「日本の子どもは寝不足です」注目の睡眠学者・柳沢正史教授が解説 子どもの年齢別に気をつけたいこと
睡眠で大切なのは圧倒的に「量」
―質の良い睡眠とは。
質には主観的な質と客観的な質とがあり、必ずしも一致しないことが分かっています。主観的な質は、朝すっきり起きられて、ぐっすり眠れたという感覚。夜中、目が覚めないことも大切です。
一方で、客観的な質は、脳波を調べる検査で、寝ている時の脳の働きを見れば分かります。ぐっすりと眠る「ノンレム睡眠」と鮮明な夢を見る「レム睡眠」の間を規則的に行ったり来たりするのが、良い睡眠です。
ところが、このデータは主観的な質と一致しないことがあります。検査で良い睡眠が取れていても、「よく眠れなかった」と感じる人もいるのです。
一番大切なのは、睡眠の量です。あとは、夜中に起きない、朝すぐに起きられる、などで判断してみてください。
ー22時からは睡眠のゴールデンタイムと言われます。
それはナンセンスで、一番深い睡眠に入るのは、眠り始めてからの3時間なんです。この時間がゴールデンタイムで、成長ホルモンが分泌されます。一律で22時にやってくるという話ではないです。
日本の子どもは多くが睡眠不足
―子どもの年齢ごとに必要な睡眠量は。
アメリカの小児医学の教科書には、睡眠のために使うべき時間が載っています。例えば、3歳だと計12時間。推奨される睡眠時間は驚くほど長く、日本の子どもの多くが寝不足です。
乳幼児の就寝時刻をみても、日本は22時以降に寝る割合が約47%を占め、他の国と比べて遅いというデータもあります。おそらく日本の多くの家庭では、乳幼児と親が同室で寝ています。そのせいで、子どもの生活リズムが親に引きずられてしまっています。
川の字で寝るのは、あまりお勧めしません。同室で寝るにしても、眠りを妨げないよう、敷布団や掛け布団は分けた方がいいです。それと、夏でもタオルケットは掛ける習慣をつけてください。蹴飛ばすかもしれないけれど、それでいい。そのうちにタオルケットから手足を出し、体温を調整することでぐっすり眠れます。
―睡眠不足だと、どんな影響がありますか。
記憶の形成にかかわる脳の「海馬」の大きさは、寝不足気味の子ほど小さくなることが分かっています。ほかにも、風邪をひきやすくなったり、過食になったり。子どもは「眠い」と言う代わりに、落ち着きがなくなるなど、いわゆる問題行動につながることが多いです。
自分なりの寝る前ルーティンを
―寝る直前に「おなかがすいた」という子どもに食べ物を与えてもいいでしょうか。
少量であれば悪くないです。おなかいっぱいになりすぎると眠れないので、バナナを3分の1~4分の1ぐらいなど。
私の好きな歌で、杏里の「オリビアを聴きながら」の中で「ジャスミン茶は眠り誘う薬」と歌ってるんですよ。本当にその通りで、ノンカフェインのハーブティーでも、ホットミルクでも、寝る前にリラックスできる行動は、良い睡眠につながります。
これらをまとめると、入眠儀式と言います。ベッドタイムルーティンと言って、特に子どもにとって極めて大事です。自分なりのルーティンを持っている子の方が寝つきがいい、睡眠の質がいい、という研究もあります。お風呂に入り、パジャマに着替えて、歯を磨き、絵本を読み聞かせたら就寝など、流れを決めておくと体が覚えて、自然と眠くなるシグナルになるのです。
なかなか夜に寝かしつけられない
―抱っこでしか寝てくれず、赤ちゃんを夜通しベッドに下ろせない親もいます。
背中が布団についたとたんに泣く、いわゆる「背中スイッチ」ですね。そのままにしておくと親に負担がかかって、心理状態も悪くなってしまいます。スリープトレーニングで、赤ちゃんに自分で眠ることを覚えさせることができます。個人差はありますが、まとめて眠るようになる5~6カ月くらいから始められます。
アメリカやヨーロッパで開発されたトレーニングで、いろいろな流儀があるようです。例えば、泣かれても初日は数分そのまま様子を見る。次の日は少し時間を延ばす。これを繰り返すとやがて、自分で寝られるようになることが多いです。根気と我慢と忍耐がいりますが、お子さんに合った方法をぜひ探してみてください。
―保育園でたくさん昼寝をしてくるので夜の寝つきが悪いです。
子どもの昼寝は、せいぜい3~4歳まででしょうね。5歳でも保育園で寝かせるところもあるようですが、ほとんどの子は必要ないと言われています。寝ても、せいぜい30分くらい。3歳で2時間は寝過ぎだと思います。それは夜の睡眠が圧倒的に足りていない。夜眠れていれば、1時間で十分です。
―夜泣きには、どう対応すればいいでしょうか。
夜泣きや、ギャーッと驚いて泣いてしまう夜驚症、歩き回るなどの夢遊症状がある子どももいます。ですが、そんなに気にする必要はありません。けがをしないように見守る必要はありますが、泣いていてもそのままでいい。そのうち、自然と眠りに戻り、本人は覚えていません。揺り起こす必要はないです。
高校生が夜に目がさえるのは
