子どもの弱視をより早期に発見するために 視力表を使えない幼児向け「自動測定装置」の開発進む

佐橋大 (2025年6月23日付 東京新聞朝刊)
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自動化したTACのイメージ図=モスフードサービス提供

 視力が十分に発達しない弱視。早期に発見して治療するため、3歳児健診で屈折異常を測る検査機器が普及し、以前より視力の異常に気付きやすくなった。さらに早い時期に気付いて専門的な治療につなげようと、機器の開発も始まっている。

3歳ごろにかけ急速に視力が伸びるが…

 子どもの視力は成長に伴い発達する。生後すぐは目の前の物の動きが分かる程度で、1歳で0.2ぐらい。外から入る光が角膜、水晶体で屈折し、網膜上で像を結ぶ。それが脳を刺激し、3歳ごろにかけ急速に視力が伸びる。

 しかし、その時期に、強い遠視や斜視、左右の見え方が違う「不同視」があると、網膜上でピントが合わず像がぼやける。その結果、脳が十分に刺激されず、視力の発達が妨げられる。これが弱視だ。

脳の発達を妨げないために早期発見を

 視覚をつかさどる脳の発達は、8歳ごろに止まる。名古屋大病院(名古屋市昭和区)眼科の病院助教安田小百合さんは「脳の発達を妨げないよう、目の異常を早く見つけることが大切」と指摘する。

 治療が遅れるほど視力は出にくくなり、物を立体的に見る能力が十分に育たないことも。それを避けるため、

  • 遠視などの屈折異常があれば、ピントが合う矯正用の眼鏡をかけ、鮮明な画像を脳に送る
  • 片方の目が弱視の場合、正常な方の目を眼帯(アイパッチ)で隠し、弱視の目を使う

-などが主な治療法となる。

 多くの自治体が近年、目の屈折異常や斜視を検出する機器「スポット・ビジョン・スクリーナー」(SVS)を3歳児健診に導入しているが、SVSは目の屈折などを測るもので視力までは分からない。視力は、ランドルト環の視力表などで確かめる必要がある。

「縦じまを目で追う」幼児の習性を利用

 ただ、幼児の視力測定は難しい。視力表が使えるようになるのは、3歳後半ごろから。発達の程度により、視力表が使える時期が遅れる子も。また、地域によってはSVSを導入する小児科が増え、より幼い段階で、目の異常の疑いを理由に眼科医を紹介されるケースも多くなった。

 そこで、視力表を使えない子の視力を測る方法の一つとして使われているのが、TACと呼ばれる手法だ。「テラー・アキュイティ・カード」の略。

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視能訓練士の女性(中央)が半面に細かい縦じまが描かれたボードを被験者に見せるTACのデモンストレーション=東京都品川区で

 幼児は、縦じまを目で追う習性がある。TACは、目の検査の専門家、視能訓練士が粗いしまや細かいしまが描かれた紙を子どもに見せ、その反応を観察して、見えているかを判断する。子どもの注意を引きながら、目の動きを見るには、高度な技術と経験が必要。また、検査には時間がかかり、どの医療機関でも実施できるわけではない。

 視力表を使えない幼児の検査ニーズの高まりに迅速に対応しようと、安田さんは幼児の視力を自動で測る装置の開発を進めている。高度な瞳孔反応解析技術を持つ企業、夏目綜合研究所(東京都)の協力のもと、TACで使う静止画をモニターに映し、備え付けのカメラで幼児の目を撮影。同研究所が目の動きを解析し、見えているかを判定する。モスバーガーを展開するモスフードサービス(同)が資金提供している。

 名大病院の安田さんの外来では昨年末から、主に1~2歳児を対象に実験中。画面上にコンテンツを表示し、どれが興味を引くかを探っている。7月ごろからは検査の精度を検証し、2028年の実用化を目指す。安田さんは「3歳未満児や、発達がゆっくりした3歳以上の子にも使える機器になれば」と期待を込める。

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