窪塚洋介さんが築いた離婚後の家族の形 子どもを尊重…今の妻も前の妻も一緒に
息子は17歳 小学4年の時に離婚して
―家族構成を教えてください。
妻、17歳の息子、3歳の娘と4人で大阪で暮らしています。息子が小学4年生の時に離婚した前の妻も、近くに住んでいます。
僕が東京で仕事をしている間に、前の妻を含めた残りの4人が会っていることもあります。もちろん、現在に至るまでには、みんなが努力も我慢もしました。でも、今は、一緒にいるのが心地よくなっています。
―別れた両親の間で、二人に気を遣ったり、どちらかに気兼ねをしたりして苦労し、つらい思いをしている子どももいます。窪塚さんは、愛流さんを育てる中で、どんな配慮をしてきたのでしょうか。
息子の愛流が気兼ねなく成長していけるようにすること。母親と父親の間をあっけらかんと行き来して生きていけるようにすること。それが、離婚を選んだ僕の償い、責任の取り方でもありました。
―しかし、「こうありたい」という家族の思いが重ならなければ、なかなか実現しがたい形ではないでしょうか。
今の妻と前の妻がつながるのはやはり一番大変でしたが、あの手この手で、いろんな努力をして近づけていきました。愛流も思うところは多々あったはずです。でも、それぞれが相手を思いやることができた。
初めて「お母さん」と呼ばれた妻の涙
―妻の優香さんの理解があってこそだと思いますが、現在に至るまでには、葛藤や努力もあったのでは。
愛流は妻のことを家の中では「優香ちゃん」と名前で呼んでいますが、外では、本当の母親のことも義理の母親のことも「お母さん」という呼び方をしています。でも、最初はそうではなかった。初めて義理の母である妻のことを外で「お母さん」と呼んだのは、愛流が中学1年の時。涙を流して喜ぶ妻の姿を見て、「こんなに愛流のことを思っていてくれていたんだ」と僕も胸が熱くなりました。
―別れたパートナーと関係を絶つ方、関わりたくないとする方も少なくありませんが、窪塚さんと愛流君のお母さんとの関係は、その対極にあるように感じます。お二人は、どのような努力をしてきたのでしょうか。
前の妻とは、お互いが気持ちをぶつけ合ってしまったから離婚しました。でも、息子の親としての関係は続くので、別れた後も同じじゃダメ。僕は「バーカウンターの法則」と呼んでいるんですが、向かい合うとモメるから、子どもを前にして親二人は並んで同じ方向を向くようにしています。そうやって息子にとってベストだと思う意見を出し合いながら前に進んできました。
信じてる、と言うのは信じていない時
―息子さんを育てる上で、窪塚さんと優香さんと愛流さんのお母さん、3人が共通して大事にしていることはありますか。
子どもが何をしたいのか、何を考えているのか、どう生きていきたいのかを尊重したいと思っています。もちろん、野放しにしていいわけではないので、要のところで話はするようにしています。人って、ほめられて、信じられた方が力を発揮すると、息子を見ていて感じます。
愛流が中学3年で受験する高校を決めなければという頃、生活態度などについて学校から頻繁に連絡が来ていました。僕は𠮟りもしたし、「信じてる」と伝えもしましたが、ある時、ストレスを感じている自分が嫌になってしまって。「信じてる」って相手に言うのは、本当は信じていない時だな、と。もう本人に任せることにしたんです。
僕が何も言わなくなったら、本人が自分から起きて学校に行くようになりました。当時は愛流は前妻の家で過ごすことが多かったんですが、僕との距離も近くなりました。押しても駄目なら引いてみな、と言いますが、それまで息子の方にあると思っていたスイッチが、実は自分の方にあったことに気付きました。
愛流は、僕と優香との間に生まれた娘のことをとてもかわいがってくれます。14歳離れている3歳の娘の遊び相手をよくしてくれる。家族4人でディズニーランドに行ったときは、ベビーカーに乗りたがらない娘を僕が抱っこしていたんだけど、体力にも限度があって、疲れたタイミングで愛流が代わってくれました。だから、僕と愛流とベビーカー、3分の1ずつで1日回ることができました。
3歳の娘でも、魂的には平等だと思う
―二人の子育てはいかがですか。
息子と娘を育てているわけだけれど、僕も子どもに育ててもらっていると思っています。子どもがいるから、お父さんでいられる。
愛流の時は、初心者マークのお父さんだったけれど、子どもがお父さんというのはどうあるべきかを教えてくれた。今、2回目のお父さんをしている。2周目だから、余裕を持って娘に接してあげられています。それでも、女の子のお父さんとしては初めて。娘よりは僕の方が年齢ははるかに上だけれど、魂的には平等だな、と思って向き合っています。
―優香さんや子どもたちと向き合う際に、窪塚さんが心がけていることはありますか。
できるだけ「ありがとう」「愛している」という言葉を交わすようにしています。愛流が子どもの頃は、もっともっと言っていたけれど、さすがに17の息子に言うのもなというところもあって、今は誕生日だから、初めての仕事を頑張ってきたから言っちゃおう、と理由を見つけて言っています。娘には、ほっぺたすりすりしながら言っています。
