〈変わる乳児院・後編〉預けてよかった。親子で笑顔でいられるのは、あの半年があったから
退院しても一緒に暮らせず、悶々と…
2016年9月末、生後2カ月の長女を乳児院に預け、産後うつの治療で都内の病院に入院した滝沢友紀さん(51)。芸人の夫・秀一さん(45)は朝から晩まで仕事、当時3歳の長男は都内に住む義母の元へ。家族4人は一時的にバラバラに暮らしていた。
子どもの世話の心配から解放された友紀さんは、見る間に心身ともに回復した。「睡眠と食事を規則正しく取るだけで、こんなに元気になるんだ」と驚いた。翌月末に退院。その2日後には長男が義母の元から戻り、夫と3人の生活が再開した。ただ乳児院に預けた長女は段階的に家庭復帰を図るため、すぐには一緒に暮らせず、悶々とする日々が続いた。
長女と会えたのは退院の約10日後、11月の初めだった。乳児院で1月半ぶりに対面した長女は少し顔つきがが変わっていた。友紀さんは会うなり大泣きされ、「責められているように感じた」。面談後、乳児院の職員に抱かれて喜ぶ長女を見るのがつらく、泣きながら帰った。「退院したらすぐ元通りになると思っていた。いつ帰ってくるか先が見えず、苦しかった」
転機はお食い初め 娘への職員の愛情
暗い気持ちが吹っ切れたのは、乳児院が催した生後100日のお祝い「お食い初め」の日だった。尾頭付きのタイを前にニコニコ笑う長女。担当以外の職員も集まり、祝ってくれた。
「長女がこんな笑顔を見せられるのは、施設の職員に愛情を持って育ててもらっているから」。友紀さんは胸が熱くなり、初めて素直な感謝の気持ちが湧いた。「私もメソメソするのはやめよう。娘が泣いても私は笑顔で過ごして、『この人といると楽しい』と思ってもらおう」。長女は同年12月から自宅への外泊が始まり、翌年4月に完全に自宅に戻った。
あれから5年。長女は人懐っこい子に育ち、来春には小学生になる。「もし自分があのまま育てていたら、娘の成長を損ねてしまっていたかもしれない」。当時は幼い時期に離れて暮らしたことが、後の親子関係に暗い影を落とすのではと心配したが、杞憂だった。「乳児院に預けた、あの半年間があったからこそ、愛情深く子どもを育ててこられた」。感謝は尽きない。
乳児院は「地域の子育て拠点」 育児に戸惑う家庭にとって頼れる存在に
定期的に親子交流会 子育て相談も
東京都新宿区で、地元の社会福祉法人が運営する二葉乳児院。連日、午前10時の開所と同時に、「子育て広場」として開放する2階の一角を近隣に住む親子が訪れる。
1階の入所児の居住区域で、0歳児が昼食を取る頃、2階の交流スペースでは定期的に親子の交流会を開催。交流会は、0歳、1歳、2歳の年齢別に、月1~2回ずつ、1日10組限定の予約制で、職員が子育て相談を受ける時間も設けている。
都留和光院長(59)は「育児に戸惑う家庭にとって、乳児院が頼れる存在となることを目指している。子育てのスタート期から足を運んでもらえれば、つながりやすくなる」と話す。
幅広い事業で職員もスキルアップ
乳児院の職員は9割以上が女性。24時間、365日、年末年始もない体制で赤ちゃんを見守るため、職員の働き方は大きな課題だ。
「10年前は妊娠したら退職が当たり前だったが、今は子育てが落ち着くまでは日勤とし、キャリアを中断させない環境が整いつつある」と都留さん。子育て広場や里親支援など幅広い事業を行うことで、職員の技能も磨かれている。
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私も赤ちゃんと離れたくてすぐに保育園に頼りました。保育園に行ってくれて良かったと毎日思いました