「たたいてしまった」みなさんのコメントを読んで 育児相談の専門家・帆足暁子さんから気持ちと行動のアドバイス

 東京すくすくの記事「ぐずる子どもに手を上げて自己嫌悪…そんなあなたに『たたかない子育て』3つのヒント」には、昨年11月の公開以降、子育て真っただ中の人たちから、たたいてしまったという後悔や、どうしたら改善できるのかと悩むコメントが今も継続的に寄せられています。30年にわたり育児相談で多くの親子を見てきた東京・世田谷の小児科「ほあしこどもクリニック」副院長で、公認心理師・臨床心理士の帆足暁子さん=写真=にコメントを読んでもらい、アドバイスを聞きました。

写真 帆足暁子さん

「子どもをたたいてしまいました。罪悪感で涙が止まりません」
「こんなママで本当にごめんと毎日反省しています」
「たたくよと宣言することで(子どもを)せかすことばかりです。子育ての全てがしんどい」

 こうしたコメントからは、日中は母子だけだったり、周囲に助けを求める人や場所がなかったりで、孤独な子育てをしている親たちの切実な様子が伝わってきます。たたきたくないし、怒鳴りたくない。分かっているけれど、なかなかできない―。そんな親たちに帆足さんが伝えたいメッセージとは…。

どの声もとても重い。出口のない悪夢だと思います

-コメントを読んだ印象は。

 相談に来る親御さんたちもそうですが、してはいけないことや、どうしたらいいかをよく分かっているのにできないジレンマ、しんどさが伝わってきます。「もうたたかない」と誓っても繰り返してしまう。自分が悪いと責めているお母さんがとても多いですね。

 子どもをかわいいと思うのに、怒りが出てくると止められない。毎日毎日、出口のない悪夢だと思います。助けてほしいと思うから、投稿するなどして発信しているけれど、誰も助けてくれない。どの親御さんの声もとても重いですね。

-コメントを読んだり、クリニックで相談に応じたりしていて感じていることは。

 なかなか言うことを聞いてくれなかったり、「やって」とお願いしてもしてくれないなど、「育てにくさ」を感じて相談に来る親御さんが多いです。「ヤダー」と叫ばれると、その声だけで親は参ってしまいます。クリニックでも相談に来て「子どもがかわいくない」「母親失格だ」と涙を流す親御さんがいます。「よく頑張っているね、十分だよ」と声をかけています。

「ここまでやってあげたのに」と怒りが出てしまう

 子どもの求めに付き合い過ぎているがゆえに、子どもに対して「ここまでやってあげたのに」という怒りが出てしまっている親御さんも結構いると感じました。日本では、母親は子どもの犠牲になって当たり前、と思う人が多いですが、大人も自分がハッピーでいられるところでやめる、という基準で考えていいよ、と私は伝えています。

 叱る時もワンセンテンスで「〇〇だから、やめて」と簡潔に言う。一生懸命に理由を説明しても、子どもは「うん」とは言いません。たいていの子は1回言えば分かりますが、「分かる」ことと「する」ことは違う。子どもはその気になるまで変わりません。

たたいた後にどう謝るか 気持ちを整理するハグ

-たたいてしまった場合、子どもへのフォローの仕方はありますか。

 子どもたちは親が大好きなので、たたかれたのは自分が悪いからだと思って自分を否定してしまいます。それが子どもにとっては一番つらい。子どもに対して「あなたが悪いのではない」と話し、「ママ(パパ)がどうしてもイライラを抑えられなかった。ごめんなさい」と謝ることが大切です。「あなたが言うことを聞かなかったから」とつい言い訳したくなりますが、言うことを聞かなかった子どもの親が全員、たたいているわけではないですよね。

 ただ、子どもに謝ればいいわけではなく、そういう自分に向き合い、子どもをたたかないように努力している姿を子どもに見てもらわなければ親の思いは伝わりません。そしてやはり、子どもをたたかなくなることが基本です。

