東京の出産費用が高すぎる…在住でも2割以上が都外で出産、隣接3県へ 年収低いほど多く「”里帰り”だけとは考えにくい」

柚木まり

写真 赤ちゃん

 東京都在住の妊婦の2割以上が都外で子どもを産んでいることが、厚生労働省研究班の調査で分かりました。隣接する埼玉県、神奈川県、千葉各県での出産が多くなっています。出産費用の平均額は東京都が全国で最も高く、研究班は「年収の低いグループは大都市の高価な出産費用を避け、より安価な周辺地域に流出する傾向がある」と分析。2021年の出生数は、新型コロナ禍の影響もあって約81万人と過去最少となっており、地域ごとの経済的な負担感も踏まえた対策の必要性を指摘しています。

全国平均45万円、東京は56万円

 厚労省によると、2021年度の公的病院の出産費用の全国平均は約45万円。子どもを産んだ人に公的医療保険から原則42万円が支払われる「出産育児一時金」を上回りますが、東京都の公的病院の平均は約56万円に上ります。

 研究班は今年7月、全国の実態を把握するため、過去3年間に出産した人や妊婦1万2000人を対象に調査を実施。浮かび上がったのが東京都の特徴です。

 都外で出産した人の割合(流出率)は21.8%。流出先は埼玉県が最も多く、神奈川県、千葉県と続きました。世帯年収別の流出率は、300万円以上400万円未満が31.9%で、次いで400万円以上600万円未満の30.4%。800万円以上では18.7%でした。年収が低くなるにつれ、東京を離れて出産する傾向が浮かんでいます。

最も安い鳥取県では逆の傾向が

 生活保護受給世帯や住民税非課税世帯などの低所得層では、東京都が都内施設での出産費用を助成する制度などもあり、流出率に反映されにくい可能性があるということです。

 逆に、県外に住所がある人が出産した割合(流入率)は、平均額が最も安い鳥取県の32.8%が最高。多くは近隣県に住む人で、安価な地域を選んで出産する傾向が現れました。

表 都道府県別の平均出産費用(2021年度)と出産場所の状況

一時金の引き上げも重要だが…

 研究班代表の田倉智之東大特任教授は「東京都では経済的に地元での出産が難しく、より安い地域で出産している可能性がある。産科不足や県境が近いという理由だけではないと分析した」と説明。流出率や流入率には「里帰り出産」も含まれるが、「里帰りだけなら隣接3県だけ多いことは考えにくい」と指摘しました。

 岸田文雄首相は一時金を「大幅に増額する」と明言し、2023年度の実施に向け厚労省審議会で議論が進みます。田倉氏は「一時金を引き上げることは重要だが、経済的な負担感や出産経験に応じた多様な妊婦の要望とともに、子どもを持つことに不安を感じる人たちに寄り添う仕組みが必要だ」と求めました。

妊婦の苦悩「一時金で収まる分娩施設は遠方しかない」 高額の出産費用が少子化の一因に

 「出産育児一時金の範囲内で収まるところを探したが遠方しかなかった。出産の際に間に合うのかという不安と通院の負担がある」

 出産費用の無償化を求め、オンラインで署名活動を展開する市民団体「子どもと家族のための緊急提言プロジェクト」には、経済的な理由で自宅から離れた分娩施設を選ばざるを得ない妊産婦らが切実な声を寄せています。東京都内の高額費用を嘆く意見も多く、練馬区で出産し、約90万円かかった30代女性は「個室代など環境による格差は仕方ないが、一時金の額が全国一律なのは不平等に感じる」と訴えます。

 日本では妊娠・出産は病気ではないとして、帝王切開が必要な場合などを除き医療保険の対象外。各施設が自由に価格を設定できるため、人件費の上昇や高齢出産の増加によって高額化が進んでいます。一時金の増額に合わせて値上げする「いたちごっこ」も背景にあります。

 出産や子育てにかかる負担の重さが、妊娠や出産に二の足を踏ませる一因に挙げられます。分娩施設が遠くなれば、出産時のリスクも高まります。政府は総合経済対策として、妊娠期を支援する制度を創設し、来年から妊産婦に計10万円相当を給付することを決めました。

