埼玉の「留守番禁止」条例案撤回でわかったこと 声を反映させるため、市民は議会をチェックしなければ

飯塚大輝 (2023年12月29日付 東京新聞朝刊)
【2023年回顧】この1年、話題になった子ども・子育て関連ニュースを担当記者が振り返ります。10月に公開した記事【小3以下の子どもだけの留守番や外出は「置き去り=虐待」なので禁止 埼玉県議会で自民が条例改正案 「共働きやひとり親は守れない」と反論も】は、子育て世代を中心とする反対の署名運動など、大きなうねりにつながりました。さいたま支局・飯塚大輝記者が撤回に至った経緯とその後を伝えます。
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条例改正案の撤回を求め、PTA関係者も反対活動を行った=JR浦和駅前で

「子育ての実情から乖離」反発広がる

 埼玉県の自民党県議団が県議会に提出した「埼玉県虐待禁止条例」の改正案が10月、撤回に追い込まれた。「小学生以下の子どものみの外出や留守番は置き去りに当たり、虐待」とする内容に、子育て世代を中心とする県民らの反発が集まった。

 改正案は、小学3年生以下の子どもを家などに「放置」することを禁じ、小学4~6年生は努力義務と規定。条文では放置の定義が不明確だったが、本会議で自民は「子どもだけでのおつかいや留守番、登下校も虐待に当たる」と説明。あまりに広い規制対象に、県議団内外で衝撃が広がった。

図解 埼玉県の自民党県議団が提出した虐待禁止条例改正案で、何が「虐待」とされるのか?

 子育て世代も危機感を募らせた。共働きやひとり親世帯だけでなく、専業主婦(夫)からも「子育ての実情から乖離(かいり)して実現不可能」「通報義務で周囲の監視を感じ、親を追い詰める」とSNSなどで反発が広がった。ネット上では10万人超の反対署名が集まった。

余波は収まらず 所沢市長選に波及

 県民らの反対を受け、自民党県議団の田村琢実団長は10月10日、記者会見で撤回を表明。防犯ブザーを持たせるなど安全に配慮すれば放置にならず「心配の声のほとんどは虐待に当たらない」と、議会での議論と異なる説明で条例案の内容に「瑕疵(かし)はなかった」と主張した。

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会見で条例案の取り下げを表明する自民党埼玉県議団の田村団長=10月10日、埼玉県議会棟で

 撤回後も余波は収まらなかった。10月22日の所沢市長選では、自民、公明両党が推薦する現職が無所属新人の小野塚勝俊氏に1万6000票近い大差で敗れた。

 所沢市では、下の子どもの出産などで保護者が育児休業を取得すると、上の子どもが保育園から一時退園させられる「育休退園制度」が不評だった。その中で小野塚氏陣営には手厚い子育て支援で知られた兵庫県明石市の泉房穂元市長が応援に入り圧勝。投票率も前回(31.99%)から6.81ポイント増加し、改正案が子育て世帯の投票行動に影響を与えた可能性が指摘された。

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就任会見で「育休退園は廃止」を宣言した小野塚勝俊市長=10月30日、所沢市役所で

パブコメ1件だけ 声を集めるには

 改正案の撤回後、団内からも「県民の声を拾えていなかった」「子育て当事者に寄り添う視点が足りていなかった」との反省が聞かれた。自民党県議団は改正案提出前にパブリックコメント(意見公募)を実施していたが、関係者によると寄せられたのは1件のみだった。

 そこで県議団は11月、県民の意見を反映しやすくしようと、条例案を議会に提案する際の意見公募の基本方針を定めた。議案の骨子を県議団のホームページや報道を通じ公表、1カ月程度意見を募る。内容を整理して議会に提供し、議決後には件数や意見への対応を公表するとした。

 市民が議会に関心を持つ重要性も浮き彫りになった。改正案に反対するネット署名を始めた東松山市の野沢湖子(ここ)さんは「どんな議員がどんな議案を議論しているか、市民がしっかりと見ないといけないと学んだ。私たちも反省しないと」と話した。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年12月29日

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