 それから、朝起きた時や夜寝る時は、怒った直後でも、子どもをかわいいと思えなくても、必ずハグして「ママ(パパ)の大好きな〇〇ちゃん、おはよう(おやすみ)」と1日2回言うことを勧めています。ハグすると、幸いお互いの顔は見えませんね。言うことで自分の気持ちの整理もできます。小学3年生ぐらいまでかな。繰り返していくことで、愛情は伝わります。

背景にある自身の傷 向き合うから余計につらい

―コメントには「たたくのは悪い親だ」と思い詰めている人もいました。

 話を聞いていくと、たたいてしまう背景には、親自身も傷つけられてきた経験や思いがある人が多い。親自身が「愛されてこなかった」と感じていたり、きょうだいより劣っていると言われてきたりして、何かしら心に傷を抱えている。子育てを通じてそのことに気づき、向き合わざるを得なくなっていることもあります。子どもはまっすぐ、親の傷をつついてくる。だから余計につらいのですよね。

-たたいてしまう→自己嫌悪の悪循環から抜け出すにはどうしたらいいのでしょう。

 「親自身がもっと幸せになっていい」。お母さんたちにはそう伝えるようにしています。そして自分がどんな時に、どういうことで怒りが出てくるのか、自己分析して整理する。逆にどんな時は楽しいのか、幸せに感じるのかを考え、見つけていく作業をすること。親自身が傷つけられたことに気づき、整理して、自分が幸せと思える時間を増やしていくことが大切です。

「あなたはどんな時に、幸せだと思えますか?」

 育児相談でも「どうしたらあなたは楽しい?」「幸せだなって思える?」という質問を親に投げかけて、どういう時、誰といたら、どういう場面でと、具体的に見つけてもらいます。幼い子どもとの暮らしでは、自分自身の時間を取ることは難しいですが、以前から好きだった趣味、友達とのおしゃべりなど、幸せだと感じられる場面を具体的に挙げてみる。そして、誰かの力を少し借りることで、それを実現できないか考えてみませんか。

 こういう投げかけをすると、お母さんたちは「自分の幸せなんて考えたこともなかった」と言いますね

 大事なのは、自分が悪いと思い過ぎないこと。皆さん、初めからたたきたいとか、憎らしいと思っているわけではない。だから、落ち着いている時には子どもがかわいいと思えますよね。たたきたくない、二度としたくないと思う自分がいるだけでいいのです。でも、たたいてしまっていることも事実。それには、そうしないではいられないだけつらいものを親のあなたも抱えているということをまず、自分の中で整理しましょう。

夫が協力しないつらさ まず解消するためには 

-夫の協力や共感が得られないという声もありました。

 以前、相談に来ていた子どもから「人を変えることはできません。コントロールできるのは自分の心だけです」と聞き、育児相談とは別の話でしたが、とても納得したことがあります。

 育児でも、夫婦で子育てしていれば協力することが必要で、夫が期待に応えてくれれば一番。でも、言えば言うほど責められている、と感じて、逃げるか、攻撃してくることもよくあります。追い詰めるとよくありません。期待して、やってもらえないのはきついですよね。それなら、まず今のつらさを解消するために、期待しないで別の方法を考えた方がいいと私は思います。

-自分の気持ちをなかなか整理できないという人はどうしたらいいですか。

 子育て中は、自分のことがつい後回しになりがちですが、子どもと同じくらい、親は自分を大事にしていいのです。整理できない時、自分はどうしたら幸せか常に問いかけてみてください。しんどいと思うなら、自分と向き合う時間をぜひつくった方がいいと思います。

「外に見せない」のも自分を守るすべだけれど

 たたいて自己嫌悪を繰り返す場合や、堂々巡りになってしまう人は、医師や心理の専門家など、プロの手も借りてほしい。親子関係の悩みであれば、小児科の育児相談を利用することもできます。育てにくいと感じる子どもに発達障害などが潜んでいることもあります。専門家もいろいろな人がいるので、自分に合う人を見つけるまで探していいのですよ。