―娘さんには、家族の構成について、どのように話していますか。まだ小さいので、これからでしょうか。
娘は理解しています。自分の母親のことは「ママ」、愛流の母親のことは「あいるのママ」と呼び分けています。娘にとっては、生まれたときからのこの環境。自然に受け入れて育っています。
生みの苦しみを経て、強い形になった
―親の離婚後、両方の親と以前と同じようにはつながれない子どももいます。別れた夫婦が、それぞれ新たな家族を築くことも多い中、窪塚さんの家族のようにつながれたら、子どもにとっても親にとっても幸せだと感じます。
今の僕の家族の在り方は、日本では珍しいかもしれません。母の日やクリスマス、愛流の誕生日には、自然と5人で集まろうという流れになります。生みの苦しみはあったけれど、いったん形ができてつながると、意外にこの形が強くて、いい環境になっていると思います。誰に見せるためでもない。原点は、息子のため。なるべくしてなった形です。
僕らが思っている以上に苦しい思いをしている子もいます。僕たちはこういう形になりましたが、離婚後の家族の形として、一つの答えになれているとしたら、こんなにうれしいことはありません。
映画「ファーストラヴ」が描く、血のつながらない家族
―ここからは、現在公開中の映画「ファーストラヴ」(堤幸彦監督/島本理生原作)について教えてください。性的な虐待をテーマに据えた作品ですが、「血のつながらない家族」=ステップファミリーについても描いています。
北川景子さんが演じる主人公の夫・真壁我聞(まかべ・がもん)を演じています。公認心理師である主人公と時に対立しつつも協力して事件に向かう弁護士役の中村倫也さんは、我聞の弟という設定ですが、本当の兄弟ではありません。
―厳しいテーマを取り上げた映画ですが、窪塚さん演じる我聞の存在が作品全体に温かみをもたらしているように感じます。妻や弟と向き合う我聞の懐の深さは、窪塚さん自身の家族への向き合い方と重なる部分があるように思います。
真壁我聞は、僕よりも2歩も3歩も先にいる感じです。許すことに関して、もう達観している。(映画では、写真家としてイラクの子どもたちを取材していたが、今は実家の写真館を継いで家族の記念写真を撮影しているという設定の)彼は、地球の最果ての人に隣人の顔を見たんだと思います。世界と自分の隣はつながっていて、人の笑顔の輝きや苦しさの重さは変わらない。そう気付いて、写真館を訪れる家族の写真を撮り続けている。頭では理解できますが、彼の人との向き合い方には、まだ到達できる気がしません。
―息子の愛流さんも、モデルや俳優として活躍しています。仕事の話はしますか。
息子が同業者になって、マニアックなことを聞いてくるようになりました。「同じ業界の年上の人って、どう呼んだらいいの。『さん』付けした方がいいんやんな」とか。この間は、映画に出るというので、台本を持って来させて、3日間ガチでワークショップみたいにして教えました。息子に照れが出ないように、こっちも笑わないようにして。父親の前でできたら、どこでだって演じられるだろうと思います。
41歳の誕生日 息子の言葉に感激
―息子さんから言われてうれしかった言葉はありますか。
僕の41歳の誕生日の時に、「こんなかっこいいお父さん、おらんで」って言ってくれたんです。僕自身は17の時におやじにそんなこと言えなかった。息子にそう言わせられてるんだな、とうれしく思うと同時に、いつまでそう言わせられるかな、と。同じ役者として、近づいてくれば来るほど、僕のやっていることの意味や深さが分かってくると思います。「山は近づけば近づくほど大きくなる」と言いますが、息子にとって山みたいな存在になりたいですし、追いつかれるかな、逃げ切れるかな、と楽しみたいと思います。
―妻の優香さんとは、ケンカもしますか。私は夫になかなか優しい言葉をかけられません。
夫婦って、大概そうでしょう。僕たちもケンカもするし、家事や育児のことで嫌みの言い合いもします。でも、ぶつかっても、どこかでどちらかがスッと折れる。それができるためには、自分の状態を整えておくことも大事だと思っています。家族の最小単位としての自分のバランスを整えておけば、相手のことも大切にできるし、自分のことも好きになれる。夫婦間にも、子どもにも、それが波及していくと思います。
窪塚洋介(くぼづか・ようすけ)
1979年、神奈川県横須賀市生まれ。1995年にデビューし、「GTO」(1998年、フジテレビ系)、「池袋ウエストゲートパーク」(2000年、TBS系)などの人気ドラマに出演。2001年、映画「GO」(行定勲監督)に主演し、史上最年少で日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞を受賞。2002年には映画「ピンポン」(曽利文彦監督)に主演。映画を中心に舞台でも活躍し、2017年に映画「沈黙-サイレンス-」(マーティン・スコセッシ監督)でハリウッドデビュー。音楽活動、モデル、執筆など多彩な才能を発揮している。全国で公開中の映画「ファーストラヴ」(堤幸彦監督)では、北川景子さん演じるヒロインの夫・真壁我聞役を務める。
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