鳥の言葉は君にもわかる 世界で初めて「シジュウカラ語」を解明した動物言語学者・鈴木俊貴さんインタビュー

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双眼鏡を手に森で鳥の観察をする鈴木俊貴さん(本人提供)

 「ピピピ」「チュンチュン」。私たちの近くで聞こえるさまざまな鳥の声。何を話しているのかなと、気になったことはありませんか? そんな鳥たちの言葉がわかるという学者がいます。動物言語学者・鈴木俊貴さん、41歳。東京大学の准教授で、世界で初めてシジュウカラが言葉を使っていることを解明した鈴木さんに、多彩な鳥の言葉の世界を伺いました。

ヘビは「ジャージャー」タカは「ヒヒヒ」

 取材が行われたのは2025年1月27日。鈴木さんは自身が書いた科学エッセー『僕には鳥の言葉がわかる』(小学館)の出版を機にインタビューに応じてくれました。

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インタビューに答える鈴木さん(千代田区の小学館で=中村千春撮影)

―今日はよろしくお願いします。本に書いてあった「鳥たちにも言葉がある」という話、すごく面白かったです。

 「ありがとうございます。僕は子どもの頃から、虫や鳥を観察するのが好きで、高校生のときにお年玉で双眼鏡を買って、それからバードウオッチングにはまったんですね。それであるとき、軽井沢の山でシジュウカラの声を聞いていたら、ヘビを見たときにしか鳴かない声があることに気付いたのです」

―ヘビを見たときにしか?

 「はい。最初はいろいろな声があるな、くらいにしか思わなかったのですが、そのうちに状況に応じて、いろいろな声を使い分けていることがわかってきて。あのときも、巣穴に侵入しようとするヘビを見つけた親鳥が、『ジャージャー』って鳴いて。そうしたら、ひなたちが一斉に巣から飛び出して。『あ、ジャージャーって、ヘビの意味か!』 って思った瞬間、鳥肌が立ちました」

―ほかにはどんな言葉があるのですか?

 「タカを見たときは、『ヒヒヒ』と鳴きますし、『集まれ!』は『ヂヂヂヂ』です。ここに来るときにも、街でシジュウカラが、『集まれ!』って、鳴いているのを聞きました(笑)」

―たくさんの鳥がいる中で、どうしてシジュウカラを研究したのですか?

 「ほかの鳥と比べて、ずば抜けて多くの声を持っているからです。シジュウカラはわかっているだけで200くらいのレパートリー、語彙(ごい)が確認されています。今は、その中から言葉を絞って、本当にそのことを指すのかを確定させる検証作業を続けています」

 鈴木さんによると、現時点で、シジュウカラは20以上の単語を組み合わせてコミュニケーションを取っていることがわかっているそう。鈴木さんの研究は、中学校の教科書にも載るほどで、動物と話せる物語の医者にちなみ、「現代のドリトル先生」とも呼ばれています。

朝6時から夕方6時まで、巣箱の前で

 鈴木さんの仕事は鳥の観察と研究です。大学時代からこれまで18年以上にわたって、森の中に入って、鳥たちの声に耳を傾けてきました。

―何が一番苦労しましたか?

 「うーん、苦労と思ったことはないんですよね。観察って、例えば、朝の6時から夕方6時くらいまで、ずっと森の中の巣箱の前でじーっと見ていたりする。それを土日関係なく、2カ月3カ月、連続でやる。普通の人はできないかもしれないけど、僕はそれがめちゃくちゃ楽しいんです」

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巣箱の観察を行う鈴木さん(本人提供)

お米があれば1カ月は山にいられます

―著書の中には、山の中で食べるものがなくなって、お米だけで1カ月過ごす逸話がでてきます。

 「お米があれば、1カ月はいけますね(笑)。でも、すごく痩せてしまって。僕は身長が178センチあるのですが、51キロになりました(笑)。それでも、観察していると、どんどん新しい発見があって、やめられないんです」

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元気にさえずるコガラ(左)とヤマガラ(鹿野克志、森本尚平撮影)

 著書では、シジュウカラが言葉を使っていること、シジュウカラの言葉をコガラやヤマガラも理解できることなどが、面白いエピソードとともに記されています。中でも、私が一番驚いたのは、日本のシジュウカラの鳴き声をフィンランドのシジュウカラにスピーカーで聞かせたら、理解できたという話でした。

―鳥の言葉は世界共通なのでしょうか?