 一方で、助けてほしいけれど、そういう自分を知られたくないから、相談したり、つながろうとしない人もいます。外に出るといいお母さん、お父さんでありたい、という人がいても、それもまた自分を守るすべです。いろいろな理由を付けて、外に出ないで自分を守っている人もいます。それはそれでいい。でも、ぜひ信頼できる人を得る努力をしてほしい。そうすれば、動きだそうと思った時に自分を助けることになると思います。

帆足暁子(ほあし・あきこ)

 公認心理師・臨床心理士。東京都世田谷区の小児科「ほあしこどもクリニック」副院長として、長年、子育て相談や心理相談で多くの親子に向き合う。専門は、乳幼児発達臨床心理、保育臨床、子育て支援、子どものメンタルヘルス。幼稚園教諭や保育士の資格も持ち、大学で保育者の養成にも携わる。「愛着」や「気になる子ども」をキーワードにした講演を全国で行っており、著書に「0.1.2歳児 愛着関係をはぐくむ保育」(学研プラス)など。


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  • パニックママ says:

    いろんなご意見ありがとうございます。
    泣いて家にも入りたくないと言ってる時も抱いても蹴られる時も色々尽くしてるんですが、その時その時の対応がわからず困ってしまいます。

    パニックママ 女性 40代
  • 匿名 says:

    全てのコメント拝見しました。ママさん達がこんなに悩んで子育てしてるのに、社会はもっとママさん達を大事に包み込んで欲しいと思いました。

    私も過去に、まだ小さい我が子を叩く、蹴るを行いました。夜泣きがひどく、私が寝れない状況にイラつきが止まりませんでした。仕事で帰宅も遅く睡眠不足が続いていた為です。

    しかし、暴力を振るった後、快感を覚えた自分が恐ろしくなりました。過去に私を苦しめた全ての人、出来事。それらに対して仕返しが出来た快感。そんな感覚でした。一つ間違えば殺していたかもしれません。

    自分が虐待を受けて育ったわけではありません。しかし、両親の激しい喧嘩を目の当たりにして育ちました。今は両親とも仲良く、私との関係も良好です。その為か、大切に愛情を持って育てられたと自分の記憶をすり替えてたかもしれません。

    何に対する怒りか、誰に対する怒りか分かりません。他人にされたあの時の怒りなのか分かりません。ただ言える事は、自分より弱い者を攻撃する事は快感なのです。

    自分が満たされ余裕がある時は、我が子は大切で愛おしい存在です。しかし、ひとたび自分が満たされず、余裕を失えば、我が子であっても、生ゴミにしか見えないのです。

    世の中のママさん達を寛容に包み込む社会である事をねがいます。

  • おとなりさん says:

    無償の愛を持っているのは子供側です。どんなことをされても母を許してしまうのだと思います。

    私の母は…とっても恐ろしくて、笑ってる顔を見たことがありません。弟、妹のことは可愛がってるのが伝わってきたけど私には笑顔どころか優しい声をかけてもらうことも、抱きしめてもらった記憶もなく、それでも母のことが大好きでした。怒ってくれるのも愛情だと信じていました。だから怒られるたびに私が悪いんだ、だめな私なんていなくなればいいのにと思っていました。

    とにかく怒りを鎮めたくて、謝ると「お前のごめんなさいは聞き飽きた、信じられない」と言われて、次の日に謝らないでいると「お前はごめんなさいも言えないのか!」とひっぱたかれていました。

    早く人生が終わればいいのにと思う反面、親孝行したいな、幸せでいてほしいな、とずっと母が喜んでくれるように振る舞っていました。

    四児の母となった今、小さな人を叩いたり怒鳴ることしか出来なかった母はどれだけ1人で抱えていたんだろう、苦しかったんだろうと思えるようになりました。さんざん苦しみ、カウンセリングを受けたり、色んな本も読んで自分と向き合っています。子育てを通して自分のしてほしかった愛情を感じる声がけなどをすることで、自分自身が癒されていると実感します。

