哲学者 河野哲也さん 子どもはびっくりするほど世界を鋭く観察し、深く対話する力がある

(2025年12月21日付 東京新聞朝刊)

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河野哲也さん(坂本亜由理撮影)

カット・家族のこと話そう

各界で活躍する著名人が家族との思い出深いエピーソードを語るコーナーです

「どんな人間に育てたい?」妻と一致

 子どものころから、虫をつかまえて図鑑を広げるなど、何か調べたり考えたりすることが好きでした。両親には自由に育ててもらいましたね。普通のサラリーマン家庭で、勉強しろと言われたことはないです。おもちゃを買ってもらった記憶はほとんどないですが、本はいくらでも買ってくれました。もう社会人の息子が2人いますが、子どもたちにも同じようにしました。

 僕は宇宙論が好きで、物理学の勉強がしたいと思っていました。でも中2の時に、光の速度は秒速30万キロという数字に根拠がないと考えたんです。父親に話してみたら「事実がどうしてそうなっているかを調べるのは物理じゃない。哲学だな」と。本棚にあったプラトンの本を渡されました。めちゃくちゃ面白かったので、以来はまり続けました。「大学で哲学をやろうと思う」と伝えたら、「もうからないと思うけどね」と笑っていました。

 子どもの教育方針について、妻と話したのは一度だけです。「どんな人間に育てたい?」と僕が聞いた時、妻の答えは「ジャン・バルジャンみたいな人がいい」。思っていた通りのことを言われたので、心を読まれたようで、さすがに驚きました。苦労したけれど、それを恨みと思わずに人格者となるイメージです。

 僕は子どもに細かいことを言わないので、妻からみると、子どもたちを放置しているとしか思えなかったかもしれません。僕としては、子どもに好きなことをしてほしいと思っていました。生まれた時に「この人(子)は完璧で、もう何もすることはないな」と考えたからです。

失敗しても楽天的でいられるように

 全国の学校を訪れ、子どもたちと哲学対話を実践してきて、その思いを強くしています。子どもは思考力が未熟だと考える人もいるでしょうが、真剣に人生を生きています。ある小学校で「はげ」をテーマにしたいと声が上がり、理由を尋ねると「なぜ年をとるとはげるのか知りたい」と言います。

 そこには自分の体が成長し変化することへの不思議さと不安を感じていることが読み取れました。他の児童から「はげをばかにするのは差別だ」と声が上がり、「どうしてはげると差別されるのか」をテーマにしました。子どもはびっくりするほど世界を鋭く観察し、友達と深い対話を展開することができます。

 息子たちには、習い事など何かをさせようとしたことはありません。人間関係が楽しければいいし、趣味があればいい。稼ぎはあったらあったでいいけど、なければないで何とかなる。僕自身、人生の階段を上がろうとは思っていない。自分の人生に大きく期待していないということですかね。失敗しても別にいいやと楽天的でいられることが大事で、そういうスタンスの方が何かやってみようと思うじゃないですか。

河野哲也(こうの・てつや)

 1963年、東京都出身。立教大学文学部教育学科教授。専門は哲学・教育哲学。NPO法人「こども哲学 おとな哲学アーダコーダ」副代表理事。「じぶんで考えじぶんで話せるこどもを育てる哲学レッスン」(河出書房新社)など著書多数。東京都江戸川区の子ども未来館が主催する小学生向け哲学対話で講師を務める。

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