【子どもの視力を守るには・下】近視の原因は遺伝?環境? ゲーム禁止は有効? 眼科医・窪田良さんに聞く

(2024年10月9日付 東京新聞朝刊に一部加筆)

子どもの視力低下予防に力を入れる眼科医の窪田良さん=いずれも東京都港区で

 子どもの目が悪くなり始めた-。学校の視力検査や就学前健診でわが子の視力低下が分かると、心配する保護者は、ゲームや動画視聴などを厳しく制限することも。一方で、「遺伝だから仕方ない」と諦めモードの保護者もいる。そもそも視力低下の原因は遺伝なのか、環境なのか。低下や進行を防ぐためには、どうしたらよいのか。保護者が抱く疑問を、子どもの視力低下予防に力を入れる眼科医で「近視は病気です」(東洋経済新報社)の著書もある窪田良さん(57)にぶつけた。

近見作業を避けるより、外遊びを増やして

ー視力低下の原因は、遺伝なのか環境なのか?

 両方だが、80%は環境だといわれている。近視の親の子がなりやすい可能性はあるが、近視の小学生の割合は、1979年度の17.9%から2022年度の37.9%と約40年で倍増した。本来、遺伝子は50万年~100万年単位で変化するもの。この増加率から、遺伝以上に環境が視力に影響を及ぼしていると分かる。現に、子どもの外遊び時間が減り、屋内でデジタル端末との接触時間が増えたコロナ禍の期間は、子どもの視力低下が進んだ。

窪田良さん著「近視は病気です」(東洋経済新報社)

ー近視の進行を防ぐには。

 ゲームや読書、勉強など、近い距離で目を酷使する作業が視力低下の原因だといわれてきた。もちろんこれらが原因の一つであることに変わりはないが、近年の研究では、近見(きんけん)作業(近くを見る作業)以上に、屋内でばかり過ごすことがより深刻な影響を及ぼすことが分かってきた。つまり、ゲームや動画視聴などの近見作業を避けるより、外遊びの時間を増やす方がはるかに有効ということだ。

「1日2時間の屋外活動」確保するために

ー近年、新たに分かってきたことは。

 20歳以下の約8割が近視の台湾では、10年ほど前から近視予防の研究が進み、「週11時間以上、1000ルクス以上の光を浴びた子どもは近視になりにくい」ことが実証された。法律を改正し、体育の授業を週150分、屋外で行うことを義務づけ、他の授業も屋外での実施を推奨する。学校生活の中で1日2時間の屋外活動ができるよう、国の政策として進めている。

ー保護者も忙しい中で、家庭で外遊びの時間をつくるのが難しいこともある。

 必ずしも「太陽の下で体を動かして遊ぶ」必要はない。通園・通学、お散歩などでOK。屋内の光量は300ルクス程度だが、屋外は10~100倍の数千~数万ルクス。木陰や薄曇りでも、1000ルクスは十分クリアできる。ただ、窓ガラスは有効とされる光をカットしてしまうので、ガラスを隔てない太陽光を浴びるようにしてほしい。

ー外遊びは何歳ごろから近視予防効果があるのか。

 早ければ早いほどいい。今は3~4歳で近視が進行する子もいる。外遊びはお金がかからず、どんな家庭でもできる予防法なので、ぜひ早くから取り入れてほしい。また、近視を予防するだけでなく、進行を防ぐ効果もあることが実証実験で分かっている。従来、近視の進行は17~18歳で止まるといわれてきたが、今は20~30代でも進む。この年代まで有効な予防法だ。

「2時間の外遊びは、ある程度の近見作業を打ち消す効果がある」と話す窪田さん

眼鏡の度は弱めがいい?常時かけておく?

ー視力低下が進み、眼鏡を作ることになった。眼鏡の度は弱めがいいのか。また、眼鏡をかけたり外したりせず、ずっとかけ続けていた方がいいのか。

 昔は「弱めの眼鏡の方が度が進まない」という説もあったが、今は「(必要な視力がしっかり出る度数に)完全矯正し、常時かけておく」方が、近視の進行が遅くなることが分かっている。

ー寝る前の絵本の読み聞かせを、落ち着いた照明の下でしようとすると暗めになってしまう。目への影響は。

 程度問題で、字が見にくいほど暗くなければOK。2時間の外遊びは、ある程度の近見作業を打ち消す効果がある。