中には「病院に行くとコロナに感染してしまうかもしれないから行かない」と思っている方も多いようで、とても心配な状況です。
―今年の夏は、例年流行する手足口病やヘルパンギーナ、プール熱(咽頭結膜熱)などの感染症ははやりませんでした。
全然いませんでした。手足口病は、私は一人もみていないです。こんな夏は初めてですね。手洗いと、距離をとるということの効果があったのだと思います。
コロナ以外のリスクを軽視しないで
―コロナの影響が長引く中、保護者が子どもの健康のために気を付けるべきことはなんでしょうか。
まず、ワクチンで予防できる感染症は予防しましょう。定期接種の受け忘れがないかを、確認してください。もし分からない場合は、母子手帳を持って小児科に相談するといいと思います。
乳児健診を受けていない家庭もあります。赤ちゃんに病気や発達の問題がある場合、早く見つけることが大切です。先天性股関節脱臼など、治療が早く始められれば大ごとにならずに済む病気もあります。「皮膚洞(ひふどう)」という背骨の末端部分と皮膚がつながっている病気などを見つけるにも、生後3~4カ月までならエコーが届くので検査が楽ですが、5~6カ月になると、成長によってエコーをあてても写らなくなってしまいます。診断に時間がかかり、治療の開始が遅れるリスクがあります。
子どもが元気そうに見えても、定期的な予防接種や乳児健診は受けてほしいです。多くの医療機関では一般の患者さんの受診時間とは別に健診専用の時間を設けているので、受診を控える必要はありません。新型コロナ以外のリスクを軽視しすぎないようにしてほしいと思っています。
森戸やすみ(もりと・やすみ)
1971年、東京都生まれ。小児科専門医。一般小児科、新生児集中治療室(NICU)勤務などを経験。著書に「子育てはだいたいで大丈夫」(内外出版社)、共著に「やさしい予防接種BOOK」(同)など、医療と育児をつなぐ著書多数。「祖父母手帳」(日本文芸社)も監修。
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