指導者が怒るのは自己満足。それでは成長しない 益子直美さんと考える、子どもとスポーツのあるべき姿【前編】
「監督が怒ってはいけない大会」
―初めまして。よろしくお願いします。今日はスポーツを教える側の視点と教わる側の子どもの保護者がどのように考えたらいいかについて、たくさん伺いたいと思っています。
こちらこそ、よろしくお願いします。子どもたちをどう指導していくかはとても大切な問題で、私自身も日々勉強している最中なんです。
―そうなんですね。スポーツ界の指導はこの10年で変わってきた印象を受けますが、益子さん自身はどのように向き合ってきたのですか?
そうですね、例えば、私は「監督が怒ってはいけない大会」というバレーボールの大会を開いて今年で丸9年になります。文字通り、監督やコーチが子どもたちに怒ってはいけないルールなのですが、最初は私自身もブレブレで。同時期に大学でも教えていたのですが、そこでは怒ってしまったりして。今の考えに落ち着くまでに時間がかかりました(笑)。
―益子さんが怒っている姿は想像しがたいです。
最初はよかったのですが、次第に自分の指導の引き出しがなくなってしまったんですね。私自身、怒られた経験しか成功体験がなく、指導者としての学びをしてこなかったので、それを使うしかなくなってしまったんです。
いろいろな指導法を学ばなければいけないとは思っていたのですが、今さら、若い人と肩を並べて勉強できないとか、元日本代表なのにとか。変なプライドがあって(笑)。でも、50歳を過ぎて、スポーツメンタルコーチングについて学び、(怒りの感情と上手に付き合う)アンガーマネジメントを勉強して、そこからは軸がぴたっと定まりました。
怒らなくても勝てる、成長できる
―子どもを教えるってすごく難しいことだと思うんです。私は学生の頃、バスケットボール部だったのですが、今考えると、むやみに怒られたり、パワハラのような指導を受けたりしたこともありました。
昔は厳しくてナンボ、つらさを乗り越えてやるというのがスポーツでしたから。でも、今は変わってきてますよね。科学的にエビデンス(根拠)がはっきりしてきたじゃないですか。水を飲んではいけないとか、肩を冷やしたらダメとか、根性論でやってきた人には、「これ見てください!」とデータを示せばよくなりました。感情ではなく、根拠に基づいてやることが大切だと思います。
―厳しさとパワハラの違いって何なのでしょう? 例えば、うちの子どものサッカーの試合を見に行くと、強いチームはピッと規律がしっかりしているのが分かります。厳しさとパワハラは背中合わせのような気もするんです。
実は私たち、監督は怒ってはいけないと言っていますが、厳しくしてはダメとは決して言ってないんです。強くなるために厳しさは必要。でも、怒ってはいけないというと大抵の人が、「今日は怒らないぞ」「勝ち負けよりも楽しんでやれ」と勝利を手放してしまう。私はいつも、「えっ、勝たなくていいの?」と思うんです。
勝利は手放さないでください。勝ち負けがあるからこそ、子どもは成長するし、負けて学ぶこともたくさんあるからです。でも、怒らないと勝てないと思っている監督さんがすごく多くて…。だから私は「監督、怒りがなくても勝てますよ。怒りがなくても育成と勝利、両方手に入る指導方法を見つけてください」って言うんです。
厳しさはあってもいい、罰はダメ
―具体的にはどのように考えたらいいのですか?
子どもがミスしたとき、多くの指導者は「何をやってるんだ!」「そんなミスするなよ!!」と叱りますが、それで子どもはうまくなりません。ミスしたことには理由があって、それに気付かせてあげないと、進歩が生まれない。「今のプレーはどう思った?」「フォームはどうだった?」と問い掛けてみるのもいいですね。怒る指導者は叱って自分が満足しているだけです。
―厳しくしてもいい、ということでしょうか?
