保育園で朝食が食べられる! 保護者の声に応えて提供スタート ニーズと勤務体制などの課題、親子の愛着形成への影響は

(2025年6月4日付 東京新聞朝刊に加筆)
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保育士に見守られながら、朝食を食べる園児たち=いずれも東京都世田谷区の都認証保育園「ポポラー三軒茶屋園」で(平野皓士朗撮影)

「保育園で朝食が食べられると助かる」という保護者の声を受け、この春から希望する園児への朝食提供を始めた保育園グループがある。保護者は「子どもと触れ合う時間が増えた」と喜び、保育士たちも「午前中に元気に活動できるようになった」と手応えを感じている。現場では、この「保護者の負担を減らし、子どもがしっかり朝食を食べられるように」という本来の狙いを超えた、プラスの効果も見えてきた。その一方で、朝食を園に任せることへの保護者のためらいや、勤務体制に対する保育士らの不安感もあるという。

希望園児に提供、スポット利用も

午前8時。東京都世田谷区の都認証保育園「ポポラー三軒茶屋園」で朝食が始まった。5月上旬のこの日のメニューは、枝豆と利尻昆布のおにぎりと、野菜3種入りのみそ汁。月決めで利用する1~3歳の3人が保育士と食卓を囲んだ。

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この日の朝食メニューは、枝豆と利尻昆布のおにぎり(左)と野菜3種入りのみそ汁(平野皓士朗撮影)

2歳の男児は「ここを押さえるんだよ」と保育士に促され、みそ汁のおわんに手を添えてフォークで具をすくい、口に運んだ。黙々と食べていた1歳の女児は「おむすび、もうひとつ食べる?」と聞かれると、にっこりして「うん」とうなずき、計4個をペロリ。3歳の女児は「おなかいっぱいけど(だけど)がんばる」と最後まで食べきった。

全国で「都市型保育園ポポラー」を展開する「タスク・フォース」(本社・大阪市)は本年度、希望園児への朝食提供をスタート。全59園中、自治体が世帯の収入によって保育料を定めているため導入に当たって調整が必要な認可保育園10園を除く、都認証保育園や企業主導型保育園など49園で利用できる。メニューは「2種の具入りおにぎり+みそ汁(野菜3種入り)」「具を挟んだパン+スープ(同)」の日替わりで、月決めの料金は2880円(1・2歳児、週5日利用の場合)、スポット利用は1食300円だ。

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(平野皓士朗撮影)

初月の4月は10園で15人が月決めで利用した。直近の6月は9園で18人と、利用園児数は微増している。スポット利用は多い園でも月2~3回程度という。

ひとり親家庭や、早い時間に園に預ける家庭が多く利用する。中には、「園では食べるのに家庭では食べない」と悩む家庭や、転園してきた子の保護者が「食べることが大好きだから、園に行けばごはんが食べられると思って前向きな気持ちで新しい園に登園してほしい」と願って利用するケースも。スポット利用では、会議や出張などで保護者が普段より早い時間に出勤する日や、上のきょうだいの運動会などのイベント時に利用する家庭が多い。

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(平野皓士朗撮影)

「朝、触れ合う時間が増えた」

三軒茶屋園で2歳2カ月の息子が朝食を利用する会社員の母親(39)は「家ではそもそも食べてくれず、時間がないので泣かれると哺乳瓶でミルクを飲ませていた」と話す。かかりつけの小児科や区の1歳半健診では、1歳半の時点で「そろそろ哺乳瓶でのミルクはやめよう」「口と喉の動きが違うので、やめないと食べられるようになっていかない」と言われていたが、なかなか哺乳瓶でのミルクを外せず、幼児食も進まず葛藤していた。

園で朝食を食べるようになると、哺乳瓶でのミルクは3日で飲まなくなり、朝の時間にも余裕ができた。保育士は「ミルクが外れたせいか、タオルを口に入れる時間が減り、発語が増えてきた」と変化を伝えてくれた。これまで朝はキッチンで朝食の準備や片付けに時間が取られていたという母親は「園で栄養たっぷりの朝食を食べさせてもらい、登園前にテレビを見ながら一緒に着替えるなど、ゆっくり触れ合う時間が増えた。今の息子のかわいさを満喫でき、発達面でもいい影響があり、プラスのことばかり」と喜ぶ。