 プロジェクトの佐藤拓代共同代表は「このままでは年間の出生数は80万人を切るかもしれない。今、利用者目線で仕組みを変えなければ、少子化は進むばかりだ」と訴えています。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2022年11月14日

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  • ママ says:

    現在3人目の出産を控えていますが、2人目、3人目、の出産となるごとに当然母親の年齢も上がる為、大学病院やNICU完備の病院で安全に出産したいと考えるのですが、医療設備の整った都内の病院はあまりにも高額すぎます。

    出産一時間50万を差し引いても自己負担額100万前後します。これでは少子化が進むのは無理のない話です。

    一時金を増額すればするだけ。イタチごっこは終わりません。一時金増額→病院側も分娩費用増額→これにより、その他の新生児管理料や処置料も値上されていってしまう為。出産する側の自己負担額が増すばかりです。一時金でまかなえているのは分娩費用にすぎません。(都内はまかなえません) 

    出産日にかかる費用の無償化にして欲しいです。ちゃんと無痛分娩や新生児管理保育料、新生児検査料、分娩処置料なども、保険適用範囲に入れて欲しいです。

    産前産後に支給される子育て用品に交換できるだけの5万円クーポンなんていりません。確実に出産費用としてあてられるように対策し直して欲しいです。

    ママ 女性 30代
  • えいこ says:

    ①80万 実家のある川崎市で。自然分娩。大部屋は、65万からでした。
    友人から出産直後に自由に好きなだけトイレいけないと不自由すると指摘され、個室にしました。
    食事は豪華で、マッサージなどもありました。
    ②ない。
    ③出産一時金を大幅に増やしたら産院が、値上げするだけだと思います。原則、出産無償化しては?
    出産時も高いけど、毎月の検診代も高かったです。毎回万札が、入っていないと不安になる値段でした。毎月の検診に、8000円~費用が、かかっていたと思います。

    えいこ 女性 40代
  • 匿名 says:

    ①65万円。大部屋で、お祝い膳やマッサージもなしでした。都内ですが、居住区内に3ヶ所の大きな病院しか分娩施設がなく、産科クリニックや助産院などの選択肢はありませんでした。
    ②ない
    ③80万円。無痛分娩は大部屋でもその値段だったから。

     女性 40代
  • むーむー says:

    ①大学病院で総額55万ほど。管理入院からの自然分娩ではあったが、出産一時金では足が出た。
    ②ない
    ③増額しても病院が様々な付帯サービスをつけて値上げするだけだと思う。出産だけで言えば60万ほどで、病院が値上げを計っても足は出ないのではと思う。一時金より出産を保険適用にするほうが良いと思う。

    むーむー 男性 30代
  • シカゴリラ says:

    出産に伴う費用は60万円くらいだったと思います。無痛分娩を選択したことや差額ベッド代がかかったことが費用の上乗せになりました。

    経済的な負担を減らすために遠方の施設を選ぶということはありませんでした。

    出産にかかる費用を全額出してくれるのはありがたいです。

    シカゴリラ 男性 30代
  • めーぷる says:

    都内在住だが実家のある青森で産んだ。綺麗な産院でアロママッサージや豪華なお祝い膳、ニューボーンフォトなども撮ってくれ、個室代・休日加算を入れても40万ちょっと。都内の住居から近い病院だと大部屋で65万〜だったので、交通費や実家へのお礼を入れてもだいぶ安く済んだ。
    もし2人目を都内で産むとしたら、最低でも50万以上の補助がないと厳しいと思う。

    めーぷる 女性 20代

出産をめぐる経済的負担について、ぜひ読者の皆さんの実情やご意見をお寄せ下さい。

①出産経験がある方は、実際にどのくらいの費用がかかりましたか。

②経済的な負担を減らすため、里帰り出産や自宅から離れた施設を選んだことはありますか。

③岸田首相は出産育児一時金(原則42万円)の「大幅な増額」を約束しています。あなたが十分だと思う金額を教えてください。

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