母子手帳もっとグローバル化 外国人の妊産婦向け、10言語版を製作へ
「便利だけど、読めない」の声に応えて
「何が書いてあるか読めなくて困った」。3人の娘を育てるブラジル出身のゴヤ・シモネさん(43)=神奈川県秦野市=は、日本語の母子健康手帳を手に振り返った。母国にはない母子手帳は「予防接種の予定など事前に分かって安心」と思うが、「外国人ママは中身が分からないと不安。母国語併記の手帳があればとても助かる」と話す。
現在、外国語と日本語併記の手帳は民間2社が発行。自治体が購入して妊婦に渡すが、すべての外国人妊産婦に対応できていない。
厚労省は「国としての正式版を出すことで対応に本腰を入れたい」と、調査研究事業として10言語版を製作。「在住外国人の9割に対応できる」触れ込みで、外国人妊産婦が窓口に来た時の対応・工夫など効果的な支援の事例も示す方針だ。
健診の多さ、訪問指導に戸惑う外国人も
「多言語化してからが重要。どれだけ寄り添って情報提供できるかがカギ」。外国人住民への支援を行う「かながわ国際交流財団」(横浜市)の福田久美子さんは指摘する。
「おなかが大きくなってから突然病院に来た。これでは分娩(ぶんべん)予約が取れない」(助産師)、「訪問指導で役所の人が家の中まで入ってきたと驚かれた」(保健師)-。外国人妊婦と接する職種の人に財団が聞き取り調査すると、こうした困惑の声が上がった。実際、健診の多さや保健師らが自宅に来る訪問指導に戸惑う外国人は多いという。
同財団は2016年以降、出産準備から小学校入学までの各種手続きや健診、予防接種などの流れをイラストなどで示したスペイン語やネパール語など7言語のチャート図を作った。さらに母子手帳の役割を解説した動画も7言語の字幕を付けて公開。今年2月には保健師や助産師、医師など外国人を支える職種向けのガイドブックも用意した。
福田さんは「現場で支援する人が『言葉や文化が違うから無理』とのバリアーを取らなければ」と話す。赤ちゃんは沐浴(もくよく)せずオイルを塗る(ネパール)など、各国の子育て文化を支援者側が知ることや、情報を伝えたいという気持ちをもって外国人コミュニティーを訪ねる重要性を訴える。
日本独自の制度 アジアなどに「輸出」
母子健康手帳は1942年に始まった「妊産婦手帳」がルーツ。妊産婦や新生児の死亡率を下げる目的で交付が定められた。現在は母子保健法に基づき、妊娠の届け出をした妊婦に市区町村が手渡す。近年は手帳と一緒に使うスマホアプリを導入する自治体も。日本独自の制度で、アジアやアフリカの国々に「輸出」され活用が広がっている。
外国語併記の手帳を編集協力している母子衛生研究会(東京)によると、95年に英語、中国語、韓国語の3種類でスタート。海外在留邦人家族を想定していたが、発行当初から日本にいる外国人の利用が多かったという。現在は9カ国語に対応。市区町村が購入した外国語併記の手帳は2010~17年の間、毎年約1万5000~2万2000部で推移している。
日本家族計画協会(東京)も1冊に6カ国語を併記した手帳を販売している。
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