教員や保育士の性犯罪歴をチェックする「日本版DBS」とは こども家庭庁が導入へ 対象の職種は? 他国では?
2020年の男性シッター逮捕が契機に
DBSは、英国内務省が管轄する「Disclosure and Barring Service(ディスクロージャー・アンド・バーリング・サービス)」(前歴開示および前歴者就業制限機構)の略。個人の犯罪履歴などのデータベースを管理、さまざまな職業に就く際に必要な証明書を出す仕組みだ。これを子どもに関わる職業に限定して導入するのが、こども家庭庁が取り組む施策だ。
日本で制度導入を求める声が高まったのは、2020年にベビーシッター仲介サービスを通して派遣された男性シッター2人が、保育中の子どもへの強制わいせつ容疑などで相次いで逮捕されたのがきっかけだ。うち一人は男児20人に性暴力を繰り返していたとして公判中だ。
免許再取得など、現行制度も厳しく
「性犯罪者が子どもに関わる仕事に就くことを防ぐ仕組みがないと知りショックだった」。保育事業者の認定NPO法人フローレンス(東京)の職員として制度導入を訴えてきた前田晃平さん(39)は振り返る。保育士などからも「信用され、自信を持って働くために必要だ」との声が上がっている。
日本版DBS導入に先立ち、現行制度も厳格化された。わいせつ行為で懲戒処分となった教員が免許を失効した場合、3年たてば再取得できた仕組みを改めるわいせつ教員対策新法が4月に施行。審査制を導入し再取得を認めないことも可能だ。今年の通常国会では、児童福祉法が改正された。子どもにわいせつ行為をした保育士は刑事罰の有無にかかわらず保育士登録を取り消され、禁錮刑以上の場合は登録禁止が無期限となる。
身近な性被害「安全なはずの学校で…」
「安全なはずの学校や保育園での性被害が身近にあることを知ってほしい」。首都圏の40代女性はこう訴える。中学生の長女が小学校3年の時、担任の男性教員にわいせつ行為を受けた。長女は下着の中に手を入れられて性器を触られるなどの被害に繰り返し遭っていたという。被害を受けた児童は複数いて男児も含まれていた。
女性が事実を知ったのは被害から1年以上たってから。同じ教員から同様の被害を受けた同級生の母親から、長女も被害を受けていたようだと聞いた。
「信じられない、うそであってほしいという思いだった。登下校時や放課後に外で遊ぶ時は、気をつけてねと声をかけていたが、まさか学校でそんなことがあるなんて」
懲戒免職の教員が「再就職」していた
動揺を気づかれぬよう、娘には努めて冷静に「お友達がこんなことがあったと話しているみたいだけど、どうだった?」と尋ねると、娘は「あったよ」と教えてくれた。被害に遭った友達の中には親に知られたくない子もいたため、長女もそれまで自ら話すことはなかったという。「自分がされたことの意味が分からない年齢だったと思う。(水着で隠れる部分や口などの)プライベートゾーンは人に触らせない、といった性教育もまだ、されていなかった」。長女は淡々と話してくれたが、複雑な気持ちと心配は残った。
この加害行為で懲戒免職となった教員がその後、ある児童福祉関係の施設で働いていることを知り、さらに衝撃を受けた。「こんなふうに再就職できれば被害が繰り返される。雇用者が性犯罪歴をチェックする仕組みがないことが問題」
英国は4段階 子ども関連が最も厳格
日本版DBSのモデルとなる英国では、DBSの前身の制度を含め四半世紀の歴史がある。前田さんによると、英国では子どもに関わる職業に限らず、幅広い職種が対象で、チェック基準が職種に応じて4段階ある。子どもや障害者に接する職種は最も厳しい基準となっている。
具体的には、18歳未満の子どもに1日2時間以上接する仕事を希望する人は、基準に触れる犯歴がないことが分かる証明書をDBSから取得し、就職希望先に提出することが義務付けられる。証明書発行の費用は雇用側が負担するのが通常。「子どもと関わる職業を非常に幅広く定義して網を掛けている」(前田さん)のが特色だ。
