不登校の子どもの居場所にメタバース(仮想空間) 記者のアバターで教室をのぞいてみると…

戎野文菜 (2025年3月22日付 東京新聞朝刊)
 不登校の子どもの居場所づくりに、メタバース(仮想空間)が役立っている-。そう聞いても、なんだかピンとこない。一体どんな場所で何をしているのだろう? 答えを知るために、記者もメタバースの教室や遊び場を体験してみた。
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「夢中カレッジ」の様子。中央左が「ひとりブース」で右下が「教室」。参加者はアバターで自由に歩き回れる(一部画像処理)

まるで2次元ゲームのような世界へ

 行ってみたのは「夢中カレッジ」。不登校の子ども向けにオンライン教室を開くワオフル(東京都新宿区市谷田町)が運営する。

 ノートパソコンの前でカメラとマイクとイヤホンを準備し、指定されたURLを開いた。名前を入力し、自分の分身となる「アバター」の顔の形や肌の色、髪形、服装を選ぶ。

 「参加」ボタンを押すと、2次元のゲームの世界のような場所に入った。1センチほどの「私」が画面に表示され、キーボードの十字キーで上下左右に動く。

 ワオフル代表の辻田寛明さん(31)のアバターがそばに来た。「離れると声が聞こえなくなるので、ついてきてください」。アバター同士が一定の距離に近づいたときだけ、マイクで会話できる仕組みだ。アバターが並んで歩く画面を見ながら会話していると、本当に一緒に歩いているような不思議な感覚になる。

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メタバースに参加するために作った記者のアバター(分身)

自習室のような「ひとりブース」も

 画面中央に緑の中庭があり、その右側に「教室」があった。アバター6人は、小中学生だという。

 「では、マイクをオフにし、教室に入りましょう」。辻田さんに言われた通り操作すると、オンライン会議のような画面が現れた。先生役のスタッフの顔が見え、生徒全員の声が聞こえる。授業参観のような気分で静かに見守った。

 夢中カレッジのこの日の授業は、「クイズの答えを考えている人に正解を教えてあげるか?」という問いかけから、本当の思いやりとは何かを考えることだった。社会と関わる力を育む「ソーシャル・エモーショナル・ラーニング(SEL)」という学習で、ワオフルが力を入れている。

 話し合いでは、顔を画面に表示するかしないかは、一人一人の自由。会話もマイクだけではなく、チャットを使って文字やスタンプでやりとりしてもいい。

 教室を出ると、中庭を挟んで反対側に「ひとりブース」がある。ここにアバターを座らせると、他のアバターから話しかけられない。自習室のような場所だ。

 辻田さんは「学校に行かないといけないと思って行くけど、教室に入りたくない子もいますよね」。ひとりブースは「頑張って来たけど、みんなと話したくないときに使ってもらう場所」と紹介した。

「顔を出さなくていい」使いやすさ

 夢中カレッジは2024年2月に始まり、全国の小中学生約50人が利用。高校生や大学生の参加もある。

 都内の通信制高校2年の女子生徒(17)は週1回参加する。小学6年で不登校になり、中学3年からオンラインの教室を利用している。辻田さんによると、「頼れるお姉さんのような存在」という。

 女子生徒に使いやすさについて聞くと、「顔を出さなくてもいい。髪がボサボサでも、とりあえず起きて入ればいい」。メタバースで知り合った友達と交流を続け、大学で中国史を学ぶために受験勉強中だ。

 女子生徒は「古代中国が舞台の小説を書いている。前はただの趣味だったけど、今は文章や物語を書く仕事をしたいと、夢を持てるようになった」。仮想空間であろうと、そこでできた誰かとのつながりが未来への一歩を後押ししている。

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夢中カレッジについて話す女子生徒(右)と辻田寛明代表=東京都内で

オンライン学習との違いは?

 メタバースは、他のオンライン学習や交流と何が異なるのだろうか。脳科学の視点でメタバースを活用した若者の支援に取り組む横浜市立大の宮崎智之教授は、大きく2点を指摘した。

 第一に「居場所」という感覚を持てること。オンライン会議のような顔の見えるやりとりだと「近い距離感で束縛が存在する」。

 一方で、メタバースは「アバターでどこの環境に身を置くか選べる。相手との距離に応じて声が聞こえたり、音量が変わったりする」。これが使う人に空間や人との距離を感じさせる理由という。

 さらに「視線」を感じないという利点も挙げる。「外見を理由にいじめを受けて不登校になる子どもも一定数いる」と指摘する。

 「アバターだと、自分自身の髪形や洋服、体形といった外見は見えない。人前で話すのが苦手な子どもでも、アバターでなら、さらさら話せる場合もある」と語った。

元記事:東京新聞デジタル 2025年3月22日

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