国内唯一の母乳バンクが1周年 早産の赤ちゃん200人にミルクを届ける ドナー登録できる施設増やしたい

増井のぞみ (2021年10月20日付 東京新聞夕刊)
 母から授乳を受けられない早産の赤ちゃんに、寄付を受け安全に処理された母乳(ドナーミルク)を届ける「日本橋 母乳バンク」が東京都内にオープンして1年が経過した。現在国内唯一のバンクはこれまで、200人以上の小さな新生児にミルクを提供してきた。保護者や医療関係者からは母乳バンクへの感謝の声が上がる。
写真

冷凍庫に保存された出荷前のドナーミルク=東京都中央区の「日本橋 母乳バンク」で(ピジョン提供)

低温殺菌して冷凍保管、NICUへ発送

 「日本橋 母乳バンク」は昨年9月、医療関係者有志らでつくる一般社団法人「日本母乳バンク協会」が東京・日本橋にある育児用品メーカー「ピジョン」本社内に開設した。寄付された母乳を低温殺菌して冷凍保管し、提携する病院の新生児集中治療室(NICU)へ発送する。

 提供対象は早産などで1500グラム未満で生まれ、死別や新型コロナ感染などにより授乳を受けられなかったり、母の母乳が十分に出なかったりする赤ちゃん。今年8月末までの1年間で計217人にドナーミルク445リットルを届けた。

 2014年には国内初の母乳バンクが昭和大江東豊洲病院(江東区)でサービスを始めた。ただ、今年3月に新型コロナの影響で閉鎖。唯一のバンクとなった「日本橋 母乳バンク」はパート職員を増やすなどして人員体制を強化し、現在は10人が業務に当たる。

 母乳は消化しやすい形の栄養素や、病原体から体を守る免疫成分を含む。同協会によると、早産の赤ちゃんの命に関わる壊死(えし)性腸炎にかかるリスクを人工乳の約3分の1に下げる。

写真

「日本橋 母乳バンク」1周年記念イベントにオンライン参加した女児(右)と父親=ピジョン提供

528グラムで生まれた子が元気に成長

 9月末にはピジョン本社で1周年を祝うイベントが開かれ、ドナーミルクで育てられた関西在住の1歳5カ月の女の子と父親、医師がオンラインで参加した。

 母親はがんを患っており、北野病院(大阪市)で妊娠24週に帝王切開で528グラムの女児を出産。6日目に亡くなった。「めいちゃん」という愛称の女児は9日目から約3カ月間、昭和大病院の母乳バンクから送られたドナーミルクを飲んで育った。北野病院NICUの水本洋医師は「順調にミルクを増量してわずか1週間後に点滴栄養を卒業できたのは、ドナーミルクのおかげ」と振り返った。

 女児は生後半年ほどで退院してからも健やかに成長し、室内では父の後を元気に追いかけているという。父親は「善意で母乳を提供してくださったお母さんに感謝しています」と笑顔で話した。

写真

生後9日目にドナーミルクを飲み始めた女児=北野病院提供

登録施設17カ所「小さな命守る活動を」

 国内では現在、母乳を寄付するために検診を受けてドナー登録できるのは17カ所の医療機関に限られる。

 同協会代表理事で小児科医の水野克己・昭和大教授はこうした現状を念頭に「まずは登録施設を増やすのが課題。日本全体で小さな命を守っていく活動を続けていきたい」と抱負を語った。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2021年10月20日

0

なるほど!

0

グッときた

0

もやもや...

0

もっと
知りたい

すくすくボイス

この記事の感想をお聞かせください

/1000文字まで

編集チームがチェックの上で公開します。内容によっては非公開としたり、一部を削除したり、明らかな誤字等を修正させていただくことがあります。
投稿内容は、東京すくすくや東京新聞など、中日新聞社の運営・発行する媒体で掲載させていただく場合があります。

あなたへのおすすめ

PageTopへ