【選択的夫婦別姓がわかるQ&A⑧】夫婦同姓は日本の伝統? 姓は「家」の名称ですか? - 東京すくすく | 子どもとの日々を支える ― 東京新聞

【選択的夫婦別姓がわかるQ&A⑧】夫婦同姓は日本の伝統? 姓は「家」の名称ですか?

選択的夫婦別姓がわかるQ&A

【疑問13】日本は伝統的に夫婦同姓だったのでしょうか。

 日本は昔から夫婦同姓だったわけではありません。江戸時代以前は原則、庶民には姓(氏)を名乗ることが認められておらず、また、武士や貴族など高い身分の人々は、姓で出自を表しており、源頼朝と北条政子の例のように、夫婦は別姓でした。

 明治政府は、戸籍作成のために国民全員が姓を名乗ることを義務付け、1876年、妻は実家の姓を名乗るべきとする夫婦別姓の指令を出しました。しかし、その後の1898年に成立した明治民法は、戸主が強大な権限をもつ「家制度」を導入し、夫婦の姓について直接規定を置くのではなく、夫婦は「家」を同じくすることにより同じ姓を称すると定めて、原則として夫婦同姓を義務付けました。

 つまり、夫婦同姓が法律で義務付けられたのは1898年からであり、それ以前は夫婦同姓ではありませんでした。

【疑問14】家制度とは何ですか。姓は「家」の名称ですか。

 家制度は、1898年に成立した明治民法で確立されました。親族のうち一定の範囲の者を、戸主の「家族」として一つの「家」(物理的な建物の家ではなく観念的な家です)に属させ、戸主に家族の統率権限を与える制度です。その「家」や「家族」を目にみえるように登録したものが戸籍です。

 家制度の下、女性は結婚すると、法的な行為能力が制限される「無能力者」扱いにされました。働くには夫の許可が必要で、財産も夫に管理され、相続権や親権もありませんでした。女性の経済的な自立は阻まれていたのです。

 無能力者扱いを拒み、事実婚を選んだ思想家平塚らいてうなど一部の女性を除き、女性は「嫁」として「家」に組み込まれていました。

初登院した女性代議士

戦後は婦人参政権の実現、男女平等を定めた新憲法制定、「家」制度を廃止した民法の改正など女性の権利拡大が図られた。写真は1946年に初登院した女性代議士

 戦後、家制度は、憲法13条の個人の尊重、憲法14条の性平等および憲法24条の個人の尊厳と両性の本質的平等に基づいて廃止されました。明治民法の時代は、家制度の下で、夫婦が名乗る氏は「家」の名称でした。しかし、1947年の民法改正で家制度は廃止され、現在の民法では、夫婦が名乗る氏は、法制度上、「家」の名称ではなくなっています。

 現行民法では「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」(民法750条)として夫婦同氏制が踏襲されました。ただ、「家」意識の名残から、女性は結婚すると男性の「家に入る」という意識はいまだに残っています。

 もちろん、同姓の夫婦親子でいることで、氏を家族の名称 (ファミリーネーム)だと感じている人はたくさんいます。ただ、法律に「家族」の定義はなく、別氏の家族もたくさん存在し、氏が家族の名称であるとは限りません。

 例えば、連れ子のいる再婚家族や国際結婚の家族には別姓の家族が少なくありませんし、事実婚の家族はすべて別氏の夫婦親子です。

 現在では、下の名前とともに「氏名」として、何よりも「個人の名称」の役割を果たしています。1988年の最高裁判所の判例においても、氏名は「個人の人格の象微」であり、「人格権の一内容を構成する」とされています。

◆次の疑問は、近日公開予定。

選択的夫婦別姓がわかるQ&A

【子育て世代の疑問に答えます】

 9月の自民党総裁選で争点の一つになった「選択的夫婦別姓」。夫婦が、同じ姓を名乗る(夫婦同姓)か、それぞれ結婚前の姓を名乗り続ける(夫婦別姓)かを選べる制度です。夫婦同姓を法律で義務づけているのは世界でも日本だけで、晩婚化やグローバル化、IT化など時代の変化に伴い、さまざまな不都合が生じています。そして、その不都合を感じているのは、ほとんどが女性。男性の議員や経営者、裁判官らに訴えても理解を得にくい問題でもあります。

 最近よく耳にするようになったけれど、詳しい内容が分からず、「今までと違うのは、なんとなく不安」という人もいるでしょう。衆院選を前に、子育て世代にも身近な疑問を、別姓訴訟弁護団にかかわる弁護士、榊原富士子さんと寺原真希子さんの著書「夫婦同姓・別姓を選べる社会へ」(恒春閣)を基に解き明かします。

家族の絆がなくなる? 周りは分かりづらい?

子どもの姓はどうなる? かわいそうではない?

別姓だと戸籍はどうなる? 制度が崩壊しませんか?

旧姓を通称として使用すれば問題ないのでは?

旧姓と戸籍姓を使うことで困ることって?

国連の女性差別撤廃委員会が法改正の勧告?

同姓でないと同じお墓に入れない? 一夫多妻制を認めることになる?

⑧夫婦同姓は日本の伝統? 家制度が廃止された経緯は?(このページ)

選択的夫婦別姓とは

 夫婦が、同じ姓を名乗る(夫婦同姓)か、それぞれ結婚前の姓を名乗り続ける(夫婦別姓)かを選べる制度。1996年、法相の諮問機関「法制審議会」が導入を盛り込んだ民法改正法案要綱を答申したが、自民党保守派から「家族の絆が壊れる」といった反対意見が強く、国会に上程されないまま30年近くの年月が流れた。以前は別姓を認めていなかった国も男女平等などの観点から制度を是正する中、日本は別姓を選べない唯一の国として取り残されている。2023年に婚姻した夫婦のうち94.5%が夫の姓を選択した。

 別姓を認めない日本に対し、国連女性差別撤廃委員会は再三の改善勧告をしている。日本は、旧姓を通称使用する独自の政策を推進しているが、グローバル経済の中、二つの名前を使い分けるローカルルールとして混乱のもとにもなっている。多様性や公平性なども含めて課題に対応する「DEI」の観点から、経団連は24年6月、選択的夫婦別姓の早期実現を政府に求める提言を発表した。

著者の紹介

写真 寺原真希子さんと榊原富士子さん

◇寺原真希子(左) 東京大法学部卒業後、司法試験に合格。長島・大野・常松法律事務所など東京都内の事務所で勤務後、米ニューヨーク大ロースクールに留学しニューヨーク州弁護士資格を取得。帰国後、旧メリルリンチ日本証券での企業内弁護士を経て現在、東京表参道法律会計事務所の共同代表。2011年に選択的夫婦別姓訴訟弁護団に加わり、22年から弁護団長。

◇榊原富士子(右) 京都大法学部卒業後、1981年から弁護士。婚外子相続分差別訴訟、子どもの住民票や戸籍の続柄差別違憲訴訟などを担当。離婚と子どもに関するケースを多く扱う。2009~14年、早稲田大大学院法務研究科教授。2011~22年、選択的夫婦別姓訴訟弁護団長を務めた。

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