育児の悩みを相談したら虐待リスク判定「裏切られた思い」…乳幼児健診の問診チェックの現状と課題
制度を活用したらマイナス評価された…
「行政の子育て相談を頻繁に利用していたこともあり、育児に不安のあるお母さんと判断しました」
5年前、関東地方に住む40代の母親は、児童相談所の職員の言葉に耳を疑った。当時生後10カ月の長男のけががきっかけで虐待を疑われた。懸命に否定したが認められず、児相に一時保護され、その後の施設入所につながった。
以前、家庭訪問に来た保健師にチェックシートを使った問診を受け、母乳の悩みを伝えた際に勧められた行政の相談窓口を数回利用した。核家族での慣れない育児。自治体の子育て支援サービスも最大限利用していた。子育てのヒントを得るため、保健師に不安や育児の悩みを打ち明けたことが起点となり、虐待リスクのある家庭と評価された。
母親は「行政は『健診に行くように』『不安があれば相談して』と制度を整え、利用を促すのに、頻繁に活用したらマイナス評価されるなんて裏切られた思い」と憤る。「育児に不安を抱える人が相談をためらい、かえって虐待リスクを高めるのではないか」
母親の精神状態チェック 2015年に拡充
厚生労働省によると、もともと日本の乳幼児期の問診は、諸外国に比べて体の発達に関する内容が充実しており、視力や聴力、骨格などの異常の早期発見に力を入れてきた。子ども虐待の社会問題化を受け、2000年以降は乳幼児健診など親子と接する機会に、子育ての不安をすくい取り、虐待の兆候をつかむことにも重点が置かれるようになった。
各市区町村では2007年から、生後4カ月までの乳児の家庭を保健師らが訪問する「こんにちは赤ちゃん事業」も開始。2015年には、乳幼児健診時の問診に、「ゆったりした気分で過ごせているか」「子どもに対して育てにくさを感じているか」など、主に母親の精神状態に関する質問を追加。全体の項目数は25~27から40~46に増えた。全国共通の必須項目と自治体の裁量項目がある。
親が警戒し、不安を隠してしまう恐れも
母子保健に詳しい香川大医学部准教授の辻京子さん(53)は「チェックシートは経験の浅い保健師の助けになっている」と評価する一方、課題も提示する。まず項目内容の妥当性を挙げ、「その日がどんな一日だったかにも大きく左右される」と指摘。たまたま子どもが泣きやまない日であれば、母親の気持ちも揺れるとし、「母親の心理状態を正しく評価できる問いなのか、検証が必要」と話す。
母親の不安感に焦点を絞った保健師側のチェックにも疑問を抱く。現状は「育児が楽しめていない」「児(こ)について否定的に話す」など、マイナス要素を数える方式だ。
母親への聞き取り調査を7年間続けている辻さんは「問診の回答が虐待リスクとしてチェックされることへの親の警戒感は高く、不安を隠す方につながっている」と話す。「虐待の兆候を見逃さないことに偏りすぎていないか。『相談できることは強み』と肯定的に捉え、保護者の個々の不安に具体的なアドバイスを提供し、後戻りできない不安になる前に解消するサポートこそ必要」と訴える。
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