    現在、母との関係は良いです。母は相変わらず非常識だし、自分中心で勝手な人ですが受け入れられるようになりました。当時のことを「子供を怒鳴ってストレス解消してた」と懐かしそうに話すので「お母さん、それは虐待っていうんだよ…」と言えるような関係です。

    私も我が子をたたいたり感情的に良くない言葉を使ったり、理不尽な要求をすることもあります。「さっきのはお母さんが間違えていた、傷つけてごめんね」と必ず謝ります。自分の非を認めてから、どうしていこうかと話し合います。

    親だからってなんでも我慢するのは違うし、自分に正直でいること、自分に不快であることは拒否するべきです。ただ、子供は絶対に許すしかないのでその愛情につけこんではいけない、と肝に銘じています。

    保健士さん、幼稚園の先生、小学校の先生、近所の人、ママになってできた友人。私は苦しい時に寄り添ってくれる人がいるのでそう思えるようになったと思うので、誰かに話すことから自分を変える一歩が始まると思います。

    おとなりさん 女性 40代
  • 匿名 says:

    生理前のイライラが凄くていつもだったら許せることも許せなくなり 3歳息子に暴言を沢山吐いてしまい息子は泣きすぎて嘔吐してしまいました

    すぐに冷静になれない自分が嫌いです
    腹が立つと子供のことを「お前」と言ってしまう自分が嫌いです
    辛いです 本当に

  • 匿名 says:

    7歳、3歳、1歳を育てています。7歳の子の朝の支度が遅いので毎朝怒鳴り、お尻を蹴ってせかしたことが何度かあります。3歳になりたての子は好き嫌いが多く、野菜が出たら食が遅い、残す、口に入れると飲みむのにかなり時間がかかるので怒鳴る、人格否定、汚い言葉でなじる、いらない子と言う、他の兄弟と分けて一人だけ放置する、頭をはたく、おしりを蹴りました。

    今朝は時間がないのに朝食の嫌いなものだけ残しており、怒鳴って食べさせるとむせて吐いたので、頭をはたきました。2歳半頃にはトイトレがうまくいかず暗い部屋に閉じ込めたこともあります。逆効果だとわかっています。ひどいことをした後は、後悔の毎日です。でも、ヒートアップしてしまう自分を止められません。

    最近は3歳の子が叩くつもりがなくて手が顔の付近に近付いただけで、目を瞑るようになってしまいました。幼稚園で余計なことを言わないか心配です。私はそうですが、ここの記事に辿り着いた方は、虐待することを後悔してるからここの記事を見つけてるのと思います。私と同じくらいひどい虐待をしている方もいますし、軽くたたいたくらいでひどく反省されている方もいます。虐待と思うラインは人それぞれだと思います。

    しかしみなさんの投稿を見て、みんなもしていると安心している自分にうんざりしています。虐待を止める方法を見て、試してみようと思っていますが、できるかわかりません。ヒートアップ止められない私は人格異常者なのでしょうか。ちゃんと叩かず育児できているお母さんは異常者じゃないのでしょうか。ほんとうに叩かず育児できてるお母さんはいるのでしょうか。子どもにこんなひどい仕打ちをしてきて、今日から叩かないと決めて、寝る前にぎゅっと抱きしめてあげれば、暴力的ではない人格に問題のない子になるのでしょうか。

    ここの投稿を見て感じたことは、他の方もしているとの安心感、虐待をやめる術を試してみよう、明日からは叩かないと育児をする決意とそれに対する不安感、でしょうか。決定的な術がないから虐待は減らないんですかね。虐待してる人はなかなか自分から声は助けの声はあげれないです。そんな虐待の特性を理解した社会サポートの充実を望みます。助けてください。

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