檜原村の木のぬくもりと香りに包まれる「森のおもちゃ美術館」11月3日オープン 建物の木材すべてが村内産
山、川…檜原村の地形のようなデザイン
入り口を抜けると、すぐに木の香りに包まれた。エントランスホールを右手に進めば、メインの「山のひろば」。大谷貴志館長(56)は「檜原村の地形を凝縮したようなデザインになっているんです」と胸を張る。
ひろばを横切る「ボールプール」は、村内を流れる北秋川をイメージ。ボルダリングウオールは、そびえ立つ岩山。階段状の小高い丘は段々畑で、村特産のユズの実を付けた「シンボルツリー」がそびえる。ピザ窯や、おもちゃの食べ物が並ぶ台所は村民が暮らす集落だ。
暖炉付きのログハウスをかたどった遊具、山から伐採した木を運び出すトラックのおもちゃ−。その多くは木工で、一部は、美術館に隣接する「おもちゃ工房」で制作される。作り手は、村内の林業会社「東京チェンソーズ」の若手従業員たち。
「おもちゃも好きですが、何より木のぬくもりが好きなんです」。大谷さんは、ヒノキ材でできた壁をさすりながら、「成り行きで館長に就任してしまいました」と笑顔を見せる。
小学校跡地を活用 卒業生がNPO設立
森のおもちゃ美術館は新宿区にある「東京おもちゃ美術館」の姉妹館という位置づけ。ここには以前、大谷さんが通っていた北檜原小学校が立っていた。1984年に閉校した後、渋谷区の「檜原自然の家」として活用されていたが、老朽化にはあらがえず、2019年に取り壊しが決定した。集落のシンボルとの別れを惜しんだ大谷さんら小学校の卒業生は、村が計画していた「おもちゃ美術館」を運営する指定管理の受け皿のNPO法人を設立した。
長年、都庁に勤務してきた大谷さんは、定年を待たずに退職を決断し、館長就任を引き受けた。「思い切った決断をしたと思います」と苦笑するが、学校を残したいという気持ちは、地域の住民も同じだった。地域の人たちも「いつできるの」「中を見せてよ」と開館を待ち望んでいたという。
そんな住民の思いに応えるように、館内には小学校の面影が残る。看板には音楽室の五線譜が記された黒板を再利用。山のひろばの壁面に据え付けられているイチョウの木の遊具は、校舎正面に植えてあったイチョウを利用した。
檜原村を全国的な「おもちゃの村」に
村の木材を使って建てた美術館。村内の林業会社が手掛けた木工おもちゃ。そこに込められた住民の思いは、村外にも響いている。
今年6月に美術館の裏山整備のための費用をクラウドファンディングで募ったところ、目標金額の200万円を超える600万円余りの支援が寄せられた。美術館で来館者をもてなすボランティアの「おもちゃ学芸員」も、123人のうち、90人以上が村外在住だ。
大谷館長は「予想以上に、檜原村を応援してくれる人は多い」と感謝の言葉を口にする。「木工おもちゃの作家にも村に来てもらって、全国的な『おもちゃの村』にしたい」。東京の最奥の小さな集落で大きな夢がふくらんでいる。
檜原 森のおもちゃ美術館
東京都檜原村3783番地。JR五日市線の武蔵五日市駅から西東京バスで約30分。車は中央自動車道の八王子IC、上野原ICから、いずれも約50分。圏央道の日の出ICから約40分、あきる野ICから約35分。
開館時間は4~11月は午前10時~午後5時。12~3月は午前10時~午後4時。入館料は中学生以上1000円、生後6カ月~小学生まで700円、65歳以上500円。木曜と年末年始など休館。問い合わせは「檜原 森のおもちゃ美術館」=電話042(588)4044=で受け付ける。
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