【選択的夫婦別姓がわかるQ&A①】家族の絆がなくなる? 周りは分かりづらい?

【子育て世代の疑問に答えます】

 9月の自民党総裁選で争点の一つになった「選択的夫婦別姓」。夫婦が、同じ姓を名乗る(夫婦同姓)か、それぞれ結婚前の姓を名乗り続ける(夫婦別姓)かを選べる制度です。夫婦同姓を法律で義務づけているのは世界でも日本だけで、晩婚化やグローバル化、IT化など時代の変化に伴い、さまざまな不都合が生じています。そして、その不都合を感じているのは、ほとんどが女性。男性の議員や経営者、裁判官らに訴えても理解を得にくい問題でもあります。

 最近よく耳にするようになったけれど、詳しい内容が分からず、「今までと違うのは、なんとなく不安」という人もいるでしょう。衆院選を前に、子育て世代にも身近な疑問を、別姓訴訟弁護団にかかわる弁護士、榊原富士子さんと寺原真希子さんの著書「夫婦同姓・別姓を選べる社会へ」(恒春閣)を基に解き明かします。

【疑問1】別姓を認めると、家族の絆や一体感がなくなりませんか。

 <答え> 今でも、再婚家族や事実婚の家族など、別姓の家族はたくさんいます。日本以外の国では夫婦別姓も選べますが、それによって家族の絆や一体感が薄れたとか、離婚が増えたといった現象・統計はありません。

 日本では、日本人同士のカップルには別姓が認められていませんが、日本人と外国人のカップルの場合は別姓が認められているため、国際結婚では別姓の家族も目立ちます。日本人同士でも、前婚での子のいる再婚家族などで別姓の場合が少なくありません。事実婚の家族はすべて夫婦別姓・親子も少なくとも親のいずれか一方と子は別姓です。

 どんなことで家族の絆や一体感を感じるかは、その人、その家族次第。本来は相互の思いやりや信頼によってこそ醸成されるものです。別姓だから家族の一体感や絆に欠けているなどと他人が言えないことは明らかです。

 内閣府による2021年の世論調査によれば、「夫婦・親子の名字・姓が違うことによる、夫婦を中心とする家族の一体感・きずなへの影響の有無についてどのように思うか」という質問に対し、「家族の一体感・きずなには影響がないと思う」と答えた人の割合は61.6%に上り、「家族の一体感・きずなが弱まると思う」と答えた人の割合(37.8%)を大きく上回っています。

 姓が同じであることで、より一体感を得られるという人もいれば、同姓であることが家族であることの実感にはつながらないという人もいます。選択的夫婦別姓は、同姓か別姓を選べる制度。姓による一体感を得たいという人は、これまで通り、夫婦同姓での結婚スタイルを変える必要はありません。

【疑問2】別姓夫婦(別姓家族)だと、周りから夫婦(家族)だと分かりにくくなりませんか。

 <答え> 家族であることを周りに示し、識別させる機能は「公示識別機能」と呼ばれます。夫婦同氏制が定められたのは1947年ですが、当時と比べて個人の活動範囲やコミュニケーションの範囲は飛躍的に広がっており、個人の特定・識別こそが、毎日の生活・各自の人生にとって大切という人も多いでしょう。かつて小さな村社会では役立った姓による家族の公示識別機能の必要性は低下しています。

 ともに暮らしていても姓が同じでない夫婦、親子は既にたくさんいます。たとえば、

・父母の片方が結婚前の姓(旧姓)を通称使用している(第三者から見れば別姓の夫婦ないし親子に見える)

・前の結婚の時に名乗っていた姓を名乗る子を連れて再婚し、その親は再婚相手の姓を名乗ることとなって、夫婦(親)と連れ子の姓が異なる

・母が離婚後、結婚前の姓に戻し、父の姓(母の元夫の姓)を名乗る子と母が、別姓親子としてともに暮らしている

・日本人と外国人が国際結婚し、夫婦が別姓で、かつ夫婦の一方と子の姓が異なる

・子が祖父母の養子になり祖父母の姓を名乗り、祖父母の姓とは異なる姓の実父母が他の実子と同様に祖父母の養子になった子を養育監護している

・祖父母・父母・子など3世代以上が同居している

・事実婚(夫婦は別姓、その間に生まれた子の姓は父母の一方とは別姓)

