不登校でも、世の中が正しくて自分が間違っているわけじゃない 17歳で「世の中の孤独を解消しよう」と決意したロボット開発研究者・吉藤オリィさん

長田真由美 (2021年7月23日付 東京新聞朝刊)

不登校の先に

「分身ロボットカフェ」で接客するオリヒメの隣に立つ吉藤さん=6月、東京・日本橋で

 「自分なんかいない方がいいんじゃないか、と苦しく、つらかった」。ロボット開発研究者の吉藤オリィさん(33)は、不登校だった小学5年からの3年半を振り返る。とにかく「孤独」だったという。17歳の時、「世の中の人の孤独を解消するため、残りの人生を使おう」と決めた。連載「不登校の先に」の最終回は、不登校の先に見つけた道を歩む吉藤さんの思いを聞いた。 

4年生のころから、なじめなくなった

 -学校を休みがちになったのは小学5年の冬。何がきっかけだったのか。

 もともと教室でじっとしているのが嫌い。でも、工作や折り紙が好きで、低学年の時は私が作ったもので友達が遊び、クラスの中心にいた。ただ、周りが精神的に大人びてきた4年生ごろからなじめなくなった。そんな時、好きだった祖父が亡くなり、ストレスから検査入院。2週間休んだら急に行きづらくなった。

 生まれ育ったのは奈良県の小さな村。最初は両親も世間体を気にして、学校に行くように言ったことも。ただ、毎日おなかが痛くて吐いたりする姿に「健康でいてくれたら、親としてはそれで十分」と変わったよう。私も気が楽になりました。

ロボットコンテストへの参加が転機に

 -高校への進学は、ある先生との出会いがきっかけと聞いた。

 両親はいろんなことをやらせてくれた。ミニバスケットボールやピアノ、体操教室、無人島でのキャンプ…。その一つがロボットコンテストへの参加だった。虫型ロボットを組み立て、ゴールへ向けて動くようにする。本格的にプログラミングをするのは初めてだったが、中学1年の夏、偶然にも大会で優勝。それから改良を重ね、1年後、優勝した人が集まった大阪の大会では決勝戦で負けた。でも、人生で初めて「努力が報われた」と思ったし、「1位になれなくて悔しい」という感情も生まれました。

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ロボット開発研究社の吉藤オリィさん

 その会場で出合ったのが、当時、奈良県立王寺工業高校にいた久保田憲司先生が作ったロボット。ロボットが一輪車をこいで動くのを見て、衝撃を受けた。この人に弟子入りすれば、もっとすごいロボットを作れるかもと思った。

 それまでの私は、勉強する目的がなかった。でも「先生のいる学校に行きたい」と決めた後は、少しずつ中学校に行くように。制服を着るのも嫌だったが、以前ほどは気にならなくなった。「出会いや憧れは人生を変える」と思っています。

本当につらかった だから分かること

 -海外の高校生との出会いが将来の道を決めた。

 先生のいる学校に入り、ものづくりの面白さに夢中になった。高校2年の時には、安全で快適な次世代型車いすを開発し、全国の高校生らが集まる科学技術チャレンジ(JSEC)で優勝。翌年の世界大会で、海外の高校生が「俺は、科学の研究をするために生まれてきた」と言うのを聞いて驚いたし、新鮮にも思った。自分は何をしたいのかと考えるようになりました。

 学校に行かなかった3年半、本当につらかった。家族に迷惑をかけている自覚があり、「死んでしまいたい」と思ったことも。誰からも必要とされず孤独だった。

 でも、そんな人は、きっと私だけじゃない。孤独という状態からどうしたら解放されるか。これなら私も研究できると思った。それでできたのが、例えば寝たきりの人が遠隔操作をして人と出会える「OriHime(オリヒメ)」です。

 世の中に正解はない。不登校で学校に行けない子は、高齢や難病などで外出できない人の気持ちが、他の人より分かるかもしれない。世の中が正しくて、自分が間違っているわけじゃない。そのことに、いつか気が付いてもらえたら。

吉藤オリィ(よしふじ・おりぃ)

 1987年、奈良県生まれ。次世代電動車いすの開発で、高校3年の時に出場した世界最大の科学コンテスト、インテル国際学生科学技術フェア(ISEF)でグランドアワード3位を受賞。2010年、オリヒメを生み出し、2012年にオリィ研究所を設立した。今年6月、寝たきりで外出が難しい人が操作したオリヒメが接客する「分身ロボットカフェ」が東京・日本橋にオープンした。

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