こども哲学って何するの? 変化がめまぐるしいAI時代に自分で考える力を 「アーダコーダ」の教室で魅力を探った

みんなでサークルになって対話する。お菓子を食べながら和やかな雰囲気=台東区で(川上智世撮影)
自分の思いが揺らぐと楽しい
NPO法人「こども哲学・おとな哲学 アーダコーダ」(神奈川県藤沢市)のこども哲学教室ソフィー。オンラインで毎月開くが、4月は久しぶりに対面で行った。4歳の頃から常連の子や初参加の子ら6~11歳の10人が集まった。みんなに呼ばれたい「フィロソフィー(哲学)ネーム」を書いた名札を着けて参加する。自分の名前から離れることで、客観的に物事を捉えられる効果もあるという。
「今日は初めての子もいるから…哲学対話って何するの?」。法人の理事でファシリテーターの盛岡千帆さんが問いかけると、子どもたちから次々と声が上がった。
いく 「答えのない問いをみんなで話す!」
あおい「ん~…もともと自分が持っていた考えを人の意見を聞いて考え直したり…」
ひなた「自分の意見が変わるのを楽しむ!」
別のファシリテーターが、「変わらなくてもいいかも。時には変わらないこともあるよね」と言葉を添えた。

発言したくて挙手する子も
答えは出なくても、それでいい
この日、話し合うテーマは、これまでのソフィーで子どもたちが挙げた中から選んだ。①戦争と平和「なぜ争うの」「どうすれば平和になる?」②SNSとの付き合い方「自分をよく見せるためにウソをつくのは悪いこと?」「自分から見た自分、他人から見た自分、本当の自分ってなんだろう?」③AIの進化「もしAIが感情を持ったら『生きている』と言えるかな?」の中から、全員が手を挙げたのはAIだった。
話す人は、ぬいぐるみを手にする。今、話している人に周りが集中しやすくするためだ。みんなが進め方を理解し、哲学対話が始まった。

話す人が手にするぬいぐるみ。周りが話す人に集中したり、持つ人が安心したりする効果もある
いく「人間は死んだらお墓に入れられる。大切に保管される。ロボットは捨てられて、またそっくり同じように作られるから、死はない…?」
ゆき「ロボットは大切にされることは少ないとは言えないけど、人間より価値が低い。人間は生きているから価値が高い気がする」
ひなた「プログラミングされたロボットの感情は、感情って言えるのかな」
あおい「赤ちゃんが感情を持つのは本能的なもの。うれしい、悲しいをAIに表現させるのとちょっと違うのでは」
さまざまな角度からの意見が飛び交った。時には「う~ん…」と言葉を探す子も。ぬいぐるみを手にする人をみんなで静かに待つのも大切なルールだ。初めて参加した小学1年のコペルさんも「プログラミングって何?」と果敢に質問していた。
あっという間に予定の2時間が過ぎた。答えは出なかったが、それでいい。最後に感想を言い合うと、「答えは出なかったけど、他の人の意見が知れてよかった」「みんなたくさん意見が出てて、たくさん考えられた。またやりたいなって」と、どの子も楽しめたようだった。

難しいテーマだけれど、自分の考えをひねり出すのは楽しそうだった
みんなが意見を広げてくれる
小学6年のフィロソフィーネーム・こうたろうさんは、「考えることは楽しい。考えると疑問が湧く。次々考えるのが楽しい」とうれしそう。「学校では算数の答えが違うと否定されるけど、哲学対話にはそれがない。ちゃんと自分の意見をみんなが受け止め、それを広げてくれるのが楽しい」と魅力を語る。
小6のあおいさんの母、山岸美和子さん(42)は、あおいさんに「聞かないで」と言われるので、教室の外で待っていたそう。「本当は、どんなことを話しているのか聞きたいんですけど、娘だけの空間を大事にしてあげたい。自分の世界観が強い子で、大人に合わせる気持ちも強い。『こういうこと考えていていいんだ』と自分の思いを受け止めてもらえることで、自己肯定感が高まっているようです」と目を細める。
年中の4歳のころからソフィーに参加している小5のいくさんの母、佐藤文(あや)さん(45)は、「4歳でも当時は言いたいことを言う感じで、本人は楽しんでいたようです。年齢が上がるごとに人の意見を聞いて、考えて、掛け合いも上手になったなと思います」と振り返る。

