保育士が園児から離れる「ノンコンタクトタイム」とは リセットして不適切保育の防止に

藤原啓嗣 (2024年1月17日付 東京新聞朝刊)
 長時間勤務や残業など厳しい労働環境が指摘される保育士の働き方を見直そうと、「ノンコンタクトタイム」という考え方に注目が集まっている。勤務中にあえて一定時間、子どもから離れる時間を確保する取り組み。識者も「不適切保育を防ぐ効果がある」と話す。
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職員の専用スペースで、保育計画を見直す保育士たち=横浜市瀬谷区の鳩の森愛の詩瀬谷保育園で

ノンコンタクトタイム

 勤務時間中に保育士らが一時的に子どもから離れ、各種の業務に取り組む時間。こういった時間を確保することで、事務作業に集中したり、職員間で情報交換したり、保育を振り返ったりできる。厚生労働省の「保育の現場・職業の魅力向上に関する報告書」は、ノンコンタクトタイム確保について「保育士が仕事のやりがいを実感するのに効果的」と評価している。

園児見守り分担→他の業務も日中に 

 「残業時間はだいぶ減った」。横浜市瀬谷区の鳩(はと)の森愛の詩(うた)瀬谷保育園の和田みずき主任保育士はノンコンタクトタイム導入の効果を語る。昨年12月初旬、園を訪れると、保育士2人が専用の部屋で記録を付けたり、月ごとの保育計画を練ったりしていた。

 園では7年ほど前まで、日中は園児を見守り、夜間に保育の計画や記録、教材の準備をするのが当たり前だった。負担が重く退職する保育士も目立った。働き手の環境が整ってこそ、保育の質を高められるはずだと、働き方を改めた。

 今は各クラスで週に一定時間、保育士が園児から離れる時間を設けている。その間は管理職や別のクラスの保育士が受け持つなどし、互いに支え合う意識もできてきた。

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休憩中に談笑する保育教諭ら=岐阜県大垣市のかみいしづこどもの森で

 「昔はあれもやらなきゃ、これもやらなきゃと仕事に追い立てられていた」と和田さん。「一時的に子どもから離れることで心の余裕ができる」と語る。

約4割が子どもと離れる時間はゼロ

 こういった取り組みの必要性は、国内でも5年ほど前から指摘されてきた。早朝や夜間を含め1日8時間を超える長時間保育が求められるようになった保育士が、子どもと向き合う中で心と体を擦り減らしているのでは。こんな懸念が、専門家から上がっていた。

 全国私立保育連盟(東京)は2018年、全国の保育所やこども園の職員3508人を対象にノンコンタクトタイムが確保されているかを調査。1日で直接子どもと関わらない時間が「0分」と答えたのが39.2%、「平均20分未満」が21.3%だった。「60分以上」は15.2%だった。

 今の国の配置基準では、1、2歳児6人を保育士1人で担当するなどとしており、意図しないと仕事中に時間や心理面の余裕は生まれにくいという。施設で保育士だけが過ごすスペースがないといった施設面の状況も、要因として考えられる。

保育者だけの食事がリフレッシュに 

 食事の場所を園児と分けるといった、できる範囲で取り組む施設も。岐阜県大垣市の認定こども園・かみいしづこどもの森は、食事を子どもがマナーや社会性を学ぶための重要な時間帯と考え、勤務する保育教諭は配膳と子どもの補助に集中する。

 このため保育教諭は別の時間帯に、専用の部屋で昼食を取る。「園児と一緒では食事に集中できず、早く食べなければと焦っていた」と好評だという。互いのクラスの情報交換にも役立っている。保育教諭の加藤絢子さん(26)は「リフレッシュできる」と感謝する。脇淵竜舟(りょうしゅう)園長(47)は「大人も子どもも無理のない生活を過ごしてほしい」と願う。

 玉川大の大豆生田(おおまめうだ)啓友教授(保育学)は「保育者が子どもの行動を振り返り、発達や内面の成長を理解して関わるためにノンコンタクトタイムは不可欠な時間」と訴える。各地で問題となっている不適切保育の背景に、保育士が心理的な余裕をなくしている現状があるとの指摘があることを踏まえ、「親でもずっと子どもと一緒に過ごしていれば、いらいらすることがある。1人で複数人を見ている保育士には気持ちや体をリセットするための時間も大切だ」と話す。

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  • ぴかりんさん says:

    日誌とか連絡帳は午睡の時に何とか書きますが、行事の準備とか年カリとか月案とかって家でやりません?