 「興味深い話ですよね。人間は違う国の人と話すときに、どちらかの言語に寄せていますが、鳥のように、お互いの言語を知っていたら、どちらかに合わせなくてもいい。それどころか、シジュウカラが『ヒヒヒ』と鳴けば、スズメや他の鳥もタカだとわかるんです。動物たちはそれがスタンダードらしいので、これから詳しく調べていくことになると思います」

―どうやって鳥が言葉を話していると証明したのですか?

 「森で鳥の声を聞いていると、だんだん、鳥が何を言っているか、わかるようになるのですが、それを科学的に証明するのが難しいんです。ヘビのときもそうでした。あのときは、ヘビに似た木の棒をシジュウカラに見せて、ジャージャーという音を聞かせたら、鳥たちは木の枝をヘビと見間違えました。ということは、鳥が『ジャージャー=ヘビ』と頭の中でイメージできていること。そうやって検証を続けるのです」

鳴き声を組み合わせて作文もできる

―実験を繰り返すんですね?

 「はい。他にも、シジュウカラが2語文を話していることを確かめるときも、いろいろとアイデアを絞りました」

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多彩な鳴き声を持つシジュウカラ(本人提供)

―あ、鳥が作文するって話ですよね? 詳しく聞かせてください。

 「シジュウカラには鳴き声を組み合わせて文章を作る力があるんです。例えば、『ピーツピ』と鳴くと、『警戒しろ』という意味で、『ヂヂヂヂ』と鳴くと、『集まれ』という意味。彼らは天敵に襲われたとき、『ピーツピ・ヂヂヂヂ』と鳴き、キョロキョロ警戒しながら、集まってきて、集団で敵を威嚇します。これは、『警戒して、集まれ』という2語文を使っているからなんですね」

―すごい発見ですね。

 「僕もびっくりして、本当に文法になっているのか、何度も検証しました。この場合、語順をひっくり返して確かめてみました。シジュウカラは、『警戒して、集まれ』の『ピーツピ・ヂヂヂヂ』の音を聞かせたときは行動したのに対し、順番を逆にして、『ヂヂヂヂ・ピーツピ』と流したら、反応しませんでした。シジュウカラの語順にはちゃんとルールがあって、彼らはそれを文章として理解していることがわかったのです」

 本には、鈴木さんが、ルー大柴さんの「ルー語」や、ドラえもんなどにヒントを得て、鳥の言葉を解明していく姿が描かれています。詳しく知りたいという方は、ぜひ、お手にとってご覧ください。

翼をパタパタ ジェスチャーも豊か

 言葉だけではありません。鈴木さんは、シジュウカラが翼を使ったジェスチャーで意思を伝えているということも突き止めました。

「シジュウカラは、翼をパタパタとやって、『お先にどうぞ』と、伝えています。これも世界で初めての発見でした。ジャスチャーは人間とか、チンパンジーとかに限られたものだと考えられてきたのですが、そうではなかった。論文にしたら、世界中で大反響がありました」

―チンパンジーやゴリラのジェスチャーの研究は以前から行われていますね。

 「僕も最初は同じ間違いをしていましたが、アプローチの仕方が間違っていると思うんです。今までは、ゴリラやチンパンジーを野生から連れてきて、実験室で『パパ』とか『ママ』とか、人間の言葉を教えて、それが理解できるかどうかを調べてきた。でも、彼らには彼らの言葉がある。無理やり、人間の言葉に当てはめて、しゃべれるかどうかを調べるのは、あまり意味がないと思うのです」

