自閉症の兄妹アーティスト輪島貫太さん&楓さんの潜在力を引き出した「個育て」 画文集『みんなしあわせ。』に母が込めた思い
「イマジン」に通じる「ぼくの願い」
「ぼくの願いを書きます」。取材中、輪島貫太さんが私のノートに言葉を綴(つづ)り始めた。「人をばかにしない=人をやさしく応援する」で始まり、そのためになくなってほしいものを挙げる。ネット上の悪口、自殺、犯罪、戦争、環境破壊…。
「願い」とは、本書の表紙にもなった作品「みんなの輪、えがおの輪」に込めた思いだ。子どもも大人も笑顔で手をつなぎ、輪となって幾重にも広がる。肌や髪の色が異なる人も多い。動物たちも輪を見守る。
明るく伸びやかな絵だ。平和が実現した世界を歌ったジョン・レノンの「イマジン」も連想させる。ただ、母・満貴子さんは生み出す心の葛藤を読み取る。
「私たち大人は人を大切にと教えますが、ネットなどでは傷つける言葉があふれ、そのせいで命を落とす人もいる。戦争もある。大人の言っていることと違う、おかしいと感じ、闇の中に入ってしまう。そこから抜け出すために、何かしなければと懸命に考える。それがこうした作品につながるんだと思います」
輪島家の子育てそのものが「アート」
貫太さんは2歳半のとき自閉症と診断された。ちょうどそのころ発した初めての言葉が「キリン」だ。大好きな絵本を見てつぶやいた。以来、動物をクレヨンなどで描くようになる。
「集合絵」と呼ばれる貫太アートの特長が芽吹くきっかけは小学3年のときだ。はまっていた「天才バカボン」のアニメで、パパが大部屋のふすまを開けるとイヤミやチビ太といった赤塚漫画のキャラクターがドンと出てくるシーンがある。満貴子さんは「何度も再生して、模写もしてました。動物やキャラクターが『勢ぞろい』している場面が大好きなんです」。
輪島家の子育ては「個育て」だ。妹の楓さんも自閉症だが、個性はまるで兄と異なる。はっきり現れているのがアートだ。作品はドレスやアクセサリーの切り絵が多い。特長の一つはドレスならドレス全体を描くのではなく、一部分を切り取った構図も多いことだ。貫太さんの「集合絵」とは真逆の視点かもしれない。
2人の作品は今、有名ファッションブランドのデザインやジャニーズ・ユニットのCDジャケットにも使われている。その潜在力を引き出したのが「個育て」だ。本書はその克明な記録であり、作品集でもある。兄妹とも自閉症ということもあり「子育てのマニュアルには頼れず、すべてが手探りでした」。家族全員がクリエーターであり、輪島家の個育てそのものがアートと感じさせる。
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