「新生児の育児は想像以上に大変」「今までで一番、妻に感謝された」育休を取った男性2人に聞く

安藤美由紀、小田克也
 育児休業を取得する男性従業員が増えています。止まらぬ少子化に歯止めをかけるには、育休を取りやすい職場づくりが大切なのは言うまでもありません。男性は女性よりも取得率が低い、という政府の調査結果もあります。実際どうなのでしょう。男性はやはり取得しにくいのでしょうか?   最近、育休を取得した「スペースマーケット」(東京都渋谷区)の佐伯星(さえき・せい)さん(37)、そして「Gakken」(品川区)の戸泉竜也(といずみ・りゅうや)さん(29)。二人のオフィスを訪ね、話を伺いました。

取らないという選択肢はなかった 

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長女と散歩する佐伯さん(本人提供)

空室の貸し借りを仲介する「スペースマーケット」は2024年度「男性育休取得率100%」の会社です。社長の重松大輔さんも3児の父で、創業当初から「子どもがいるから仕事を諦めなくてはいけない」という状況を避けることを意識し、家族を大切にしながら仕事に全力で取り組む環境を整えてきたそう。佐伯さんは、2カ月半の育休を取りました。

佐伯さんは神奈川県在住で、育休前から、週2日出勤、3日はリモートで仕事をしています。ネイリストの妻(33)との間に生後半年の長女がいます。育休は長女が生まれて2週間後から取得しました。

自分の時間は全くなかった

-育休を取得しようと思ったきっかけはどんなことでしたか。

そもそもみんな取っているんです。取らないという選択肢はありませんでした。

-事前にリサーチしたり、準備はしましたか?

仕事をしながらなので結局、あまりできませんでした。先輩パパたちから「たまにはパソコンをいじっていた」と聞いていたので、少しは自分の時間があるのかな?と思っていたら全くなかった。子どもは昼夜関係なくよく泣くし、それどころではなかったです。

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長女の世話をする佐伯さん(右、本人提供)

復帰後は食事サービスなども利用

-妻とはどんな分担で乗り切りましたか?

私が主に家事全般や風呂、妻が主に育児を担当して役割分担していました。寝かしつけだけはうまくいかず、妻が。家事は元々、するのが当たり前と思っていたので、料理や洗濯掃除などの家事スキルはあるほうだと思います。妻からこれをやってほしいと言われたことはあまりなく、家族が気持ちよく過ごせるよう、育休明けからは食事サービスなどを利用して時間を確保したりしました。

-育休期間を2カ月半にしたのはなぜですか?

本当は1カ月半で復帰しようと思っていましたが、新生児の育児は想像以上に大変で。そんな話を、会社の朝会(リモートでも参加できる会議)で話したら上司から「もう少し延長したら?」と提案されて1カ月延長しました。結果として長女が3カ月になるまで休め、その間にお宮参りや予防接種などのイベントも体験できて良かったです。

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同僚と話す佐伯さん(左、スペースマーケット提供)

-復帰後の生活は変わりましたか?

仕事内容はほぼ変わらず、働く時間が変わりました。子どもが生まれる前は夜まで働くこともありましたが、今は朝7時には起きるので早めにスタート、夕方は18時には切り上げるようになりました。リモートの日は休憩などの合間に抱っこひもで子どもをあやしたりと子どもとの時間を設けています。育休を取ったことで妻がワンオペでどれだけ大変か想像できるので、出社の日もなるべく早く帰るようにしています。

-これからはどんな生活をしていきたいですか?

少しずつ遠出もできるようになると思うので、帰省なども楽しみですが、それより来春に向けて保活ですね。育休期間中に保育園見学できたのも良かったです。

佐伯さんは気負うことなく、仕事をしながら家事育児を担っていました。「スペースマーケット」では、ファミリーサポートなど社員のライフイベントに備えた制度の拡充をしつつ、みんなが育休を取るので、その間はみんなでサポートするというのが自然に行われていて、不平不満は聞かれないということでした。

上司が後押し「何とかなるよ」

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オフィスで仕事をする戸泉さん(坂本亜由理撮影)

出版事業を中心に、教育事業も手がける「Gakken」は、2024年10月~2025年9月の「男性育休取得率」が100%でした。この数値は2028年の目標でしたが、前倒しで達成できたそうです。戸泉さんは、小中教育事業部に所属しています。普段は小中学校の教材の編集に携わっており、教材の企画を考える仕事などをされています。

戸泉さんは、千葉県木更津市在住。週3日は会社に来て、2日は在宅勤務という週が多いそうです。

国の制度も1カ月にした大きな要因

育休はどれくらい取りましたか?

