出産費用ゼロは実現するか 少子化対策試案に「保険適用の検討」、自民議連が無償化を提言 課題は20万円もの地域格差

(2023年4月22日付 東京新聞朝刊)

新生児の写真

 政府が従来慎重だった出産(正常分娩)費用の「無償化」が現実味を帯び始めている。少子化対策のたたき台(試案)に医療保険適用の検討が明記され、岸田文雄首相は保険適用した場合に自己負担が生じないようにする考えを示唆。実現すれば、現行の出産育児一時金より負担軽減になるとみられるが、課題も横たわる。

「財布の要らない出産」 一時金だけでは…

 「負担軽減をしっかり進めていかなければならない」。首相は11日、自民党の「出産費用等の負担軽減を進める議員連盟」から無償化を求める提言を受け取ると、そう応じた。保険適用と同時に「無償化」に転換するというのが議連の主張。会長の小渕優子元経済産業相は記者団に「目指すのは財布の要らない出産」と強調した。

 出産費用を補助する現行の出産一時金は、4月に42万円から50万円に引き上げられた。財源は、75歳以上の医療保険料引き上げなどで確保し、関連の健康保険法改正案などは衆院を通過している。

 それでも議連が保険適用と無償化を主張するのは、今の自由診療のもとでは、地域や医療機関で出産費用が大きく異なり、全国一律の一時金ではカバーしきれないとの考えからだ。

平均は?東京で56万円、鳥取で35万円

 厚生労働省の2021年度の調査では、公的病院の平均出産費用の最高は東京都の約56万円。最低の鳥取県の約35万円との格差は20万円以上ある。

表 公的病院の都道府県別の平均出産費用(正常分娩)

 民間病院の方が高額になる傾向や、一時金が増額されると便乗値上げが広がるとの指摘もあり、都市部を中心に自己負担が生じるケースが多いのが現実。子育て政策の提言に取り組む識者らの「子どもと家族のための緊急提言プロジェクト」がウェブ上で昨年実施したアンケートでは「子育ては経済的負担が大きいから、せめて出産前後の負担をなくしてほしい」との意見が相次いで寄せられた。

 無償化する場合、保険適用で分娩費などの診療報酬を設定し、価格を標準化した上で、原則3割の自己負担分を国が補助する仕組みが想定される。自民党の推進派は、出産時の痛みを麻酔で和らげられるが、5万~20万円の追加費用がかかるとされる無痛分娩への保険適用も求めている。

格差が大きく、適正な費用を決めにくい

 だが、保険適用の課題を指摘する声もある。例えば出産費用の格差が大きい中で、いくらが標準として適正なのかは簡単に答えが出そうもない。

写真 マタニティマーク

 保険の範囲内という「足かせ」により、高度な検査を望む場合など、妊産婦ごとの多様なニーズに柔軟に対応できなくなるとの懸念もある。提言プロジェクトの榊原智子事務局長は「付加価値のあるサービスを望む妊産婦には、自己負担の選択肢を残す『原則無償化』を求めたい」と話す。

 標準化する医療サービスの価格次第では、都市部を中心に減収となり、産科から撤退する病院が続出しかねないとの見方もある。厚労省は来年4月から、医療機関ごとの出産費やサービス内容を一覧できる「見える化」を進める。政府はこうしたデータをもとに、2026年度の保険適用も視野に検討を進めたい考えだ。

◇出産費用について、みなさんの体験談やご意見をコメントで募集しています。こちらの関連記事の下に投稿欄があります。

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元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年4月22日

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