保育士の配置基準「改善」するけど「改定」はしない…どういうこと!? 「異次元の少子化対策」たたき台はミスリード

奥野斐、坂田奈央 (2023年4月12日付 東京新聞朝刊)
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記者会見で保育士の配置基準について説明する小倉将信こども政策担当相=11日、内閣府で

 政府が先月31日に発表した「異次元の少子化対策」のたたき台で、保育士の「75年ぶりの配置基準改善」が明記された。配置基準とは保育士1人が受け持てる子どもの人数。保育関係者から歓迎の声が上がったが、小倉将信こども政策担当相は11日の記者会見で「保育現場に混乱が生じる可能性がある」などとして、配置基準そのものの改定を改めて否定した。いったいどういうことなのか。

喜んだ保育士が「え?」…ガッカリ

 「え? 配置基準は変えないの」。たたき台の発表後、基準改定かと喜んだ保育士らが、SNSに「間違えて捉えるところだった」「異次元って言うならちゃんと配置基準を変えて」などと書き込んだ。

 たたき台は、こども家庭庁のウェブサイトにも掲載され「職員配置基準について1歳児は6対1から5対1へ、4・5歳児は30対1から25対1へと改善する」とある。1歳児なら、保育士1人が受け持つ子どもの基準が、6人から5人に減ると読める。特に4、5歳児は1948年の基準制定から75年間変わっていない。こども家庭庁には「配置基準を改定するのか」との問い合わせも来ているという。

図解 保育士1人で受け持てる人数(国の配置基準)

手厚く配置した施設に運営費を加算

 ところが小倉氏は、4日の参院内閣委員会で「(基準を引き上げると)全施設で基準に見合う保育士を確保する必要が出て、現場に混乱が生じる可能性がある」と説明。保育士を手厚く配置した施設に運営費を加算して支給する方式で対応するとした。

 つまり「基準を改善」という表現はミスリードになる。しかも保育士を増やさない選択も残り、子どもが受ける福祉サービスに格差が生じる懸念もある。それなのになぜ、このような書きぶりになったのか。こども家庭庁の担当者は「一般の人には分かりにくいかもしれない。だが、公表したのはたたき台。今後、具体的な案を練っていく」と言葉を濁す。

3歳児の際は私立保育所の9割で達成

 配置を充実させるための支給額の引き上げは2015年度にも、3歳児を対象に行われた。保育士1人が受け持つ子を20人から15人に減らせば、保育所へ支給する運営費を加算する施策で、内閣府の調査によると、私立認可保育所の加算実施率は89.3%(2022年3月時点)に上る。

 このときも基準はそのままだったが、既に私立保育所の約9割で保育士1人で受け持つ人数が減ったことになる。猶予期間を設けるなどすれば、基準改善に伴う混乱は防げそうだ。しかし小倉氏は11日の会見で「約1割といえども保育現場に直ちに混乱が生じる可能性を防がなければいけない。(基準見直しは)慎重に検討する必要がある」と繰り返した。

 愛知県の保育士らが始めたキャンペーン「子どもたちにもう1人保育士を!」の呼び掛け人で、名古屋市の認可保育所元園長の平松知子さんは「保育士の配置改善が明記されたことはうれしいが、加算は第一歩。法令上の基準が変わり、名実ともに『改善』といえるまで声を上げ、注視していきたい」と話した。

表 保育士の配置基準(保育士1人で見られる子どもの人数) 日本、米国、英国、フランス、ドイツ

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年4月12日

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  • 願い says:

    現役保育士です。20数年より良い保育を目指し、取り組んできました。未熟で「ああ、今の関りは違うな…」と悩む事はありますが、改善していく事を止めていません。しかし、いくら個人で頑張っても、政府の行う政策、根本的な改善が遅すぎます。危機的な現場の状況を、理解できていません。

    私は、保育業界に入る前の7年間、毎日10時、11時と残業する会社員でした。そんな経験と比べても、保育士の仕事量と給与は見合っていません。あまりに、ボランティア業務が多すぎます。

    問題の例を4つ挙げます。先に行った保育指針の改定の中身です。

    ①「乳児保育の内容が充実化」が明記され「対話的保育」「一人ひとりを大切に」と書かれています。必要な事です。しかし、それを実現する為に多くの保育士が必要です。4、5歳児は1人の保育士が30名見る配置基準です。1人で30名と対話を丁寧に出来ますか?それが75年間変わっていないなんて、異常です。ヨーロッパ諸国は1人に対し12、3名、多いフランスでも日本の半分の15名です。子ども30名。本当に「一人ひとりに大切に」が出来ると思いますか?

