母からの虐待、私の味方になってくれる大人に会えません〈ソーシャルワーカー鴻巣麻里香 10代の相談室〉特別編

*今回の相談は、東京すくすくのコメントに寄せられました。ご本人と連絡を取りながら、記事化の対応をしています。一部の方には、精神的な負荷を感じる内容が含まれている可能性があります。ご自身の状態に合わせて無理のない範囲でお読みください。
相談:2度保護されたが、結局家に…
母親から棒状の物でたたかれたり、日ごろから罵倒されたりなど心身ともに虐待を受けています。自分で駆け込み、児童相談所に2度保護されましたが、2度とも母親に懇願され、家に戻りました。それでも暴力は止まらず、食事や洗濯なども自分で必要なものを買って自分でしている状況です。学費も払ってもらえていません。同居している父親は優しい人ですが、母親には逆らえないようです。児童相談所の職員には継続的に相談してますが、私より母親のことを信用している印象です。スクールカウンセラーや先生にも相談しましたが、信頼関係を築けず、深いところまで話せていません。私はどうしたらいいでしょうか。(中学生女子)

イラスト・東茉里奈
連載「10代の相談室」
精神保健福祉士の鴻巣麻里香さん(46)が、中高生を支えるソーシャルワーカーの立場から、10代の悩みや葛藤をときほぐし、向き合います。保護者や学校の先生など周りの大人がしてしまいがちな、子どもたちをつらくさせる言動への対処の仕方も丁寧に伝えます。回答の最後には、10代を見守る周囲の大人へのメッセージを「大人のみなさんへ」としてつづります。
回答:相談先をどんどん広げてほしい
あなたが新聞社に相談するまで、きっとたくさんの大人に相談をしてきたのだと思います。そして児童相談所に2回も自分で駆け込んでいます。それでもあなたのおかれた境遇は変わらず、やむにやまれずメディアを頼ったのでしょう。つまり、あなたはすでに、自分で自分を守るために、自分にできることは全て行なってきました。「どうしたらいいか」とお尋ねですが、すでにできることはされているはずです。それでもあなたの苦境が改善しないのであれば、それはあなたが頼った大人たちの力不足か、制度が不十分だということです。
また、こういったご相談はとても個別性が高く、あなたがこれまで誰にどのような相談をして、どういった対応をされたかを、詳しく伺う必要があります。ですがそうしたのでは、個人情報に抵触し、あなたを守ることができなくなります。
これまでできることをしてきた経緯、そして個別性が高いご相談に対してお答えすることの難しさ、この2つの理由から、どうしても回答は一般論の域を出ないことをご理解ください。そしてそれを申し訳なく思います。
児童相談所に一時保護された経緯があることから、あなたのおかれた状況が子どもの福祉に反している、つまり虐待であるということを、あなたの周囲の大人たちも認識しているのだと推察します。「懇願されて家に戻った」とのことですが、虐待をする親に懇願され、あるいは「もうしない」と言われ、不安を抱えながらも自宅に戻ってしまう子どもは少なくありません。なぜなら、虐待を受けるということは、「私は私」として考え、自分で自分を守る力をじわじわとそいでしまうからです。虐待は暴力をふるうことが目的なのではなく、支配のかたちなのです。
「嫌だ」「つらい」と感じながらも、自分を守ることよりも虐待をする親の考えや機嫌を優先する「クセ」を、自分でも知らないうちに身に付けてしまいます。虐待の被害を訴えて助けを求めたことを「申し訳ない」と感じてしまうこともあります。もともと子どもには、大人(親)に対して「自分を守る良い親であってほしい」という、当然の願いと期待があります。ですので、謝罪や懇願をされると、それを受け入れてしまうのです。
謝罪や懇願を受け入れたのは、心が「支配されている」からです。ですが周囲には、そのことがなかなか理解されません。「ゆるした」「受け入れた」。そのように見えます。そしてそれは、大人たちにとって都合の良い物語になってしまうのです。「よくないことをした親だけれど、謝罪して、子どもは受け入れて、めでたしめでたし」という物語です。
虐待された子どもを保護する一時保護所は、多くの施設で定員を超過し、職員は足りていません。児童相談所で働く職員は、児童相談所を頼る子どもたちを十分に支えられる人数に全く足りていません。ですので、どうしても「問題が少ない方がいい」という偏った願い、つまりバイアスがかかってしまうのです。その結果、虐待を受けた子どもが心理的に支配されているという事実から目を背け、親との和解を優先し、「問題がある」という子どもの訴えよりも「問題はない」という親の主張を採用してしまうのです。
あなたがカウンセラーや教師との間に信頼関係を築けていないように感じるのも、同様のことが原因かもしれません。周囲の大人たちには、あなたが「もう大丈夫」なように見え、そうであってほしいと期待しているのだと思います。

