「男性の家庭活躍」条例をつくる広島県の狙いは? 知事の育休に反対したのは意外な層だった〈みんなでもっと男性育児・下〉

条例化を目指す意図を話す広島県の湯崎英彦知事=広島県庁で
12日間、約20時間の育休取得
「女性活躍推進法に対応して、県として『男性活躍推進条例』の策定を検討したい」。記者会見でこう述べた湯崎知事。発言は地元のニュースなどで報じられ、話題を呼んだ。
湯崎知事は2010年に12日間、時間にして約20時間の育休を取った経験がある。厚生労働省の調査によると、当時の男性の育休取得率は1%程度という低水準で、知事という立場での取得も異例。それでも「社会的な意識を変えよう」という思いで判断した。
だが、取得には反対論もあった。特に多かったのは高齢女性からの抗議。「子育てを1人で担ってきた世代にとっては、自分を否定されたような気持ちになったんでしょう。女性は応援してくれると思ったんですが…」。家事育児は女性が担うという価値観の根強さに驚かされたという。
社会が変わるのに必要なこと
それから15年。男性の育休取得率は30.1%(2023年度)まで上昇し、取得が「当たり前」と言われる世の中になった。今後も積極的に取得する流れが続くと言われる中で、あえて条例を作る意味とは何なのか。
その問いの答えは「育休の中身や質の改善」だと湯崎知事は話す。いわゆる「取るだけ育休」や取得期間の短さが指摘される中で「男性がもっと家事や育児を担っていかないと本当の意味で社会が変わったとは言えない」と断言する。
2021年の国の社会生活基本調査によると、広島県の共働きの夫婦が家事育児にかける時間は、女性の方が男性よりも3.5倍ほど長いという結果が出た。背景にあるとみられるのは、知事が育休取得時にも感じた「根強いバイアス(思い込みや偏見)」だ。例えば、子どもに夕食を取らせるために午後5時に退勤する会社員がいるとする。「女性なら『どうぞ』と言われるところ、男性なら『何言ってるんだ』となるケースはまだあるのではないでしょうか」
役割をともに選べる環境に
育児の担い手だけでなく、会社や祖父母世代を含めた社会全体の意識を変えるために「個々人の問題に帰着させるのではなく、条例として社会的に推進する必要がある」と湯崎知事は力説する。「女性が家事や育児を担う家庭があるのは構わないが、役割をニュートラルに選べる環境は整えないといけない」
昨年6月に政府が発表した試算(内閣府Webサイト「女性の出産後の働き方による世帯の生涯可処分所得の変化(試算)について」)によると、女性が出産後に離職して再就職もしないケースと、正社員として仕事を続けた場合では、世帯の生涯可処分所得に約1.7億円の差が出るという結果が出た。
湯崎知事は「男女ともに家庭でも、職場でも活躍できるようになれば国内総生産(GDP)が上がり、経済的にも良い効果がある」と指摘。「所得の低さが子育てのネックになっていることも考えると、少子化の解消にも寄与するのではないか」と話している。
〈みんなでもっと男性育児〉育児に積極的な男性を指す「イクメン」が新語・流行語大賞に選ばれて15年。社会に浸透しつつある男性の育児や育休の現在地を取材します。
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