15歳の無念の答辞 政治判断だったコロナ一斉休校、その功罪をうやむやにしてはいけない

杉戸祐子 (2020年12月20日付 東京新聞朝刊)
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感染予防のため保護者や在校生は参加せず、卒業生の座席を離した状態で行われた卒業式=3月11日、横浜市戸塚区で

 新型コロナによる一斉休校で学校現場が大きく揺れた2020年。取材した横浜支局の杉戸祐子記者が振り返りました。

3カ月間の空白 子どもへの影響は 

 3月11日、横浜市戸塚区の市立中学校で行われた卒業式。会場に保護者や在校生の姿はない。間隔を空けて置かれたいす。マスク姿で入場する卒業生を迎えたのは、教員だけだった。

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、政府は2月末、「政治判断」として全国一斉の臨時休校を要請。生徒たちは最後の日々を一緒に過ごせないまま、門出の日を迎えた。「ニュースで突き付けられた休校要請。(翌日)登校して先生の涙ぐんだ表情を見ると、心臓をキュっと握られたように苦しくなりました」。無念に満ちた15歳の答辞が胸に刺さった。

 休校は神奈川県内の大半の学校で5月末まで延長され、子どもたちは3カ月間、「個」に分離された。ゲームやネット動画に没頭する子がいた。家庭学習が進まない子もいた。家庭内の虐待の芽も見えづらくなった。小学校教諭らは「ちょっとした変化に気付いてあげられない」「再開後に周囲と関わり合って生活できるのか」と懸念を募らせた。

 影響は学校以外にも及んだ。国は休校と同時に、留守世帯の子どもを預かる保育施設や学童保育などには開所するよう求めた。医療従事者らが働き続けられるようにする目的だったが、時には学校以上に「密」になる預かりの現場には負担が重くのしかかった。マスクや手指の消毒液が不足する中、保育園などから「ウイルスを持ち込まないために最低限必要な物資も滞り、安全が保障できない」と悲痛な声が上がった。

苦悩は続く 不登校が増えた学校も 

 学校再開から半年、感染予防策をとりながらの集団生活は日常になったが、現場の苦悩は続く。マスクの着用や消毒作業だけではない。ある小学校教諭は「子どもはくっつき合って育つものだが、どのぐらい接触させていいのか。何かあったら責められるんじゃないか」と悩む。横浜市内の「放課後キッズクラブ」の関係者も「職員から感染を出しちゃいけないという責任は常に感じる」と漏らす。

 日本教職員組合が8~9月に全国の小中高校などに行った調査によると、学校再開後の不登校や保健室登校について「増えた」という回答が23%。最初に緊急事態宣言の対象になった神奈川を含む7都府県は27%に上った。学校が再開されたが、すべてが元通りとはいかない。3カ月の空白は今も、市井の一人一人に影を落としている。

 3月の卒業式で、代表生徒は答辞をこう結んだ。「またいつか、笑顔で、納得いく形で、同じ扉を開く日を待っています」。うやむやにすることなく「政治判断」の功罪を検証し、残された負の要素に必要な手を施し続ける。若い世代に「納得」をもたらすのも政治の責任だ。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2020年12月20日

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