―なるほど。

 「鳥は人間の言葉は話せませんが、鳥には鳥の言葉があると、シジュウカラが教えてくれました。これがきっかけとなって、これから多くの学者が新しいアプローチで動物たちの言葉を探っていくはずです」

人間だけが言葉を使う、は決めつけ

 鈴木さんは世界で初めて「動物言語学」を提唱し、東京大学で研究室を作りました。難しい学問にもかかわらず、本がやさしい言葉で書かれているのが印象的でした。

―すごく読みやすかったです。小学生でも読めますね。

 「多くの人に手に取ってもらいたくて、なるべく専門用語を使わずに書いたんです。表やグラフも使わずに、すべてイラストで表現しました。先日、小学3年生の子から『面白かったです』ってメールが届いて。あれはうれしかったですね」

絵

著書では鈴木さん自らがイラストを手がけた(小学館提供)

―子どもたちに、この本で伝えたかったことは?

 「シジュウカラというのは、都会から山の中まで、いろいろな場所にいる鳥です。そんなに身近な鳥なのに、これまで誰も彼らの言葉を知りませんでした。なぜかというと、人間だけが言葉を持っているという先入観があったからです」

―確かに。

 「古代ギリシャの時代から、2000年間、人間は自分たちだけが言葉を持つと決めつけてきた。動物は本能で生きていて、感情はあるけど、理性的な言葉は使っていないとされてきました。でも、それは違うことがわかってきた」

―他の動物も言葉を持っている?

 「今のところ、世界中に1万1000種類いる鳥の中で、ちゃんとした言葉が見つかっているのは、シジュウカラだけですが、それはこれまできちんと研究されてこなかったから。この本を読んだ子どもたちが、興味を持ってくれて、犬や猫や馬など、さまざまな動物の言葉を研究したいって思う人が現れてくれたら、うれしいですね」

―恐竜は鳥の祖先だと言われていますが、恐竜も言葉を持っていたのでしょうか?

 「かもしれませんね。でも、鳴き声や行動は化石に残らないので、検証は難しいかも(笑)」

 話をしていると、どんどん夢が広がってきました。

書影

「僕には鳥の言葉がわかる」小学館(1870円)

動物の言葉がわかれば世界は豊かに

 鈴木さんがこれまでに書いた数々の論文は、ネイチャー・コミュニケーションズなど、世界的な科学雑誌に掲載され、絶賛されました。今年も新たに英国の権威ある科学賞を受賞することが決まっているそうです。

―将来、人と鳥はコミュニケーションが取れるのでしょうか?

 「そもそも、大昔の人間は鳥が言葉を話すことを知っていて、鳥の言葉を理解できたはずです。しかし、人はそれを忘れてしまった。人が自然環境を共生する対象から、利用する対象に変えてしまったので、いつの間にか忘れてしまったんです」

―鳥と話すことができたら、すてきですよね。

 「鳥は紫外線まで見えているので、僕たちよりも色彩豊かな世界に生きています。物の見え方も、考え方も違います。今、多様性という言葉が盛んに使われるようになりましたが、全く違う他者を知るというのは、僕たちにとって、すごく大事なことです。世界にはいろいろな意見、いろいろな価値観があって、そういう人たちに自分の価値観を押しつけるのではなく、共通点と違いをフラットに認識することは、平和な社会につながると思うのです」

―これからの研究テーマは?

 「もう一度、動物たちとのつながりを取り戻すこと、自然とのつながりを取り戻すことです。それを科学の力で証明していきたい。鳥たちの言葉を聞いて、彼らの言葉が理解できるようになったとき、僕たちの世界は豊かで素晴らしいものに変わると信じています」

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東大で動物言語学の研究室を立ち上げた鈴木さん(中村千春撮影)

鈴木俊貴(すずき・としたか)

 1983年、東京都生まれ。動物言語学者。日本学術振興会特別研究員SPD、京都大学白眉センター特定助教などを経て、東京大学准教授。シジュウカラに言語能力があることを発見し、論文に掲載。文部科学大臣表彰(若手科学者賞)、日本動物行動学会賞など多数受賞。

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  • たーぼー says:

    友達にはなれますか?ヤマガラは人なつっこいから可能だと思っているのですが…

    ただのエサ係くらいの関係かな?