自分を成長させるために、ある程度厳しい練習は必要だと思います。ただ、厳しい練習だけではケガの恐れもあるし、また、それを罰にしてはいけません。例えば、ミスしたら校庭何周走れとか、バレーなら一人でレシーブさせたりとか、そういうことではなく、うまくなるために目標を設定し、どうしてこういう練習をするのか、時には厳しい練習を乗り越える必要も出てくるということなどを理解してもらうことが大事です。
―これまでのやり方を変えるのは勇気が要りますよね。
はい。でも、必要なことですから。私は「子どもたちにはチャレンジしろと言っているのに、自分はチャレンジしないんですか? 普段と違う指導方法に監督もチャレンジしてください」と言っています(笑)。
怒りは防衛感情 指導ではない
例えば、職場にやる気が見られなかったり、落ち込んでいる人がいたらどうしますか? まず、「何かあったの?」と聞きますよね? 何で、子どもだと一方的に叱ってしまうんですか?
子どもも一人の人間です。学校や家で何かあったかもしれない。どうしてやる気が出ないのか、大人と同じように聞いてあげたらいかがですかって言うんです。
そういう人って、やってもらわなければ困ると、怒って、無理やりやらせようとするんです。でも、知ってます? 人間、怒りが生まれるときって、何か自分を守りたいときなんです。怒りは防衛感情なので。自分の肩書、プライド、立場を守ろうとして怒りが生まれている。それは指導ではないと思うんです。
=後編「私が嫌だったのはバレーではなく、暴力や勝利至上主義だったんだ―。益子直美さんと考える、子どもとスポーツのあるべき姿」に続く
なるほど!
グッときた
もやもや...
もっと
知りたい
私ももりもりさんの意見と同じです!
今でも怒ること=指導と思っているコーチが多くて、自分の子がみんなの前で「バカ」とか「消えろ」とか言われるのを黙ってみているしかなくて、車の中で泣いているのを励ますしかありませんでした。
私は頑張れって言い続けて、それでもコーチが試合で使ってくれなくなって、息子は辞めました。今でもそのチームの名前を聞くと嫌な顔をして、彼の中ではすごいトラウマになっていると思います。
でも、今では違うチームに移籍して、そこのコーチがすごくいい人で、チームの仲間と楽しくバスケを楽しんでます。
指導者で揉めたり、嫌だなと思う人には、違うチームで競技を続けるという選択肢を持ってもいいと思います。
監督やコーチで子供の未来は決まります。そのくらい大事なことだと親は思っていいです。この記事がもっと多くの人に読まれることを祈ってます。
益子さん、ありがとうございます♪
この記事を見つけたときに本当にこれだよ!と共感しました!
早く指導者みんなが気づいてくれることを願っています。
我が子が小学生のときにコーチに罵倒されたり怒られたり…それでも好きだったから帰りの車で親にも気づかれないように泣いて過ごす日々でした…
親が気づかない訳ないわけで一緒に泣きながら坂道ダッシュをして気分転換してなんとか支えたり車の中でたくさん吐かせながらなんとか心を保っていました。
でも、今度はコーチが母親にも罵倒するようになり結果半年間我慢に我慢を重ねてきたあげく辞めることになっちゃいました…そのとき学校にも行けなくなるくらい落ち込み一人にしたら自殺するんじゃないかと心配するほどでした!
このときになんとか自分が子どもを支えないとと思い、スポーツメンタルトレーナーの勉強をして部活は辞めることになったけど子ども自身を守ることは出来たのかな?!と思っています。
まだ完全に心が復活してないように思えてまだまだ心配です。長い目で近くで寄り添い見守っていきます!
少しでも我が子のようなつらい思いをしないような明るい部活になることをただただ祈っています。
私が所属していたバレーボール部も監督の暴力や暴言で満ち溢れていました。セクハラこそなかったですが、監督の機嫌で練習がきつくなったり、今思うとパワハラでした。もうあんなことは私たちの代限りでなくなってほしいと願ってます。
怒ってはいけない大会をやってる益子さんの記事を読みたいと思ってました。読んでいて、厳しさはいいけど罰にしないこととか怒らない指導方法とか勉強になりました。今川編集長の質問がどれも共感できてよかったです。ついつい私も子供に怒ってしまうので参考にします。