    ②「保育に欠ける」という言葉が無くなりました。それによって、保護者は仕事でない土曜日でも、あずけられるようになりました。保育士も少なくなる、土曜日。安全面も気になります。時に、平日より過酷な状況になりました。

    ③「地域の子にも開かれた保育」と保育対象が広がりました。いい事だと思います。でも、保育士は在園児で手一杯です。誰が対応するのですか?

    ④研修の増加です。今までも研修や園内での勉強を工夫して行っていました。なのに、処遇改善に伴うキャリヤアップ研修やその他の研修が増えました。追加しては改善になりません。

    私は「子どもの為」という言葉が嫌いです。反論を許さない、呪いにも似たその言葉に、何度、犠牲を強いられてきたか…。トイレに行く事を我慢し、休息をとらず、気づけば午前中に水を飲んでいない自分に愕然とする。残業手当など期待できず、残って書類や保育準備をし、出来なければ持ち帰って、プライベートの時間を削る日常。

    もちろん、自分で選んだ仕事、やりますよ…。実際、毎日笑顔を作ってやっています。でも、本気で政府に考えてほしい。本当に、こんな中途半端な進め方でいいんですか?保育士、壊れますよ…。

    願い 男性 50代
  • 匿名 says:

    正社員保育士3年目です。私は小学生の時から保育士になりたくて10年間ずっと夢みていました。やっと夢が叶ったと思ったらこの現状…大学で何度も覚えさせられた配置基準…この数字の本当の意味、残酷さを実際に働いてやっと気づくことができました。

    私の働いている保育園では人員不足のうえに立て続けに妊娠、産休、育休で休む人のフォローをすることになりました。本当はおめでとう!と言ってあげたいのに私は言えませんでした。妊娠した保育士は抱っこやおんぶができません。その分他の保育士や私がおんぶしています。私は腰と肘にサポーターを巻いてギリギリの状態で働き続けています。

    それでも本社は配置基準的には足りているからとずーーっと同じことを言って人員を増やそうとしないどころか来年度から定員を増やすと言っています。現状大変なのに来年のことを考えると不安と不満が溢れて急に涙が出て止まらなくなる日々です…同僚の妊娠も喜べず、あんなになりたかった保育士になったのに大好きだった子どもを叩きたいとまで思ってしまっています。

    ここまできてしまった私はもうすぐ辞めなくてはいけないと思いますが、配置基準改善、給与増、書類仕事削減…子どもたちの為に一刻も早く見直されることを願っています。余裕があれば人は優しくなれるんですよ。

     女性 20代
  • こどものために says:

    現役保育士です。子どもは可愛いいし大好きです。命を預かる重さに辞めたいと思うことがあります。苦しくなることもあります。成長を近くで見守れるのは本当に嬉しいです。でも、それだけではできない仕事です。専門性も求められ頑張り続けても、長く勤めるにはあまりに厳しい現場です。これ以上改善されない環境ならば保育士は増えないと思います。保育士プラス1が、どうしてそんなに大変なことなのかわかりません。国会議員こそ減らして保育士に回してもらえないでしょうか。

    こどものために 女性 50代
  • says:

    5人の1歳児、1人で1日中見てみろよ、、、

    1人クラス15人の1歳児、3人で見てみろよ、、、、

    み 女性 30代
  • 保育士12年目 says:

    保育士の虐待が騒がれるが、もちろんそれはあってはいけないこと。しかし、政府がしていることは、保育士に対してのある意味虐待。毎日、どんな思いで子ども達と向き合い必死に仕事をしているか。子どもが嫌いで保育士になんてなるわけがない。好き、大好きだから保育士になっているのに、現場の悲惨な状況に限界がきて辞めていく。

    保育士が少ない、そりゃそうでしょ?そもそも誰の子ども?お仕事じゃないなら、保育園は休んで我が子と過ごすのは当たり前でしょ?親のリフレッシュ?それ必要?

    私にも子どもが居るけれど、私が休みの日もちろん子どももお休みさせてます。親が我が子をみるのは当たり前の事。保育園をなんだと思ってるんだか、と政府にも保護者にも感じちゃいます。

    保育士12年目 女性 30代

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