男の子(第1子)が生まれ、今年の5月から6月にかけて約1カ月取りました。出産に立ち会いたいという思いが強く、出産から1週間ぐらい休めたらいいな、と思っていました。でも妊娠や出産について知るうち、出産後の体のこととか、生活のこととか、かなり大変と分かりました。出生後休業支援給付金という国の制度が4月から始まり、4週間は手取りが実質10割になるので、それも1カ月にした大きな要因です。

-会社への育休取得の申請は、いつしましたか?

上司に相談したのは1月で、会社に申請したのは3月です。夏に出る本の担当をしていて、5月から6月は、製作真っ最中でした。が、上司から「何とかなるよ」と言ってもらいました。その本を担当していながら休みに入ることについて迷いましたが、後押ししてもらえたのは、ありがたかったですね。

-育休を取ることに妻は何と。また期間中大変だったことは。

1カ月取れるのであれば、それは取ってほしいと。妻は保育士で、0歳児の保育の経験もあるので、最初は大丈夫という感じでした。が、私と同じように出産後をイメージするにつれ、いてくれた方が助かると。期間中、大変だったのは、寝かしつけることです。泣いている原因が分からないときは特に大変でした。座って抱っこするのは効果がなく、立って揺らし、気づいたら1時間やっていたこともあります。妻と交代で、どちらかが仮眠し、どちらかが付き添って。

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長男をあやす戸泉さん(本人提供)

-育休に入る前、事前に勉強など準備はしましたか。

生まれる直前、市の子育て支援センターで開かれたパパママ教室に2人で参加し、沐浴(もくよく)のやり方を教わりました。

気づいたら1カ月たっていた

-男性社員は、皆さん、育休を取っていますか?

本当に今はかなり進んでいると思います。三つぐらい上の先輩が1年ぐらい前に私と同じ1カ月取っていたので、自分も1カ月ぐらいは取れるのかな、と参考になりましたね。その先輩には「いつ上司に育休を取りたいと話をされましたか?」とか尋ね、相談しました。

-振り返って、もう1カ月取ればよかったとか、期間についてはどう思いましたか?

もう1回戻るとしたら、 3カ月ぐらい取れたらよかったかな、と思います。寝かしつけるのが落ち着いてきて、子どもが自分で 何となく寝られるようになったのが、4カ月入ってからだったので…。育休を取る前は、期間中、いろいろと自己研鑽(けんさん)できるかなと思っていたのですが、育児の合間に本を読むことくらいしかできませんでした。気づいたら1カ月たっていました。

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長男の誕生を祝う戸泉夫妻(本人提供)

-育休を取って夫婦の関係はどうなりましたか?

今まで一番感謝されました。妻は子どもが生まれてから日記を携帯アプリでつけているのですが、私の育休最終日に「心から感謝。育休取ってくれてありがとう」という言葉が書かれていて、取ってよかったと思います。

戸泉さんは、育休取得後、同じチームの人のサポートがあり、仕事にスムーズに戻れたそうです。後輩から育休取得について相談されたら、適切な期間は人それぞれであり、自分が取りたい期間を考えて取るのがいい、そう助言したいと話されていました。「Gakken」は、オンライン社内報や社内イントラを使って、取得者の体験談(事例紹介)や育休制度について精力的に情報を発信。相談窓口の代表アドレスも設けているそうです。

育休取得率は男女間で依然大きな差

男性の育児休業取得率は、厚生労働省の調査によると2024年度は40.5%でした。前年度の30.1%から大幅に増えましたが、80%を超える女性の取得率と比べて依然開きがあります。男性の取得率アップの要因の一つとしては、制度面の改善が進んだことがありそうです。

22年度には、1歳までの育休とは別に取得できる「産後パパ育休」が導入されました。また、今年4月からは、従業員1000人超の企業に義務付けられていた取得率公表が300人超まで拡大されました。

ただ男性の取得期間は女性に比べて短いなど、課題も多いようです。事業所を対象とした同省調査(2023年度)によると、復職した女性の育休期間は「12カ月~18カ月未満」が32.7%と最も高かったのですが、男性は「1カ月~3カ月未満」の28%が最も高い、という結果が出ています。職場環境を整えるなど一層の努力が求められているといえそうです。

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