などのケースです。

 日常の付き合いの中で重要なのは、その家族が同姓か別姓かではなく、実態として家族であるかという点ではないでしょうか。「周りから見て家族であることが分かりにくい」という程度のことは、望んでいない人に結婚の際に改姓を強いるほどの理由にはなりません。

 国はマイナンバーで個人を特定・識別し、企業も住民票で家族の識別を行うなど、行政からみた個人・家族の識別方法は多様化しています。現在の夫婦同氏制は、別姓での法律婚を希望する者を事実婚に追いやってしまう側面があることの方が問題です。

 事実婚については戸籍に婚姻の登録がされないため、国や自治体が夫婦や親子であることを把握する機能を著しく低下させています。夫婦同氏制は、国や自治体との関係では、かえって家族を対外的に公示し識別する機能を低下、あるいは失わせる結果となっているとも言えるのです。

選択的夫婦別姓とは

 夫婦が、同じ姓を名乗る(夫婦同姓)か、それぞれ結婚前の姓を名乗り続ける(夫婦別姓)かを選べる制度。1996年、法相の諮問機関「法制審議会」が導入を盛り込んだ民法改正法案要綱を答申したが、自民党保守派から「家族の絆が壊れる」といった反対意見が強く、国会に上程されないまま30年近くの年月が流れた。以前は別姓を認めていなかった国も男女平等などの観点から制度を是正する中、日本は別姓を選べない唯一の国として取り残されている。2023年に婚姻した夫婦のうち94.5%が夫の姓を選択した。

 別姓を認めない日本に対し、国連女性差別撤廃委員会は再三の改善勧告をしている。日本は、旧姓を通称使用する独自の政策を推進しているが、グローバル経済の中、2つの名前を使い分けるローカルルールとして混乱のもとにもなっている。多様性や公平性なども含めて課題に対応する「DEI」の観点から、経団連は24年6月、選択的夫婦別姓の早期実現を政府に求める提言を発表した。

◆次の疑問は「子どもの姓はどうなる? かわいそうではない?」→記事はこちら

【子育て世代の疑問に答えます】

 9月の自民党総裁選で争点の一つになった「選択的夫婦別姓」。夫婦が、同じ姓を名乗る(夫婦同姓)か、それぞれ結婚前の姓を名乗り続ける(夫婦別姓)かを選べる制度です。夫婦同姓を法律で義務づけているのは世界でも日本だけで、晩婚化やグローバル化、IT化など時代の変化に伴い、さまざまな不都合が生じています。そして、その不都合を感じているのは、ほとんどが女性。男性の議員や経営者、裁判官らに訴えても理解を得にくい問題でもあります。

 最近よく耳にするようになったけれど、詳しい内容が分からず、「今までと違うのは、なんとなく不安」という人もいるでしょう。衆院選を前に、子育て世代にも身近な疑問を、別姓訴訟弁護団にかかわる弁護士、榊原富士子さんと寺原真希子さんの著書「夫婦同姓・別姓を選べる社会へ」(恒春閣)を基に解き明かします。

家族の絆がなくなる? 周りは分かりづらい?

子どもの姓はどうなる? かわいそうではない?

別姓だと戸籍はどうなる? 制度が崩壊しませんか?

旧姓を通称として使用すれば問題ないのでは?

⑤旧姓と戸籍姓を使うことで困ることって?(近日公開予定)

著者の紹介

◇寺原真希子(左) 東京大法学部卒業後、司法試験に合格。長島・大野・常松法律事務所など東京都内の事務所で勤務後、米ニューヨーク大ロースクールに留学しニューヨーク州弁護士資格を取得。帰国後、旧メリルリンチ日本証券での企業内弁護士を経て現在、東京表参道法律会計事務所の共同代表。2011年に選択的夫婦別姓訴訟弁護団に加わり、22年から弁護団長。

◇榊原富士子(右) 京都大法学部卒業後、1981年から弁護士。婚外子相続分差別訴訟、子どもの住民票や戸籍の続柄差別違憲訴訟などを担当。離婚と子どもに関するケースを多く扱う。2009~14年、早稲田大大学院法務研究科教授。2011~22年、選択的夫婦別姓訴訟弁護団長を務めた。