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園の朝食を利用する2歳男児(右)と母親。母親は「朝の時間に余裕ができ、子どもと触れ合う時間が増えた」と喜ぶ(一部画像処理、今川綾音撮影)

利用家庭の課題と目的をつかむ

同園の園田菜々花園長(25)は「登園時間が早い子の中には、朝食を食べずに来たり、食べながら登園したり、お菓子で済ませたりする子がいて気になっていた。園で朝食を食べるようになり、午前中の活動に元気に参加できるようになった」と話す。「昼食と違い、朝は少人数なので保育士の目が行き届く。こまやかな声かけや食事マナーの指導ができるのも利点です」

園田園長は「利用家庭とは必要に応じて面談し、どのような課題を抱えていて、どんな目的で利用したいと考えているかをつかむようにしている」という。利用中の3家庭(5月時点)はいずれも、利用にあたっての目標が達成されつつあるとし、「そうした親子の姿が見られることは、とてもうれしい。見守りながら、状況によっては朝食利用の解除の提案を検討することも出てくると思う」。

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朝食提供について話す東京都認証保育園「ポポラー三軒茶屋園」の園田菜々花園長(平野皓士朗撮影)

人員、親子の絆づくり…不安も

現場の保育士たちからは、朝食提供による子どもたちの変化を目の当たりにして「手応えを感じる」という声がある一方で、人員体制への不安や、多くの食事を園で取る子どもたちと保護者の関係を心配する声も上がる。

三軒茶屋園は、現在は朝食の時間帯の体制を1人増やすことで対応できているが、保育士たちからは「朝の受け入れのピーク時間と重なるので、今後利用人数が増えたら今の人員では回らないかもしれない」「保育の状況によっては朝食の片付けなどが滞り、昼食の準備に影響するのでは」といった不安の声も。同社広報の佐藤妃那子(ひなこ)さん(29)は「どの園でも無理なく継続していけるよう、会社として人員配置プロジェクトに取り組んでいる」とする。

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「必要とする人が1人でもいるなら、それを助けられるような仕組みを作っていきたい」と話す「都市型保育園ポポラー」を展開するタスク・フォース社広報の佐藤妃那子さん(今川撮影)

また、全園で希望者に対して夕食提供もしている(認可園については一部対象外)ため、保育士からは「朝昼晩の3食を園で食べさせることで、親子の絆づくりへの影響はないか」と心配する声がある。保護者の中にも「朝も園に任せるのはさすがに後ろめたい」とためらい、「できるだけ家で食べさせられるよう頑張りたい」と利用を控える人が「思った以上に多い」(佐藤さん)という。

人の手を借りて子育て「それでいい」

実際、朝昼(家庭によっては朝昼晩)の食事を園に任せることで、親子の愛着形成への影響はあるのか。朝食提供の実施に当たり、園側はどのようなことに留意すべきか。

NPO法人「こども発達実践協議会」(東京)の代表理事で、都内の私立認可園の園長を務める河合清美さん(52)は「食事は愛着関係を育むひとつの要素ではあるが、ほかの手段でも可能。忙しく『早く食べなさい!』と叱り飛ばす毎日ならば、愛着関係を結べるかは疑問」と話す。

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「食事は愛着関係を育むひとつの要素ではあるが、ほかの手段でも可能」と話すNPO法人「こども発達実践協議会」代表理事の河合清美さん=東京都内で(今川撮影)

河合さんは、園が朝食提供をすることについて「今は、保護者の働き方に合わせて多様な保育がある状況で、朝食提供で助かる保護者がいる。国の制度としてはまだ整備されていない中で、そのニーズに応えようと手を挙げて取り組んでくれる法人がいる。(認可園以外の園が)園児を獲得していくひとつの方法でもある」と言う。

利用を検討する保護者に対しては「利用すると決めたら、周りが『かわいそう』と言っても、自分は『これでいいんだ』と揺らがずに、前向きに自信を持って利用してほしい。人の力を借りて子育てをしている状態を『それでいい』と受け止めて進み、ほかの時間をどうするかを考えて」とアドバイスする。

