小学生が自分で読んで「性と生」について学べる本 「こども せいきょういく はじめます」 きっかけは保護者の悩み

 小学1年生から自分で読んで「性と生」について学べるコミックエッセー「こども せいきょういく はじめます」(KADOKAWA)が3月に出版されました。直接、教えるのではなく、子どもが読める性教育の本があったらいいのにな、という保護者の要望から生まれました。本のベースとなった共著者の和光小学校・和光幼稚園前校園長の北山ひと美さんによる講座を取材し、インタビューしました。
性教育

小学生らが参加した「親子でまなぶからだのこと」講座=調布市子ども家庭支援センターすこやかで

子どもたちが経験した「誕生」の瞬間

 5月末、調布市国領町にある子ども家庭支援センター「すこやか」に市内の25家庭から62人が集まりました。北山さんの「親子でまなぶからだのこと」講座を受けるためです。小学生が自分の体について学び始めるための講座で、北山さんはイラストや写真、模型を使いながら、爬虫(はちゅう)類や哺乳類、人間が交尾(性交)して命が誕生するプロセスを説明しました。

 一通り説明が終わると、北山さんは「ではもう一回、赤ちゃんになって生まれてみましょう」と声をかけました。「赤ちゃんの生まれ方はいくつかあるけれど、今日は子宮口から生まれてくる生まれ方を体験してもらいます」。子宮の模型は、北山さんが担任をしていた時に同僚たちと一緒に布団カバーと腹巻きで手作りしたそうです。

 立候補した子どもは胎盤がついたへその緒の模型をズボンやスカートに挟み、布団カバーの中に入りました。中に入った子どもは「生まれるよ~」と合図を出してから、シーツから腹巻きへと移動していきます。周りの子どもや大人は「頑張れ~」と声をかけたり、動きやすいよう助けたりして陣痛の役割を果たします。

写真 性教育

生まれるため腹巻きの中で動く子ども。大人はシーツの外から子どもを優しく押し出し、陣痛の役割を果たす

すっきり、気持ちいい!まるで赤ちゃん?

 頭が出てくると体や足はすっと出てきます。出てきたらへその緒でつながった胎盤を引っ張り出して終了。体験したゆうたろうくんは「すっきりした感じ」。もう一人のさやちゃんは「(中は)怖いかなと思ったけど、気持ち良かった。わくわくした」と楽しそうに話していました。

 北山さんは「忘れていると思うけど、みんなは自分で力を出して生まれてきたんだよ。もちろん、お母さんやお医者さんたちも助けてくれるけどね」と話しました。子どもたちは「自分たちが頑張った」ということに驚きつつも、納得していたようでした。

写真 性教育

生まれてこようとする子どもを助ける周りの子(左)

小3前半までは「生まれる側」の学び

 こちらの講座は、和光小学校2年生の授業内容と一緒です。北山さんは長年、性教育に関わってきた経験から「小学3年生の前半ぐらいまでは『生まれる側』として学んでいます。この時期に自分がどうやって生まれてきたかを知ると、高学年で二次性徴について学ぶときも恥ずかしがったりせず、自然と受け止められます」と言います。

 記者も子どもたちが好奇心いっぱいに北山さんの質問に答えたり、布団カバーに入ったりする姿をみて、納得しました。出席した大人からは「誕生体験がとてもよかった」「定期的に開催してほしい」などの感想が寄せられました。

 主催した「すこやか」の三牧由季副施設長は「教育現場で性教育を行うのは難しいと聞きますので、福祉の場でできることを地道に続けていけたらと思っています」と話していました。

書影 おうち性教育 思春期も

おうち性教育はじめますシリーズ

 KADOKAWAは「おうち性教育はじめます」シリーズとして、これまでに3冊、出版しています。1冊目「おうち性教育はじめます 一番やさしい!防犯・SEX・命の伝え方」は、幼児から思春期までの子どもを持つ保護者、2冊目の「おうち性教育はじめます 思春期と家族編」は思春期の子どもを育てる保護者、と大人向けの本となっています。

 3冊目となる今回の「こども せいきょういく はじめます」は、「子どもが自分で読んで学べる」がコンセプトです。本のつくりも、低学年から高学年までそれぞれの発達段階に合わせた内容になっています。

 例えば1・2年生向けの「はじめのいっぽ」は自分を守るために必要なプライベートパーツなど体の仕組みを学びます。続く「たんじょうのはなし」は、今回の講座と同じ学びの内容です。

 3年生など中学年向けの「家族のはなし」、4年生の「からだとこころのはなし」(二次性徴)、「いいよ!とイヤだよのはなし」(同意・不同意)、5・6年生向けの「セクハラのはなし」と総合的に「性」について学んでいきます。このような構成になったのは、北山さんが1980年代から和光小学校などで取り組んできた性教育の授業をベースにしているからです。

 北山さんにこれまでの取り組みについて聞きました。

写真 性教育

子どもが知りたがっているなら一緒に、と

ー性教育に関わったのはどんなきっかけでしたか。

1980年代に和光小学校の教員になり、二次性徴や生殖の性を学ぶ、性教育の授業に関わりました。自分からではなく、すでに一部の学年のカリキュラムにあったから、でした。80年代の終わりのころ、担任していた2年生が「赤ちゃんってどう生まれるの」「元はなに?」などと、とても知りたがる子どもたちでした。子どもが知りたがっているなら一緒に教えよう、と熱心に取り組むようになりました。

また性交には生殖だけではなく、触れ合いという意味もあるよ、ということを低学年で学んでおくと、高学年になって、自分たちも主体的にこういうことをやるんだな、関係をつくるんだな、と恥ずかしがったりせずに受け止められます。そうすると「支配する性」など、社会的な性の問題についても学びを続けられるのです。

高学年で性教育の授業をすると先生だけ話して終わってしまうという話も聞きます。低学年から積み上げていくことが大切だと思います。

ー「こどもせいきょういくはじめます」の本の構成がそうなっていますね。

はい、和光小学校の授業カリキュラムが本の土台になっています。私は結婚も出産も経験していましたが、実際に学び始めると知らなかったことが結構ありました。カリキュラムは最終的に2007年にできあがり、現在も総合学習の時間に学んでいます。

ー誕生体験は子どもたちも楽しみながら参加していました。

教師たちで「やっぱりもう一度、生まれてみたいよね」という話題になったとき、わが家にシーツがいらないのがあるな、なら入り口をどうするという話になり、年配の先生が大人用の腹巻きでいいんじゃないか、とアイデアを出してくれて作ったものです。子どもたちは自分はこんな大変な思いをして生まれてきたんだと実感しますし、どういう境遇であろうが、あなたが頑張って生まれてきたんだよ、ということが伝わるおすすめの授業です。

北山ひと美(きたやま・ひとみ)

和光小学校・和光幼稚園前校園長。一般社団法人“人間と性”教育研究協議会(性教協)代表幹事、性教協・乳幼児の性と性教育サークル代表。幼稚園、小学校の現場で、性教育のカリキュラムづくりと実践を重ねている。共著に「あっ! そうなんだ! 性と生」(2014年、エイデル研究所)、「乳幼児期の性教育ハンドブック」(2021年、かもがわ出版)など。「性ってなんだろう?」(2022年、新日本出版社)監修。NHK Eテレ「アイラブみー」監修ほか。

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