小田急「子ども運賃50円」破格値下げの理由 年2.5億円の減収でも将来のため 子育て層に愛されたい
子育て層へのPR不足に危機感
「子育て層に対するPRが不足していることに、危機感がある」。子どもの運賃の値下げを立案した小田急電鉄交通企画部の秋山昌三・企画管理担当が明かす。
きっかけは2017年に実施した独自の調査。他社の沿線地域を含む住民へのアンケートで、小田急は「子育て世帯を支える施策が足りない」との印象を持たれていることが分かった。
将来の顧客とも言える子どもと、その親に好まれる路線であるか否かは経営を左右する。小田急は調査後に社内プロジェクトをつくり、弱点克服に着手。その中で温めてきた秘策が「IC運賃50円」だった。小児用通学定期券も全区間一律運賃にする。
「こども100円乗り放題デー」
値下げにより単純計算では年間2.5億円の減収となるが、新たな需要を喚起し、むしろ増収を目指す。「安いから小田急にしようとか、ロマンスカーに乗ろうと思う家族連れを掘り起こしたい」と秋山さん。2019年から続く人気の低運賃イベント「こども100円乗り放題デー」に、沿線の自治体や企業が協力してくれることも好材料だ。
とはいえ、始める前から困難も積み重なる。地盤の東京都や神奈川県でも少子化が進む中、自社や自治体の努力だけで沿線人口を維持するのは難しい。さらには他社との値下げ競争が生じることも予想され、秋山さんは「私たちが力を付けないと」と身構える。
少子化の中、ライバル私鉄は?
東京と神奈川を走るライバル私鉄はどうか。東急電鉄は1月、国に運賃の値上げを申請した一方、通学定期券代は据え置くことで保護者の負担増を抑える方針。記者発表では小井陽介執行役員が「休日少額乗り放題」などを例に、子育て世帯に向けた運賃優遇策を検討する考えも示している。
京王電鉄は運賃の値下げには踏み込んでいない。ただ同社は、これまでも保育所や子ども向け施設を整備し、親子を対象にした割引商品などを企画。広報担当者は「選んでもらい、住んでもらえる沿線にしたい」と話す。
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