【反響編】離婚後の共同親権 識者の意見は? 木村草太さんと小田切紀子さんに聞く
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東京都立大・木村草太教授「単独親権でも交流は可能。子に会えないのは親権の問題ではない」
別居親の「暴力の道具」になる恐れ
-離婚後の共同親権を求める理由に「別居親が子どもと会えなかったり、子育てに関われなかったりするケースをなくすため」という主張がある。
「子に会えない」というのは非常に同情を買う言葉だが、親権の所在にかかわらず、面会交流を求めることは現行法でもできる。子に会えないケースには、
- 本人が手続きしていない
- 裁判所が子の利益にならないと判断
- 面会交流命令が履行されていない
の3パターンがあり得る。いずれも親権の問題ではない。親権がどこにあろうと、離婚後の父母が子どもについて相談することは全く禁止されておらず、共同親権を取り入れている海外の考え方から大きくずれているわけではない。
-離婚後も共同親権になると何が変わるのか。
両親に積極的で真摯な合意がない場合にまで強制的に共同親権を継続する制度になれば、子の利益を害する。共同親権になると、引っ越しやワクチン接種、進学、海外旅行など重要事項の決定に別居親の同意が必要となる。両親が話し合いできない関係の場合、重要事項がスムーズに決定できなくなる。
例えば、別居親の反対で子どもと同居親が望む引っ越しができなかったり、別居親が子育てに無関心になり音信不通となった結果、海外への修学旅行に必要なサインをもらえずに断念したりといった事態も起き得る。ドメスティックバイオレンス(DV)や虐待があるケースでは「サインが欲しければ会いに来い」といった暴力の道具になる恐れさえある。
強い被害感情 自省への支援が必要
-DVや虐待が立証されれば、共同親権から除外すればいいとの意見もある。
共同親権に必要なのは両親の協力関係だ。DVや虐待が立証されなかったとしても、相互に話し合える信頼関係のない場合、子についての決定がスムーズにできないため共同親権に向かない。また、DVの完璧な立証は難しいという理解も不可欠だ。
-法制審議会(法相の諮問機関)で1年半議論しても意見はまとまらない。
家族法は仲の良い関係を支援、保護することはできるが、仲が悪いものを良くすることはできない。壊れた関係を無理やり戻すために法律を使おうということ自体が無理筋だ。
子連れ別居に直面した当事者がショックを受け、強い被害感情を抱くことは理解できる。ただ、住み慣れた家を子連れで離れる選択には、共同生活を続けられない重大な問題がある場合がほとんど。その原因を自省し、信頼関係を回復しようという気持ちに向かう支援の枠組みが必要だ。
木村草太(きむら・そうた)
専門は憲法学。子どもの権利、差別されない権利、平等原則などが研究テーマ。
東京国際大・小田切紀子教授「発達段階に応じて、別居親も対等な立場で子育てに関わるべき」
共同親権で社会の意識を変えられる
-共同親権で両親が共に育てることが子どもにとって大事だと発信している。
離婚後も子どもが両方の親と日常的な交流を持つことで、離婚による子どもの心身への影響を和らげることが国内外の研究で分かっている。そのために、子どもが安心して安全に交流できるよう、面会交流の支援団体のようなインフラを整えることが必要だ。
調停や審判で決まる日本の面会交流の多くは月1、2回。一方、私が専門に研究している米国では、子どもが日常的に別居親と会っている。例えば3歳児は記憶の容量が小さいので、月に1度ではすぐ忘れる。発達段階に応じて、別居親も対等な立場で子育てに関わるべきだ。共同親権の導入によって、離婚後も2人で子育てする「共同養育」がスタンダードなことだと社会の意識を変えていける。
-DVや虐待がある場合、加害親も親権を持つことを危ぶむ声がある。
DVや虐待があれば特別な配慮が必要で、子どもの安全が保障されるまでは加害者の親に会わせるべきではない。事実関係をしっかり調べて、加害者に適切な教育をするなど、法務省や内閣府が体制を整えるべきだ。
ただ、離婚の中には、加害者でないのに子どもに会わせてもらえず、養育に関与できない人もいる。親として適性がある人もおり、一律にどちらか一方に親権を与えるのでは不公平ではないか。
重要事項の決定にはADRの活用を
-対立する親同士が親権を持つ場合、子どもの進路や医療方針など重要な事項で合意できるのか。
重要事項を決めるには、裁判外紛争解決手続き(ADR)をもっと活用できる。第三者が関与して話し合いを進め、家裁の調停よりも時間がかからない。さらに離婚にあたり、その後の子育てについて両方の親が学ぶべきだ。共同養育の知識やスキルを伝える「親ガイダンス」を義務化して、子どもにとって離婚がどんな影響を与えるのか説明する。これにより、ある程度双方の葛藤がエスカレートすることを防げる。
-DV被害者への支援が十分でない今の日本では、共同親権の導入は時期尚早という声もある。
既に社会資源はある。ADRがあり、親ガイダンスが実施できる。各県に臨床心理士会があり、親の心理相談にも乗れる。これらを連携させて、共同親権と同時に導入すればいい。
離婚後の養育では「子どもの意思が大事」と言いながら、現状は子どもの気持ちや考えを聞けていない。子どもには自分の気持ちを聞いてもらう権利がある。スキルがある専門家が丁寧に聞き取り、寄り添った支援をすることが理想だ。
小田切紀子(おだぎり・のりこ)
親が離婚した子どもの心理が専門。米国の支援体制に詳しい。公認心理師、臨床心理士。
法制審でも賛否 パブコメは先送り
離婚後の子どもの養育に関する法制度を議論する法制審議会の部会で、2021年3月からテーマの一つとなってきた離婚後共同親権制度。裁判官や弁護士、大学教授らの委員の中でも意見が割れたまま、中間試案の取りまとめに向けた動きが進む。
試案は、進学や医療などの重要事項決定権などが含まれる親権を離婚後も父母が共同で行使できるようにする案と、現行通り父母の一方を親権者とする案を併記した形で、当初は先月末に決定し、その後パブリックコメント(意見公募)が実施される予定だった。しかし、自民党内で「分かりにくい」などの声が出たことなどから、先送りとなった。
自民党法務部会は今年6月、古川禎久法相(当時)に共同親権制度導入を求める要望書を提出。一方、DV被害者の支援団体などからは家庭内にDVがあった場合、被害を継続させるとして、導入に反対する声が上がる。
読者の声は?「親同士が歩み寄れるのでは」「子どもの声を押しつぶす制度になりうる」
◆子どもにとって何が一番良いのかが大事。子どもは両親から愛情を受ける権利がある。両方の愛情で満たされてこそ健康に成長できる。虐待が懸念される場合は別として、共同親権にして両親が子どもを育てることが妥当だ。=横浜市、男性(78)
◆共同親権は、離婚後に子どもが進学したり、医療を受けたりする時に、別居親の「許可がいる」ということが本質だ。別居親が「ダメ」と言えばできなくなる可能性があり、子どもの声を押しつぶす制度になり得る。=埼玉県、男性(52)
◆親権を持つ方が立場が強く、物事を決められるという風潮が社会にある。どちらかにしか親権がない状態は、親権争いのもとにもなる。共同親権も選択できれば、離婚後も親同士が歩み寄る可能性が高くなるのでは。=埼玉県、男性(50代)
◆離婚後も父母が共に子どもに関わるべきだというのは響きがよく、一般論としては肯定する人が多いと思うが、実際には理想論。法律で認めないと協力できない元夫婦に選択的でも共同親権を認めると、無用な争いが増える。=兵庫県、女性(40)
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