保育施設の災害対応、「ドタバタ・イベント法」で課題の洗い出し 避難所に逃げるのが正解? 園外保育時は?

加藤祥子 (2024年10月16日付 東京新聞朝刊)
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災害時の行動と手順が記されたカードを見て、止血訓練に取り組む保育士=愛知県春日井市の勝川北部保育園で

 地震や風水害など大きな災害時に、保育施設にいる幼い子たちの命を守りきれるのか-。漠然とした不安を抱える保育園などは少なくない。立地や職員数といった各施設の具体的な条件に合った現実的な想定を出発点に、対策を考える手法が広がりつつある。提唱する専門家は「問題をはっきりさせれば打つ手はある」と、その意義を強調する。 

課題を仕分け 具体策をカードに

 「痛い、痛い」。子ども役の保育士が額を押さえて痛がった。担任役が寄り添い、別の保育士を応援に呼んだ。今月上旬、愛知県春日井市の勝川北部保育園で実演された訓練だ。

 園児が額に大けがをしたとの想定。駆けつけた保育士が壁に掛けてあるA4判のカードを手に取った。「止血法」の項目を見て「骨は見えていませんか」と担任役に確認し、非常袋からガーゼを取り出した。

 カードには災害時や緊急時に職員がとる行動と手順が示してある。起こりうる課題を思い付く限り挙げ、一つ一つ解決策を考える「ドタバタ・イベント法」を基に、園長と主任を中心に職員で作った。

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災害時の職員の行動が書かれたカード。園外での保育や職員が最も少ない場合の対応が示されている。

 この手法は、愛知県立大看護学部教授で、同大地域災害弱者対策研究所長の清水宣明さん(64)が考案した。施設によって立地やマンパワーなどの条件が異なるという前提からスタート。課題を挙げた後に、事前に解決できることや、諦める項目などを仕分け、残った課題について具体的な対応策を考え、手順をカードにまとめていく。

 同市では2022年度に、清水さんを招いた研修を実施。市内の公立、私立の保育園と、小規模保育所の全園長が参加し、幼い子どもにとっては、日々通い慣れた施設での避難が安全につながることなどを学んだ上で、ドタバタ・イベント法を習った。

事前の準備で不安が自信に変わる

 実際に勝川北部保育園で挙がった課題は80ほど。ガス漏れや施設の破損といった現場では対応できないものは諦めるなどして、園にいる職員が最も少ない時に緊急事態が起きた場合の避難方法や、災害トイレの設置方法などの27項目をカードにまとめた。

 園外保育時の被災も想定し、落下物のない場所へ集まることなども記した。園から職員が迅速に助けに行けるよう、日常の散歩から、園に残る職員に行きと帰りのルートを伝えるように心がける。

 ほかに、ガラスが割れた場合に備え、子どもたちが上履きを脱ぐ時間を減らすなど事前に解決した課題に関するカードも用意する。

 榊原優子園長(51)は「最後の一人を保護者に引き渡すまで、自分たちで守り切らないといけない」と決意を語る。「不安があったが、カードを作ることで準備ができ、自信になっている」とし、今後もカードを増やしたり、見直したりするという。

職員の行動指針 ガイドブックに

 清水宣明さんは、10年前から保育園と協力し災害対応の研究に取り組み、年間40回超の講演をしている。その経験をまとめた「保育施設の災害対応ガイドブック」(中日新聞社)を今年9月に発行した。

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著書を手にする清水宣明さん

 本では、「ドタバタ・イベント法」の紹介のほか、食料確保などの事前準備や、災害発生時の対応、避難時の注意事項、保護者への引き渡し方法まで、職員がどう行動したらいいかを具体的に示した。

 さらに、防災そのものに対する考え方も解説。保育施設にはまだ歩けない子どもも通っている上に、理解力も十分には育っていない。にもかかわらず、これまでむやみに離れた避難所へ逃げるような訓練も実施されていた。「幼い子は無理が利かない。精神論ではなく、現実の条件にあった対策を考えることが大切。避難は、逃げることではなく、『難を逃れる』こと」と説く。

 災害弱者になり得る高齢者や障害者が利用する施設の参考にもなるといい「災害と避難を考えるきっかけにしてほしい」と語る。

 本はA5判168ページで、1540円。近くの中日新聞販売店で注文できるほか、全国の書店でも取り扱っている。

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