点字付き絵本を広めて20年「見える人も見えない人も一緒に」 視覚障害の親の思いに共感、続くネットワーク

(2022年9月16日付 東京新聞夕刊)
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「ぐりとぐら」の点字付き絵本。凹凸で描かれたぐりとぐらは、元の絵より少し大きく、服の柄で識別できる=福音館書店提供

 手で触れながら読める点字付き絵本を広める「点字つき絵本の出版と普及を考える会」が20周年を迎えた。見える人も見えない人も一緒に絵本を楽しめる環境をつくりたいと、出版社や印刷会社、書店などの参加者が協力し合い、地道に出版数を増やしてきた。製作コストがかかるなど課題はあるが、メンバーは「意義や楽しさを伝え続け、1冊でも多くの絵本を届けたい」としている。

赤ちゃん向け、物語、めいろ…約30種類

 「ぐりとぐらは、触った感覚で服の柄の違いが分かるようにしています。動物たちも元の絵より一回り大きくしています」。20周年記念展を開催中の東京・銀座の教文館ナルニア国で12日夜に開かれた講演会。福音館書店の寺久保未園さん(48)は、ロングセラーの「ぐりとぐら」の絵に施した凹凸の加工や、点字をつぶさない特殊な印刷方法など、製作過程の工夫や苦労を伝えた。

 赤ちゃん向けの「いないいないばあ」の点字付き絵本を担当した童心社の西尾薫さん(33)も「絵本に触れた10歳の女の子が『キツネのしっぽってこんなに太いんだ』と言ったのが心に残っている。動物ごとにしっぽにも特色があるということを知らなかった子が、気づくきっかけになったようだ」と語った。 

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「いないいないばあ」の点字付き絵本。くまの形が分かるように凹凸を施している=童心社提供

 点字付き絵本は、カラー印刷の絵本に点字を付けるほか、絵の形や線が分かるように立体的に加工している。触って理解しやすいよう元の絵と配置を換えたり、点字で内容を補足説明したりする工夫も。同会によると、現在書店で購入できる作品は、赤ちゃん向け、長めの物語、めいろなど約30種類だという。

社の垣根を越えて情報交換、コスト削減

 「点字つき絵本の出版と普及を考える会」は2002年4月、ボランティアで絵本に点字を付けて貸し出す活動をしている「てんやく絵本ふれあい文庫」(大阪市)代表の岩田美津子さん(70)の働きかけでできた。生まれつき目が見えない岩田さんは、2人の息子を育てる中で「目が見える親と同じように、私も絵本を読んであげたい」との思いで、絵本の点訳を開始。1996年に自らの絵本作品「チョキチョキチョッキン」が出版されたのを機に、「点字付き絵本を必要としている親子がいる。書店や図書館で手に取れるようにしたい」と出版社などにネットワークづくりを呼びかけた。

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「点字つき絵本の出版と普及を考える会」発足のきっかけをつくった岩田美津子さん=東京都中央区で(小林由比撮影)

 「20年でさまざまな出版社が点字付き絵本を出し続けてくれていることに意義がある」と岩田さん。「触ったものからイメージをつくりあげていく私たち視覚障害者について、知ってもらうことにもつながる」

 点字付き絵本は、特殊な加工や製本の工夫が必要でコストがかさむ。出版社も製作をためらう中、同会ではメンバーが所属する会社の垣根を越え、コスト削減の工夫なども情報交換。横浜市立盲特別支援学校の児童たちの意見も聞き、点字付き絵本づくりに生かしている。寺久保さんは「見える人たちにも新たな発見がある。多くの人に楽しさを知ってほしい」と話す。

「さわって楽しむ絵本展」9月27日まで

 「点字つき絵本の出版と普及を考える会」の20周年を記念した「さわって楽しむ絵本展」は9月27日まで。点字付き絵本を手に取れるほか、製作過程や岩田さんの歩みを紹介する漫画なども展示している。展示会を開きたい人には、資料の貸し出しも可能という。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2022年9月16日

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  • 紗倉 says:

    すごくグッと来ました。点字付き絵本にはこんなに沢山の人がいて思いを一つにしていて感動しました。

    紗倉 女性 20代

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