加えて、「虐待」に対する誤解、認識の甘さが、まだまだ多くの大人の間に残っています。虐待というと命に関わる暴力を受けるという印象がありますが、たとえけがをするような暴力でなくても、また身体への暴力がなくても、虐待は子どもの心に深刻な影響を与えます。前述のように虐待は支配の手段なので、「私は私」として考える力、守られていいのだと信じる力、自分には価値があると信じる力、つまり自尊心や自己肯定感を大きく損ないます。
誰かと安定した関係を築くことが難しくなったり、自分を傷つける行為をしてしまったりすることもあります。そのように深刻な影響があるのですが、そういった子どもは、多くの場合周囲の大人からは「うまく生きられない困った子」に見えてしまいます。その子は傷ついて困っているのに、困った子にされてしまうのです。
大丈夫であってほしい、問題はない方がいい、虐待はもっと深刻なはずだ、命が脅かされるほどではないからそれほど影響があるはずない…。そういった大人の考えや期待が、あなたではなく親の声の方に耳を傾け、信頼する一因となっている可能性があります。
あなたは、この世で一番信頼に値するべき親から、ひどい仕打ちを受けています。誰か他者を信頼することが難しくなって当然です。あなたと周囲の支援者との間に「信頼関係」を築くことが難しいのは、当然のことだと思います。だからこそ、周囲の大人はあなたの声に耳を傾け、あなたに自分たちを信頼させようとするのではなく、まずあなたを信頼する姿勢を維持しなければなりません。
さて、「どうしたらいいか」というご質問にお答えしたいのですが、すでにご自分でできることを全て行っているあなたに対して、これ以上何かをしてほしい、しなさいと言うことは心苦しく、難しいことです。繰り返しますが、あなたは自分を守るために最善を尽くしており、それが結果につながらないのは、あなたではなく周囲の大人の問題です。
その上で、やはり「諦めずに相談を続けてほしい」とお願いします。身勝手なお願いであることは承知していますが、相談先を開拓し、どんどん広げてほしいのです。問題にしたくないと考えている周囲の大人たちを動かすには、効果的だからです。

警察への通報、シェルターへ行くことも視野に
例えばあなたが児童相談所の一時保護を経ての社会的養護(児童養護施設や自立援助ホーム等への入居)を希望して、児童相談所がそれを聞き入れてくれないのなら、警察に通報することも選択肢のひとつです。どこもそうではありませんが、児童相談所は子ども本人からの訴えよりも、警察からの通告によって速やかに動くことがあります。
また、成人するまでの間に家以外の安全な住まいで暮らすことを希望する場合、10代の女性から受け入れてくれるシェルターという方法もあります。「10代+女性+シェルター+お住まいの都道府県」で検索をすると民間団体の情報が得られます。また、まだ数は少ないのですが、弁護士会が子どもシェルターを運営しているケースもあります。ほとんどの民間団体は、たとえシェルターが満室であっても、虐待環境から逃れるための相談支援を行ってくれます。
このように、児童相談所や学校の外の組織に相談し続けることで、今まで動かなかった物事を動かせる場合があります。たとえあなたが一時保護や避難までは望んでいなくても、学費を払わないというのはあなたの将来の可能性を狭めてしまう、権利の侵害です。高校を卒業して自分だけの暮らし、自分の願う将来を実現するためにも、学費の不安はしっかり解消する必要があります。
虐待を受けた子どもを支援する大人の中には、親と子どもの(うわべだけの)「信頼関係」を再構築させようとする人がいます。これは私の個人的な考えですが、虐待から子どもを守るためのゴールは、親との間の情緒的な関係(信頼や愛情など)を取り戻すのではなく、親が子どものために必要なお金をつかい、衣食住を保障し、暴力や暴言といった行動をやめることではないでしょうか。
「親と話し合って」「親と仲良く」を子どもに要求する大人は、愛情や信頼を建前に問題の解決を放棄しています。愛や信頼を測る物差しはありません。見えるのは行動だけです。あなたの親があなたの生活や将来を邪魔しないことが大切であり、あなたはなにひとつ変わる必要はありません。
なるほど!
グッときた
もやもや...
もっと
知りたい





