女優 富田靖子さん 面と向かって「ありがとう」と言えないけど、私はあなたの娘です
悠々自適な80歳 自慢は骨密度
80歳の母はゴーイング・マイウェイな人で、1人で悠々自適に暮らしています。本を読んだり、好きなテレビを見たり、料理や栄養の勉強をしたり。私と兄、妹の誰かが月に2回くらいは戻って、サポートしています。
骨密度の高さがすごく自慢で、実年齢より10~15歳若いようです。家に帰ったときは「女性は骨粗しょう症になりやすいから牛乳を飲みなさい。ヨーグルトを食べなさい」と、1日3回くらい私や中学生の娘に言うんです。
結婚前はバリバリの外科の看護師だった母は大きな病気をして、長く入院しました。体が丈夫でないのに、重いでしょうに3人の子のお弁当を持って小学校の運動会を見に来たり、授業参観にも来てくれた。大病をしたためか健康にはとても気を使い、タンパク質を取って筋肉をつけるとか、今も栄養学の勉強をしているのだと思います。
「似たくない」と思っていたのに
私はすごく食が細くて。牛乳も飲めなくて食卓の真ん中に置いてある箸立てやおしょうゆの間に牛乳をそっと隠して知らんぷりしてました。でも、母の炊き込みご飯は一番好きで、小学校3~4年のころに5杯食べた記憶があります。ニンジンやシイタケ、鶏肉。春ならたけのこも入っていたかもしれません。私の娘も食が細いので、食べさせなければいけないときは好物の炊き込みご飯を作ります。おばあちゃんの味ですね。
母は孫たちに「おばあちゃん」とは絶対に呼ばせない。「あーちゃんって呼びなさい」と。ばあちゃんの「ば」を抜いて「あーちゃん」。私もおいっ子やめいっ子に「ねーね」と呼ばせています。娘は「なんでおばさんと呼ばせないの」って。母と私はよく似ています。特に、怒った時なんかが。似たくないと思っていたんですが。
似れば似るほど反発するというか、磁石のS極とS極みたいで、けんかもします。私は14歳で東京に出て仕事を始めてしまった。今も思春期の14歳のまま母親にぶつかっているような、そんな気がします。娘ともこの前、けんかをして10日くらい口を利かなかった。母も私も娘も、うちは3世代で似ていますね。
母の大変さ、分かっていなかった
子どもを持って初めて、3人の子を育てる母親の大変さを全然分かっていなかったことを知りました。「娘が巣立ったらどう思うんだろう」と感じた時、14で娘を送り出した母の気持ちが何となく分かるような気がしました。
面と向かってありがとうとは言えないけど、「確実に私はあなたの娘です」と言えます。兄妹3人が新幹線や飛行機で母の元に通うのは、そこが帰る場所だからですね。
富田靖子(とみた・やすこ)
1969年、福岡県出身。1983年に「アイコ十六歳」で映画デビューし、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。映画やテレビドラマ、舞台などに多数出演。7月3日から東京・新宿の紀伊国屋ホールで行われるこまつ座の舞台「母と暮せば」に出演する。
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