怪談家 稲川淳二さん「私は最低の親だが…」

(2018年8月5日付 東京新聞朝刊)

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障害があった次男のことを語る稲川淳二さん

認めるのが嫌だった次男の障害

 次男の由輝(ゆうき)は5年前、26歳で亡くなりました。いい子でしたよ。優しい子でした。
 
 頭の骨に変形がある先天性の重い病気でした。偉いのはね、親を恨んだり文句を言ったりするわけでもなく、いつもニコニコしていたことです。元気に生まれてきた人が自殺したり、人を殺したりする時代ですよ。障害のある人の生きる一日は、健常者の一日よりすごく大変なんです。でも息子はその日まで毎日、一生懸命生きたんです。そして私に、世の中にはいらない命はない、ということを教えてくれたんです。
 
 彼が生まれた時、私は障害があるということを認めるのが嫌で、受け入れられませんでした。あの子をこの手にかけて殺してやろう、と思ったこともある人間です。なのにあいつは生後4カ月で、朝8時から夜8時までの手術に耐えた。手も足も針や管でつながれ、ちっちゃい体で息をして。一生懸命生きようとしている姿を見た時、すごく自分を責めました。おれはなんてやつだ、最低だと。

亡くなってからの方が忘れない

 別居している女房から何の連絡もなく、住んでいる場所も知らなかったので、由輝には幼いころからほとんど会っていません。不思議なもので、亡くなってからの方が忘れません。毎日朝と帰宅後にお参りし、名前を必ず呼びます。こうやって、あいつの話をすると、あいつがそばにいてくれる気がします。
 
 その日は、長男から亡くなった知らせを受け、病院の霊安室に駆けつけました。手を握ると、由輝が5つぐらいの時、病院の廊下を手をつないで歩いたことを思い出しました。あれ以来、手を握ってあげなかったな。そう思うと、たまらなかったです。
 
 数カ月後、家の近所を長男と歩いていた時、「由輝が通っていた学校だ」と教えてくれました。そばにいたのに知らなかったんです。長男が「由輝ね、運動会で足速かったんだよ」と言うので、「うそだ。あいつ頭手術して、体に管も通っているし」と言ったら「一生懸命走るんだよ。ほかの子を抜いたよ」と。それで運動場をじっと見ていると、そこを走っている小学生の由輝が見えたんです。
 
 さらに長男が「鉄棒も上手だったよ」と言うので、鉄棒をじっと見ていたら、小学生の由輝が鉄棒を握って、私の方を見て笑ったのが見えたんだ。ぐーんと回って逆上がりしたんだ。その瞬間、「おーい、そばにいて見てあげたかった。ほめてあげたかった。おまえは一生懸命生きたんだな」と思ってね。
 
 親として何もしてやれず、最低の親なんですけど、息子は私の中に永遠に生きていて、命や人の思いについて教えてくれます。私はすごい宝をもらった、と思っています。

稲川淳二(いながわ・じゅんじ)

 1947年、東京生まれ。タレントとして活躍。55歳からは「怪談家」としてライブを中心に活動している。

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  • 匿名 says:

    重度知的障害者の兄が居ます。「(障害のある身内が)早めに死んで良いなぁ、羨ましいなぁ」、心からそう思います。
    兄は40代、私は30代です。兄は脳の主に生存に関わる部分には特に異常が無い為、あと2・30年は優に生きるでしょう。その間、私は兄の世話から逃れられません。私の人生は、障害者に関わらず自分の為に使える時間より、そうでない時間の方が長いのです。

    「障害者は自ら望んでそう生まれてきた訳ではない」と言う言葉には「私だって自ら望んで障害者の身内に生まれてきた訳ではない」とお返しします。

    「自分が事故や病気で障害者になった場合の事を考えられないのか」と言われる方、貴方には「障害者の世話に自分の人生を割かねばならなくなった場合を思う想像力」が足りていません。

    この稲川氏とて、結局は障害を持つ子供と向き合わねばならない、辛い障害者養護の現場から逃げ出して大半を人任せにしたに過ぎません。
    辛さから逃げられる人は良い、ですが逃げ出し置き去りにした現実を他の誰かが補っている事、その現場・現実は決して綺麗事では済まない事を、自分は直接障害者に関わる事のない『他人事の距離』から物を言う全ての人に知って欲しい所です。

      
  • 匿名 says:

    私は、今、現在進行形で息子の障害を受け止められずにいる者です。少しずつ追い付くかもしれない・・・、そんな甘い期待を手放せずにいます。理解力のない息子に苛立ち、1番不便な思いをしているのは息子だと頭では理解しながら、心が着いていかず酷い対応をしてしまうことがあります。
    『懸命に生きている』。本当ですね。失くしてから後悔しないよう、一緒に親として懸命に生きなければいけませんね。

      
  • 匿名 says:

    ステキな話です。それ以外、ないですよ。グダグダうん言うより、この一言の重みの方が。

      
  • 匿名 says:

    稲川さんにそんなことがあったとは知らなかったですが、何でも後から思うことですね
    亡くなる前にもっともっとお子さんとの時間を過ごせば良かったのに、、稲川さん程の方がご自分の息子さん、亡くなってから駆けつけるって残念

      

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