DBSの対象地域はイングランドとウェールズで、人口は計約6000万人。2017年3月末のデータによると、子どもや高齢者、障害者に接する業務に就くことが「不適切」と判定された人は約6万4000人いた。
「無犯罪証明」なら個人情報も守れる
英国以外でも、子どもに関わる職業の雇用の際、無犯罪証明書の提出や、データベースで犯歴を調べるといった制度は各国にある。
日本も児童買春を行った者などは里親になれないと児童福祉法に明記している。里親を採用する都道府県が犯歴情報を照会する。犯歴という最も繊細な個人情報のアクセスを安全に行うには多大なコストもかかる。前田さんは「発行する書類を『無犯罪証明書』にすることで、就職希望者の人権も最大限守ることができる」と提起する。
英国 | 子どもの心身に障害を与える犯罪などは無期限でデータベースに掲載 |
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フランス | 教育などの資格取得審査を担当する行政職員が事前に許可を求め、データベースにアクセス可能 |
ニュージーランド | データベース掲載は無期限。教育機関などは安全性調査を受けたか確認せずに雇用してはならない |
スウェーデン | 子どもと接する職種に就こうとする者に警察庁発行の犯罪歴証明書提出を義務づけ |
フィンランド | 保育、教育などに従事しようとする者は自ら、犯罪歴証明書の発行を申請して提出 |
オーストラリア | 州によって制度が異なるが、子どもと関わる仕事に就く場合は無期限にデータベース掲載 |
加害者と子どもの人権 バランスは?
「性犯罪で摘発され刑を終えた大人の人権と子どもが守られる権利とのバランスをどこに置くのか」。日本版DBSの制度設計の課題について、子どもの性被害に詳しい内科医の山田不二子さん(62)はこう指摘する。
まず、対象の職業をどう規定するか。「子どもと関わる職業」は、国家資格や免許が必要な保育士や教員以外にも、ベビーシッターや塾講師、スポーツクラブ指導者など多岐にわたる。対象を広げれば規制効果は高まるが、憲法の職業選択の自由に触れる、との指摘もある。
氷山の一角…「有罪」だけで十分か?
子どもへの性犯罪はそもそも発覚しにくい上、子どもの訴えも正しく取り合ってもらえず事件になりにくいという。「明るみに出るのは氷山の一角。大部分は内々の処理や示談で終わる」と山田さん。刑事裁判の有罪事件だけか、起訴されなかったが捜査対象となった前歴や行政処分歴も含むのか。データベースにどの範囲まで掲載するのかは重要なポイントとなる。
データベースへの情報掲載期間も議論となりそうだ。刑の言い渡しの効力がなくなる「刑の消滅」との兼ね合いから10年が上限との意見もある。ただ小児性犯罪は再犯率が高く、治療にも長い時間がかかるため「エビデンスに基づいた議論が必要」と山田さんはくぎを刺す。「成長の過程で長く心身への影響が続く性被害の深刻さを知り、より弱い立場を守る、という理念を社会で共有しなければ、有意義な制度にならない」
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一度でもやってしまえば取り返しがつかない犯罪だ。そもそも「商品」に手を出したという時点で、教員の資格はない。襲われた人の気持ちを思うと「一度の過ちだから許す」とは絶対に言えないな。速やかに制度改正を進めて欲しい。
過去に性犯罪を犯して有罪判決をもらっても、再犯することなく心を入れ替えて真面目に子供と関わる仕事をしている人だって多くいるということを考えてもらいたい。
性犯罪は再犯率が高いとは言われるが、みんながみんなそうではない。本当に再犯なく真摯に子供に対してしっかりと仕事をしている人を自分は沢山知っている。
そういう人たちさえからも仕事を奪うのはどうなのか?そういう真面目に働いている人達の人生を狂わすのか?