―子どもが朝、自分から起きてこないのは、睡眠不足が原因ですか。
第一はそうですが、思春期には朝型から夜型になることも関係していると思います。「睡眠中央時刻」という言葉があります。自由に眠った時間の真ん中の時刻をいい、例えば夜11時から朝7時まで寝たら、夜中の3時がそれ。ドイツ・スイスの調査結果を見ると、小学生は比較的朝型ですが、高校生くらいからは夜型に2時間近くシフトしています。
20歳ごろが最も夜型で、年を重ねるほど朝型になります。年齢による変化に加えて、朝型夜型は個人差もあり、遺伝子レベルで決まっています。
―夜型の子は、どうすればいいでしょう。
朝、目から入る光でリセットされる体内時計を、今以上に遅らせないことです。強い光を浴びると、最大1.5時間ほど早まります。逆に夜に強い光が目に入ると、最大3時間遅れます。遅れる方が簡単です。
とにかく朝起きたら、カーテンを開けて、強い光を目に入れましょう。朝食を取ることも、体内時計を早める上で重要です。逆に夜は、部屋を少し暗めにしましょう。日本の住宅は、夜、明るすぎます。天井のライトを電球色にして明るさを少し落とすといいです。雰囲気のいいレストランのような、最初は薄暗いと感じるくらいで十分です。
―夏休みは、何に気を付けたらいいですか。
中学生まではもともと朝型なので、早起きを続けるのがいいと思います。普段と夏休みとで、睡眠の中央時刻の変化を1時間以内にとどめないと、元に戻すのが大変です。
一方、高校生で夜型の子は、むしろ遅く寝て遅く起きるようにしてあげると、かえって調子がよくなると思います。ただ、朝の光を浴びて、日中に活動するというサイクルは守りましょう。夏休みが明ける3~5日前から元に戻してください。
―中学受験をする小学生は、塾が終わるのが22時という子もいます。
小学生はすごく長く寝るべきです。朝7時に起きるなら、22時には寝る必要があります。22時に塾が終わるのなら、帰ってすぐ寝てほしいくらいです。そんな遅くまで、塾が授業をすることがよくないと思います。逆に勉強ができなくなる。学習して、睡眠を取ることで記憶が定着します。塾へ行くことで、成績を落としていると言っても過言ではないです。
夏休みは睡眠負債の返済に取り組もう
柳沢教授によると、睡眠の深さは、レム睡眠と3段階のステージがあるノンレム睡眠に分かれています。レムは「 Rapid Eye Movement 」の略で、目がきょろきょろ動くという意味。鮮明な夢を見る睡眠です。
眠りに入ると、まずノンレム睡眠が訪れ、やがてレム睡眠がきて、このサイクルを繰り返します。眠り始めはノンレム睡眠が長く、後半はレム睡眠が長くなります。ノンレムとレムのサイクルは1回90分ほどと言われますが、同じ人の一晩の中でも、それぞれの長さは1~2時間ほどの幅で揺らぐので、90分は平均値にすぎないそうです。
レム睡眠は最新の研究では、決して浅い睡眠ではなく「ノンレム睡眠のステージ2~3と同じくらい深く、重要な睡眠」だとされています。レム睡眠の量が減ると、寿命が縮んだり、認知症になったりするとのデータもあります。
人によって必要な睡眠時間は異なりますが、自分に必要な睡眠時間を知るためには、「続けて4晩、誰にも邪魔されず、眠れるだけ眠ってみてほしい」と柳沢教授。ほとんどの人は、日ごろの「睡眠負債」を返すために、初日は普段より長く寝ることになります。徐々に睡眠時間は減り、3~4晩目以降は、その人が必要とする睡眠量に落ち着いていくそうです。
夜に十分眠れていたら、昼寝は必要ありません。ただ、夜型の高校生など、どうしても昼間に眠くなってしまう場合、20分程度の仮眠を勧めます。それ以上眠ると、深い睡眠に入ってしまい、起きてもしばらく頭がボーッとしてしまうからです。夜の睡眠に影響が出るので、午後2時か、遅くとも3時までには仮眠を終えた方がいいです。
普段「十分に眠っている」と思っている人でも、実は睡眠が足りてないケースは多いです。睡眠の中央時刻は大幅にずらさない方がいい。そのため、夏休みはいつもより早めに寝て、睡眠負債の返済に取り組むことを勧めています。
やなぎさわ・まさし
1960年東京生まれ。筑波大学大学院修了、医学博士。大学院在学中の1988年に血管を収縮させる物質「エンドセリン」を、 1998年に睡眠と覚醒の切り替えに関わる脳内物質「オレキシン」を発見。31歳で渡米し、24年間にわたりテキサス大学とハワードヒューズ医学研究所で研究室を主宰した。2012年から現職。17年、睡眠から健康をつくることを目的に、筑波大発のスタートアップベンチャー企業「 S’UIMIN 」を起業し、22年より代表取締役。紫綬褒章(2016年)、文化功労者(2019年)、ブレークスルー賞(2023年)など多数受賞。
なるほど!
グッときた
もやもや...
もっと
知りたい
孫(1.5 歳 3歳)を任されて、寝かしつけるのに苦労しています。
個別によるのでしょうが、ここのはなしは残念ながらあまりにも一般的な話で、あまり役に立ちませんでした。