子どもが見ている前で親が… 急増する「面前DV」深刻な心の傷
そもそも児童虐待は、態様によって4種類に分かれます。殴ったり、蹴ったり、激しく揺さぶることは身体的虐待と呼ばれます。子どもへの性的行為や子どもに性的行為を見せることは性的虐待にあたり、家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にすることなどはネグレクト(育児放棄)です。言葉で脅したり、きょうだい間で扱いに差をつけたりすることは心理的虐待です。面前DVはこの心理的虐待に含まれます。
警察庁の統計では身体的虐待やネグレクトも増加傾向にありますが、面前DVの増加が際立っています。背景には、警察がDV事案にかかわった際、その家庭に子どもがいれば、児童相談所に通告することが徹底されてきていることがあります。
どこからDV?子どもはどんな傷を受けるの?
直接子どもに向けられていない面前DVがなぜ児童虐待にあたるのでしょうか。元千葉県職員で児童相談所や女性サポートセンターでの勤務経験がある昭和学院短大(千葉県市川市)の教授・松野真さんに尋ねました。
-面前DVは子どもにどんな影響があるのでしょうか。
例えば夜中、家の中で親が暴力をふるえば、子どもはその音や声を聞いただけで寝られなくなります。生活のリズムは崩れ、身体の不調が出てきます。暴力の現場を見ていれば、トラウマ(心的外傷)として残ります。
また親がいつ、何をきっかけに、感情を暴発させるか分からないピリピリした家庭では、子どもが常にアンテナを張っていなくてはいけません。不安を抱え続け、不眠にもなります。
「自分が両親の間の暴力を止められない」と無力感や罪悪感を持ってしまう子もいます。すると、自己評価が低くなり、心の発達にも影響します。対人関係がうまく築けなかったり、感情のコントロールがうまくいかなかったりということにつながっていく恐れもあります。
脳科学の研究では最近、親の怒鳴り声を聞くと、子どもの脳に悪影響が起きるという指摘もされています。
そもそも、DVを受けている親は、自分の身を守ることで精いっぱいとなり、育児の優先順位が低くなり、子どもを養育する力が低下してしまうことがあります。すると、親子の愛着形成にも負の影響が出てきてしまいます。
-夫婦間では言い争いになったりすることもあります。どこからがDVになるのでしょうか。
被害者が心理的なダメージを受ければDVにあたります。加害者が夫婦げんかの範囲と思って暴力をふるったとしても、被害者が恐怖に感じれば、その時点でDVです。殴ったり蹴ったりする暴力だけでなく、暴言も同じです。「生きている価値はない」「なんでこんなこともできないのか」と繰り返し言われることで、精神的に支配されてしまっている被害者もいます。
-面前DVを防止するためにどんな方法があるのでしょうか。
難しい問題です。加害者はDVという意識がない場合が多いからです。まずは多くの人が、暴力はパートナーや子どもたちにいろいろな影響を及ぼすということを知っていくことが大切なのではないでしょうか。
また、DVの加害者は男性が多いと感じています。DVの相談窓口というと、女性向けと思われがちです。でも、最近は暴力をふるってしまったという男性や、被害を受けている男性の悩みを専用に受け付ける相談窓口を設けている自治体もあります。悩んでいる男性から相談されたり、「大丈夫かな?」と心配に感じた時には、そうした窓口を教えてあげることが、子どもを守ることにもつながるのではないでしょうか。
まつの・まこと
昭和学院短大人間生活学科教授(こども発達専攻)。1990年に専門職(心理)で千葉県職員採用。児童相談所や女性サポートセンターなどで、虐待や障害児の相談対応、DV被害者支援や加害者対策などに携わった。2016年4月から同短大勤務。
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