    だって、ノンコンタクトタイムは取りたいけれども、保育基準の人数が結局足りなくなりますし、保育中に月案とか書いていたら、噛みつきとか怪我のリスクが出ますし…。

    一応家には持ち帰るなと言われているけど、持ち帰らないと実際には完成しないので、こっそり持ち帰らざるを得ない状況になるなぁって思います。靴屋と小人ではないですけれども、夜に出来てなかったものが次の朝なぜか出来てる状態にしないとまわっていかない気がします。

    ノンコンタクトタイムもそうですが、おやつを食べているときに掃除機をかけるとか、洗濯物を子どもたちが少ない時間に子どもと引き連れて洗濯機のところに行って干したり、取り込んだり、畳んだりと、しかも親にみられるとクレームに何回かなったので見られないようにやらないといけないのが大変だなぁって思います。

    ぴかりんさん 男性 40代
  • そら says:

    ノンコンタクトタイムが4割取れるのは東京だからだと思います。

    二年前まで都内で保育士として働き、現在、北九州市で非正規として働いていますが、正規保育士は公立も私立も3割くらい。しかも正規しか連絡帳や日誌、保育計画、行事準備などしないように制限しているからノンコンタクトタイムなしでできるわけがない。

    かと思うと正規がシフト勤務や休んだ単数担任のクラスに入ることが多く、複数担任クラスは非正規だけで保育、保護者対応をしている。記録はできないからと、口頭で正規に伝えている。これなら正規を増やすか、非正規の待遇を上げてする仕事を増やすかしないと仕事の軽減をできず、正規保育士は辞めていくと思う。

    非正規保育士も正規並みに自分で判断することを許されていないからやりづらいと思っていながら働いている。経費削減で正規が少なくても運営できるようにした自治体や国が無責任だと思う。

    保育にお金をかけないようにするという考えがもともとの原因なので、国がそこを真剣に考えないと、良い保育はできない。疲れ果てた余裕のない保育士が良い保育をしたくてもできない。だから不適切保育が増えているのではないですか?

    そら 女性 60代
  • 匿名 says:

    不適切保育が行われている園では、このような取り組みなんて頭から否定して終わりなのだろうなと思いました。というか、自分たちがしていることが不適切保育と思ってもいないかもしれませんが…。

    業務の多さが引き金になっているのではなく、子ども主体ではない古い考えの園長主任がいる園、自分の気持ちをコントロールできず若い保育士に嫌味を言ったり理不尽なことで怒鳴ったりする年配保育士…このような人的環境が問題だと思います。

    常に年配保育士の機嫌をうかがいながらの保育、地獄でしかありません。気持ちに余裕が持てるわけありません。保育士も人間です。そのような状況で子どもに優しくなんてできません。

    ノンコンタクトタイム以前に園の雰囲気どうにかしてほしい人たくさんいると思います。業務がどんなに大変でも園の雰囲気や人間関係が良い園ならば、ノンコンタクトタイムなんて無くても不適切保育なんてそもそも起こりません。

    むしろ、機嫌の悪い先生と一緒にノンコンタクトタイムとらなければならないなら、そんなもの無い方がマシです。

    仕事量が多いとも言われていますが、もっとたくさん仕事している職業の方もいます。

     女性 30代
  • みぃ says:

    認定こども園に勤務して5年目。

    日々の追われる準備と、年々求められる理想が高まっていくことへのプレッシャー、そして保護者も保育していく時代と言われながら相手にしている数々のモンスターペアレントたちに心が押しぶされ、保育士人生に終止符を打ちます。

    子どもが好きで、子どもたちのことを1番に考え、様々なことを経験して一緒に成長した5年間。子どもたちの前に立って楽しく保育をする自分が好きでした。給料が安すぎても、やりがいだけで続けてこれました。

    ノンコンタクトタイムも導入されましたが、人員不足でノンコンタクトタイムなんて取れないのが現実。「30分でも15分でもいいから取れる時に取って」と言われる始末。15分なんて、制作準備の準備で終わる。パソコンたちあげて週案・日案のねらいを打って終わる。そんな時間ならいらないと思う。

    そんな時間を導入するくらいなら、1時間でも2時間でも残業するから給料をあげて欲しい。見込み残業でいいからもっと給料を上げて欲しい。

    休憩なんて20分もあったら「あ、今日結構とれたな」と思う。10分もない食事時間。家に帰って500mlの半分以上残っているペットボトルを見て、今日も忙しかったな、と思い返す。

    ただ今は、よく5年間頑張ったねと自分を褒めてあげたい。

    みぃ 女性 20代
  • 匿名 says:

    保育料無償化や子育て支援…それも良いかと思いますが、保育士・保育教諭達の事をもっと考えてほしいと思いました。

    政治家の方々に実際の現場を間近で見て感じてほしいです。どれだけ保育の現場大変なのか…休憩やノンコンタクトタイムがとれないか…保育士達の日々の頑張りを感じてほしい。

    そして給与をあげてほしい。私たちは可愛くて大切な子ども達の命を預かっているのだから…

    皆さんのコメントを見て同じ考えだと思うものがたくさんありました。

     女性 30代

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