意見を言ったり、話を聞いたりする子どもたち
AIが進化する時代だからこそ
小1のコペルさんの父、柳雅樹さん(37)は、「絶対、話聞いてないだろうなと思ってましたが、自分の意見を持っていてびっくりしました」と感激した様子。「AIが発展して、めまぐるしく社会が進化する中、彼に残せる大事なことって何だろうと思って、参加しました。本質的な問いを自分で立てて、考えて行動する力をつけるために、今後も対話の機会を持てたらいいですね」と話す。
こども哲学は、1970年代に、米国コロンビア大哲学科の教授マシュー・リップマンが独自の哲学小説を基に始めた。アーダコーダは正解のない問いについて「あーだこーだ」と話し合い、考えを深める時間を通じて「一人ひとりを尊重し、自由に考え、対話できる社会」を目指し、2014年に設立された。
近年、国内の学校にも広がっている。2015年に先駆けて導入したのは、お茶の水女子大附属小学校(東京都文京区)。長く教科外活動だった道徳が教科化されるのをきっかけに、「子どもが当たり前と感じている概念を見つめ直すことで、学びの力が伸びるのでは」と、新教科「てつがく」を始めた。
3年生以上が原則週1回、担任教諭と実践する。片山守道副校長は「言われたことをやらされるのではなく、意味を考えて取り組む力が育まれる」と話す。同校を視察に訪れ、導入した他校も複数ある。アーダコーダに出前講座を依頼する学校も増えているという。盛岡さんは、「幼少期に誰もが経験する『なぜなぜ期』を何歳になっても大切にしてほしい」と願う。
なるほど!
グッときた
もやもや...
もっと
知りたい
この活動に心から感動した。たくさんの子供や大人にこの活動を知ってもらいたい、体験してもらいたいと思いました。自分の意見を小さくても言う。そして、人の意見を聞く。とても大切な課題であることに気がつく素敵な記事ですね!ありがとうございました。
子どもの頃、死んだらどうなっちゃうんだろう?とか、何も無いって、どんだろう?って答えの無い問いを一人で考えていた事を思い出しました。
大人になるとついつい、答えばかりを探してしまいますが、またそんな答えの無い問いをしてみたいと思いました。
また、子ども達にも、考える力を身につけさせるのに哲学対話はとても興味深いです。
小さい頃からいろいろな考えにふれ、自分の意見を持ち、発表出来て、みんなに受け入れてもらえ、広げてもらえることを楽しめる、とても貴重な経験ですね!あーだこーだ言い合える場、大人でも必要ですね。まずは家庭内から、そしてお友達ともいろいろ話し合えたら良いなと、思います。
自分の考えを受け止めて広げてくれるのが楽しい!そんな時間を過ごせる「こども哲学」だからこそ次第に相手の話も大切に扱えるようになるのだと感じました。
今の日本の教育にはとても大切で貴重な考え方であり、活動です。「言われたことをやらされるのではなく…」こういう考えを持つ教育関係者が増えて欲しいです。
本当に素敵な活動&記事で、感謝です。哲学対話はたぶん何才からでも大丈夫です。
色々な事を沢山の角度から沢山の考えを知る事が出来る!なんて、、、。素敵な大人になれる予感しかありません。なるほど!なるほど!!と、考えさせられました。
「自分の思いが揺らぐと楽しい」ということばがとっても好きだなと思いました。対話の中でのゆらぎをお互いに楽しんでいける空間、素敵だなと思います。
考える機会がだんだん減っているこの世の中で、考えるためだけに対話の時間を設けるのはすごいなと思う。じっくり考えて、聞いて、感じて話して…。私も小さい頃にやってみたかった!
このような場がもっと増えてほしいなと思います!素敵な記事をありがとうございます。