〈坂本美雨さんの子育て日記〉41・思わず声を荒げた日 怒りの底に見つけた、自分のズルさ

(2020年6月26日付 東京新聞朝刊)

坂本美雨さんの子育て日記

写真

20代の頃に見つけたペンギン柄のコート。やっと娘にピッタリに

独身時代から収集 子ども服大好き

 わたしは子ども服が大好きで、ネットで子ども服パトロールをするのは至福の時。独身で子どもを産む気配もない頃から服を買っていて、友人に心配されたものだった。20代の頃フリーマーケットで見つけたペンギン柄のコートを大事に保管し、ついに去年の冬、娘がぴったりのサイズになった時には感慨深かった。ソニアリキエルのもので、たしか500円。10年以上たって娘が着ましたよ!と、そのお母さんに伝えたい。GAPでひとめぼれしたネコ柄ブラウスは、サイズアウトした時のことまで考えて2サイズ買ったのだった。これももちろん独身の時。


〈前回はこちら〉40・「ママみたいに上手じゃないから…」自分を卑下するのも成長の過程


そのへんにポイッとされ、反射的に

 先日のこと、娘が気に入って履いていたミニーちゃんの靴がベランダに放置してあった。もうサイズも小さかったので「バイバイしようね」と言った途端、彼女がそのへんにポイッと投げたのだった。反射的に、声を荒らげている自分がいた。理解ができなかった。あんなに好きで履いていたのに、なぜ捨てる時にそんな乱暴なやり方なのか。とっておきたいと思わないのか? だとしたらあなたの好きとか大事とかっていったいなんなの? と、その瞬間はうまく言葉にできなかったがそんな思いがかけめぐり、悲しかった。

正義を盾に、執着を押しつけていた

 わたしは娘の服をお下がりできずやむなく処分する時は必ず「お世話になりました、ありがとうね」と口に出し、本人やオットにまでありがとうと声をかけさせてから捨てるのが習慣になっている。それはわたしが特別物を大事にする性格というわけではなくて、思い出に対する儀式のようなものなのだ。そんな習慣も娘は知ってるはずなのに、なぜ!と思うとさらにいら立ち、必要以上に厳しく怒ってしまった。そしてもちろんその後、自己嫌悪に陥った。

 4歳の彼女にとって、好きだったことと、最後まで大事にすること、は直結していないだろう。好きだったことはとっくに薄れていたかも、それとも好きだったからこそ別れと向き合わないためにわざと投げ捨てたのかもしれない。真意を知ろうとする前に、自分の思い出や執着を押しつけて勝手に裏切られたような気がして怒ったのではなかったか。しかも嫌になるのは「物を大事にすることを教えるべきだ」という正義を無意識に盾にしていたことだ。こうして自分の心を解いていくと無意識のズルさ、弱さが現れる。毎日娘は教えてくれる、わたしのことを。 (ミュージシャン)

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なるほど!

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グッときた

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もやもや...

1

もっと
知りたい

すくすくボイス

  • 匿名 says:

    子どもは自分の鏡ですね。本当に。毎日が修行です。

      
  • 匿名 says:

    もう少し早くこの記事と出逢いたかったと心から思います。そうしたら子供に教えてあげる事も自分にも周りにも違った接し方が出来たのではないか、気持ちにゆとりがあったのではないかと、、。
    夫の協力が無かったのでご主人とのやり取りも羨ましい限りです。

      
  • 匿名 says:

    佳い記事ですね。すごく考えさせられました。私は子供がいないので、自分の子供時代のことを振り返りまた母の気持ちをすごく考えさせられました。自分が子供の時は、すごく執着をしてものすごく大切にしているものが多分複数個あって、それ以外のものは大切だし好きだけど、執着まではしていない、というか。つまり愛情の対象にまではなっていなかったのではないかと思い出します。恵まれて育ったのでモノがとにかく大量にあり、結果、母の期待通りに全てを大切にするような事は子供の手に負えるものではありませんでした。でもすごく大切にしていたぬいぐるみは「愛情の」対象だったようで、失くした時は、ショック過ぎでしたし、というかいまだにその喪失感から立ち直れていないような。今年53歳になりましたがその時の事を思い出すと悔しさでかなり折れたような気持ちになります。大量に何でもある場合しかも豊かにまた変えたりするお家の場合、子供の愛情の対象にまでなっているものは実際には少なく、しかしその何点かのものは確実に執着の対象愛情の対象になって、子供は何かをそこから学んでいると思います。それはもしかすると子供の心の成長に何らかの良い影響や悪い影響が考えられるのではないかと思います。私の母は若い時にかなりヒステリックで私のぬいぐるみを取り上げて「こんなものがあるからお前はダメになるんだ」と言ってぬいぐるみにひどい暴力をふるって遠くに投げたり叩いたりいたしました。あなた様はそんな事はなさらないように。後年私は感情のコントロールができなくなって母から一定以上のストレスを受けるとどうしても暴力を振るうようになってしまって、逮捕されたことがあります。未だにメンヘルでしか無いです。

      
  • 匿名 says:

    そんなもんですよね。私の娘は顔は似てるけど、性格は違う。怒りがあった時期もあったけど、彼女と私は違うんだと思うことで、彼女の成長を待つことにしました。by Eric Plankton

      
  • 匿名 says:

    私にも5歳の娘がいます。同じような事をされたら、わたしも怒ります。その後どうしてそうしたのか娘に聞くと思いますが、物は大切に扱わなければいけないとお説教します。4歳児なら言っている意味はわかると思います。

      

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