    たーぼー 男性 60代
  • のの says:

    以前つがいでジュウシマツを飼っていました。

    掃除中、ケージのトビラが開いてしまい、一羽が外へ出てしまいました。逃げようとせずにうずくまった様子でしたので、すぐに掴まえてケージに戻しました。

    すると、残っていた方のジュウシマツが、戻って来たジュウシマツに向かってすごい勢いで怒ったように鳴いていました。まるで「危なかったじゃないか」と責めているようでした。

    飛び出してしまった子は、縮こまって小さくなっていました。

    怒ったように鳴く姿を見たのは、その時だけでした。

    記事を読み、このエピソードを思い出しました。

    のの 女性
  • るるん says:

    何年か前、ある晴れた秋の空を見上げたとき、木の枝にシジュウカラがとまっているのを見つけました。濃い青空に映える白黒のボディがとても美しいと思いました。

    そんな可愛らしい彼らを研究している方のお話を聞けて嬉しいです。応援しています。

    るるん 40代
  • かっちゃん says:

    シジュウカラが「言葉」を話しているかは分からないけれど、規則的な音でコミュニケーションを取っているのは間違いないと思いました。その音(声)が鳥の「言葉」ならそうだと思います。

    鈴木さんの謙虚な姿勢こそが、このような研究の基礎になっていると思いますし、素晴らしいと思いました。早速著書を探してみます。ご紹介頂き、ありがとうございました。

    かっちゃん 男性 60代
  • ちよ坊 says:

    「そもそも、大昔の人間は鳥が言葉を話すことを知っていて、鳥の言葉を理解できたはずです。しかし、人はそれを忘れてしまった。人が自然環境を共生する対象から、利用する対象に変えてしまったので、いつの間にか忘れてしまったんです」

    文明批評ともいえる、この認識に到達した鈴木さんの研究者魂に敬意を評します。地球という大きな一軒家に住む全ての生き物は、家族だという認識かと思います。

    ちよ坊 無回答 70代以上
  • sskmk says:

    鳥がなんとなく鳴いているわけではないことは、多くの人がぼんやりと理解していたとは思うのですが、こうして科学的な裏付けをもって解明されたことは本当にすばらしいです。

    私は若いころ言語学にハマったのですが、こうして学術はより学際的になっていくことにも感動を覚えます。ありがとうございます。

    sskmk 女性 無回答
  • かずりん says:

    楽しい取材だったんだろうなって感じが伝わってくるインタビューでした。🤭

    私はそんな鳥には詳しくないてすが、鈴木さんの研究はすごく重要だと思いました。

    でも、私には朝6時から夜6時まで巣箱の前にはいられないかも笑 お米だけで1ヶ月ももちません笑

    あと最後の方で書いてあったのがすごく感動しました。未来では鳥と話せたりできたら、いいな。楽しそう。鈴木さんを応援してます。🙂🙂🤗

    かずりん 女性 30代
  • ペロペロ says:

    感動。嬉しくて泣けた。動物や植物とコミュニケーションを取れる日が待ち遠しい。

    ペロペロ 女性
  • ウサミ says:

    興味深く拝読しました。

    昨日の朝、スズメが鳴いているのを見て、子供と「鳥って、どんなお話をしているんだろうね」と話をしていたところです。
    鈴木さんは少し前にテレビで見て、面白いなと思っていました。

    さっそく、子供に教えてみます。鳥のことに詳しくないので、シジュウカラを探すのが大変そう(笑)

    ウサミ 男性 30代
  • たまごっち says:

    すごく面白かったです。早速、本も買ってきました。🙂 

    娘が将来、大人になったときには鳥と話せてるといいな。

    恐竜が言葉を使っていたかもという指摘は、私も子供もテンションが上がりました〜😙😙😙

    たまごっち 女性 30代

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