「3世代同居が当たり前だった昔は、例えば農家などでは家におばあちゃんがいたら、子どものごはんを『よろしくね』と頼んで仕事に出ることも珍しくなかった。任せる相手がおばあちゃんだったら抵抗がない。今、核家族で大変な思いをして子育てをする人は、祖母を頼るのと同じくらいの距離感で保育園や保育士のことを考えてもらえたらと思う。そこに制度があるなら、肯定的に利用してもいいんです」

運営側は安全管理と体制整備を

河合さんは、「運営する側は、アレルギー対応などの安全管理と保育体制を整えていくことが大切」と指摘する。夕方の降園時と比べ、朝の登園時は、より短い時間帯に子どもの受け入れが集中するため、「バタバタしない空間づくり」を心がけてほしいという。具体的には(1)登園する子どもの受け入れスペースや、朝食を食べない子どもが遊ぶスペースを分けること(2)朝食を食べる子どものテーブルに保育者が1人つくこと(3)アレルギー児の対応など、食の課題に関することをあらかじめ規定しておくこと、を挙げる。

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(平野皓士朗撮影)

現場の保育士にリスクと負担が偏らないように、運営する側の法人が考えるべきだとし、「保育者がゆとりを持った気持ちで関われるようにして、保護者支援として、どのような目的を持ち行うのかを保育士が理解し、やりがいとして感じられるようなマネジメントが必要。保育士が負担を感じて離職につながることがないように、導入に当たっての丁寧さが求められます」としている。

同社広報の佐藤さんは「保育士の側も理解して進められるように、何のための朝食提供かを伝えていきたい」と話す。「働く保護者支援として、どうすると楽しく子育てできるかを大切にしたい。究極、朝食提供を利用する人がいなくてもいい。必要とする人が1人でもいるのであれば、助けられるような仕組みを作っていきたい」

筆者 今川綾音

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1978年、埼玉県生まれ。2005年中日新聞社入社。2017年から、子ども・子育て関連の取材を担当。現在は東京すくすく部の記者として、「子育てをする側の状況はどうか」という視点で、成長・発達にまつわる悩みや子どもの事故、産後クライシスや社会的養護、学童保育の取材を続ける。2021年9月から3年間、「東京すくすく」の2代目編集長を務めた。小中高生3児の親。

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  • 匿名 says:

    どうしてもミルクを離せなかった子が幼児食へすすむことができた良い援助事例ですね。保育士さんにも無理のないように考えてくださっているのですね。

    いつも「早くしなさい!」と言ってしまうことにもあまり罪悪感は感じないように…多くの人がフォローしつつそうしてきたのだから。

    家庭で簡単な朝食をささっと一緒に食べてくるのもOK祖父母もOK。プロの手が入りその方法を参考にするのはいいけれど、家庭の朝食や家庭保育のハードルをあまり上げないようにしてもらえたらありがたいと思います。

  • 匿名 says:

    保育士さん
    本当にお疲れ様です
    誰の子どもなんだろうって思いますね
    少子化だからってお国の為に産んだのではないはずです
    子育てしてこその喜びがあるはずなのに

    誰かに隙間を埋める生き方をさせるのではなく
    子どもが小さい間は時短、15歳以上になってから思い切り働ける社会を望みます
    介護や病気と違い限りある期間なのです

    どうしても育児が苦手なら
    仕事のせいにしないで
    保育士さんに正直に相談しましょうよ

  • Lisa says:

    私は保育士です。子どもを育てる責任の多くが、保育士に押し付けられているように感じます。

    すでに親たちは、トイレトレーニングや昼食、午後のおやつを保育園に任せています。私たちは、本来家庭で教えられるべきことを、園で半日かけて教えなければなりません。

    今度は、朝ごはんの食べ方まで教えなければならないかもしれません。親が手間を嫌がるからです。

    もちろん、保育士さんは親をサポートしたいと思っています。でも、親たちは私たちをサポートしてくれていません。

    保育士たちは一生懸命に子どもたちを教えているのに、家に帰れば、親はトイレトレーニングが終わった子にオムツをはかせたり、ごはんが食べられる子に哺乳瓶を与えたりして、私たちの努力を台無しにします。それなら、なぜ子どもをうんだのでしょうか?

    Lisa 女性 30代

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