連休最終日の渋滞 車内に流れるラジオと寝息〈加瀬健太郎 お父ちゃんやってます!〉
「鈴木京香みたいにしてください」と美容院でリクエストしたことのある義母が、今度は「米倉涼子みたいにしてください」と言ったらしい。そんな、人も気候も緩んでくるこの季節。「どこかに泊まりに行きたい」と妻は3連休の中日の朝に言った。僕は家でだらだらでいいのに、妻はテキパキとスマホで宿泊先の検索を始めた。
素泊まり計6人分で、「民宿。大浴場付き。2万5000円」「民泊。ごく普通の家。1万6000円」の安宿ふたつ。「大浴場は温泉ではない」「これ普通の家じゃん」など、やいやい家族会議。長男の「浮いた1万円でおいしい物食べようよ」のひと声で民泊に決定した。
お昼すぎに車で出発して、3時間で現地に到着。子どもたちの宿の感想。「旅行感が全くない」「鼻が詰まってきた(ハウスダスト)」「何かいる気配がする」「おうちにかえりたいよ」と不評。頼みの綱だった近くの回転ずし店も閉まっていた。「家族で行けばどこだって楽しいよ」と妻が連呼するたびにみんな切なくなったが、ほこりっぽい布団は意外とよく寝られた。
翌日は、昨夜の借りを返すように、パターゴルフ、釣り、海鮮丼、温泉。終わってみれば、とてもいい旅だった。帰りは連休最終日の渋滞に捕まった。「眠くなったら運転代わるから」と言う妻が、いつものように一番に寝て、それからみんなも寝た。静かになった車内に流れるラジオと寝息。みんなを起こさないよう、そっと運転する車を夕暮れが追い抜いていく。ぐっと何かが込み上げてきて僕は、「父親やらせてもらってます!」と窓を開けて叫びたくなった。
加瀬健太郎(かせ・けんたろう)
写真家。1974年、大阪生まれ。東京の写真スタジオで勤務の後、ロンドンの専門学校で写真を学ぶ。現在は東京を拠点にフリーランスで活動。最新刊は「お父さん、まだだいじょうぶ?日記」(リトルモア)。このほか著書に「スンギ少年のダイエット日記」「お父さん、だいじょうぶ?日記」(同)「ぐうたらとけちとぷー」(偕成社)など。14歳、12歳、7歳、4歳の4兄弟の父。これまでの仕事や作品は公式サイトで紹介している。
なるほど!
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