小児向け点鼻型インフルエンザワクチン 接種1回で苦痛も軽減 ただ、ぜんそくの子らは注意が必要

藤原啓嗣、佐橋大 (2024年10月29日付 東京新聞朝刊)

注射だと泣いてしまう小さい子も、鼻に噴霧する点鼻型のインフルエンザワクチンだと接種が一瞬で終わり、負担が少ないという

 呼吸器の感染症のワクチン接種で、今月から始まったものが2つある。鼻に噴霧する新しいタイプの小児向けインフルエンザワクチンと、新型コロナウイルスの高齢者への定期接種だ。それぞれの特徴や注意点などをまとめた。

接種は一瞬 鼻の中で霧状に広がる

 愛知県尾張旭市の「かなもり小児科」では8日から点鼻型のインフルエンザワクチン「フルミスト点鼻液」の接種をしている。金森俊輔院長(67)が男児(5)の鼻に、ワクチンの入った細い筒状の器具をすっと差し入れ、ピストン状の部分を押した。ワクチンが鼻の中で霧状に広がる仕組み。接種は一瞬で終わり、男児の表情も変わらないまま。「痛みはない?」「鼻の中の変な感じはなかった?」の問いに否定した。

 フルミストは、米国では21年前、欧州では13年前に承認され、注射の不活化ワクチンと並んで使われてきた。国内では今シーズンから供給開始。左右に0.1ミリリットルずつ噴霧するワクチンには、毒性を弱めたインフルエンザウイルスが入っていて、それが鼻の粘膜に付着する。製薬会社の説明では、実際に感染したのと同じような仕組みで免疫が得られるという。

2~18歳対象、7000~8000円台

 対象は2~18歳。費用は7000~8000円台が多く、注射の倍程度の負担になる。一方、注射は12歳以下で原則2回接種なのに対し、1回で済み、苦痛の軽減も期待できる。

 臨床試験では、フルミストを接種した人は、偽ワクチンを接種した人よりインフルエンザの発症が約3割少なかった。約6割の人に鼻水、鼻づまりがみられたほか、3割弱でせきが確認されたが、偽ワクチンとの大きな差はなかった。

 日本小児科学会によると、インフルエンザの予防効果について、注射のワクチンとフルミストでどちらかが優れているとの明確なデータはないとし、同学会は9月、両ワクチンを同等に推奨すると発表している。

本人発症・周囲に感染の可能性も

 ただ、注意点もある。フルミストは、弱い毒性のウイルスを含むため、飛沫(ひまつ)などを通して周囲の人をインフルエンザに感染させる可能性がある。接種した子どもが、ワクチンによってインフルエンザを発症する恐れも。製薬会社の添付文書に従い、接種後1~2週間程度は、免疫が低下している人には会わないなどの対応も必要だという。

 日本小児科学会はさらに、授乳中の女性や免疫不全患者が周囲にいる子、またインフルエンザに感染すると症状がひどくなるぜんそくの子どもについて、不活化ワクチンの接種を推奨している。金森院長も、フルミストの予約をした患者に、ぜんそくの症状がないか、必ず確認しているという。「かかりつけの医師とよく相談してほしい」と助言する。

 また、フルミストの対象にならない生後6カ月~2歳未満の子や、フルミストと併用できない免疫抑制剤や副腎皮質ホルモン剤で治療をしている子は、注射のワクチンだけが選択肢となるので注意が必要だ。

 今季のインフルエンザ患者数は、秋に高水準で推移した昨年と比較すると少ない。国立感染症研究所のまとめでは、第41週(10月7~13日)に定点の医療機関から報告された患者数は1医療機関あたり0.89人。昨年の同時期は11.07人と多かったが、例年、年末年始から翌年3月にかけての流行が目立つ。

今春から有料化した新型コロナワクチン接種は?

受験生補助の自治体も 出足は伸びず

 「デイサービスを利用しているので、コロナに注意している。これでひと安心」。10月上旬、愛知県豊明市の「いこま内科クリニック」でコロナワクチンを接種した女性(88)は胸をなで下ろした。

 同市独自の補助で、65歳以上の高齢者と心臓や腎臓などに疾患のある60~64歳の定期接種対象者は2000円、任意接種のうち受験を控える中学3年生らは5000円で接種できる。ただし、クリニックの予約は多い日で10人弱、中学生の予約はない。

 生駒善雄院長(64)は「行政が積極的に接種を啓発するかさらに補助を拡大するかしないと、接種率は大幅に下がるのでは」と出足の鈍さを案じている。

 厚生労働省によると、昨年秋に始めたワクチンの接種率は65歳以上で53.7%、全体で22.7%にとどまった。今春から有料になり、定期接種の対象者は上限が7000円となるように国が補助し、任意接種の費用は約1万5000円となる。

 各自治体は定期接種に個別に補助するため、実際の負担は2000~4000円程度とみられる。それでも有料化で接種率が下がることを懸念する声が上がる。

「流行株」対応 高齢者の接種推奨

 日本感染症学会は21日、「コロナは高齢者の重症化や死亡リスクがインフルエンザ以上」とする見解を公表。冬の流行に備えた高齢者の定期接種を強く推奨している。

 今回の定期接種で用いられる5種のワクチンはオミクロン株の「JN・1」に対応。国立感染症研究所はこの夏の第11波を引き起こした変異株「KP・3」の系統に対しても効果が期待できると発表した。

 厚労省の人口動態統計によると、コロナが感染症法上の5類に移行した昨年5月からの1年間で、3万2576人が亡くなった。うち、9割超が65歳以上だった。名古屋市立大病院の中村敦感染制御部長(62)は「流行は再び起きる可能性が高い。高齢者は家族間や施設内での感染リスクが高いので、かかりつけ医や家族と相談して接種を検討してほしい」と呼びかける。

レプリコン、初の実用 不安の声も

 今回の定期接種では、メッセンジャーRNA(mRNA)が接種した人の体内で増える「レプリコン」が世界で初めて実用化された=表。

 「Meiji Seika ファルマ」などが開発したレプリコンは、厚労省が想定するワクチン供給量約3224万回のうち13%を占める。同社によると、従来の6分の1から10分の1の接種量で効果を発揮し、抗体が長く維持される。

 このワクチンを巡り、日本看護倫理学会は8月、接種したmRNAが体内で複製されて、接種者から他の人に広がるのではないか、という懸念を発表した。交流サイト(SNS)でも不安視する声が上がった。

 同社は9月25日に開いた記者発表で、動物実験では接種から15~31日目にはmRNAが体内からほとんどなくなっており、体内で増え続けることはないと反論している。