双子含め小学生3人を子育て中の気象予報士・渕岡友美さん 13年ぶりに「おはよう日本」に復帰、午前0時半起きの毎日

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気象キャスターの仕事や育児などについて話す渕岡友美さん=東京都千代田区で、川上智世撮影

 NHK総合「おはよう日本」で、7月から近藤奈央さんの代行として気象情報を担当する気象予報士の渕岡友美さん(45)。同番組での気象キャスター登板は13年ぶりで、その大変さを知っているがゆえに「子育て中は無理じゃないか」ととまどいつつ、「断ったら後悔する」と引き受けたといいます。仕事の話、これまでのキャリアの話などをたっぷり聞きました。

「断ったら後悔する」と決断

-13年ぶりに「おはよう日本」に戻ってみていかがですか。

 話をいただいたときに最初は「まさか」と思い、「無理じゃないか」とも悩みましたが、せっかくご縁をいただいたのに、断ったら後悔するなと決断しました。2008年~11年に出演していた当時のメンバーが今もいて「あのメンバーとまた一緒にやれる!」ことが大きかったです。現在スタジオで気象を担当する檜山靖洋さんもその1人です。

 放送は午前5時からで、深夜0時半起床、午前2時前にNHKに入ります。メークを済ませて午前2時40分には原稿の準備を開始。気象庁の発表だけでなく、複数の気象専門サイトなども見て、今どこで雨が降り、今後どうなるか、雷雨がどれくらい起こりやすいのか、気温がどれくらい上がるのかなどを調べているとあっという間です。

 6時台と7時台はNHK屋上からの中継ですが、5時台はスタジオからの放送で、スタジオの場合はその日、どの画面をどの順番で表示するのか、天気のポイントは何なのか、タッチパネルで晴れや雨、雷雨や強風など、どのマークを出すかなど、たくさん決めることがあります。アナウンサーとの掛け合いもあるので、その打ち合わせもします。

 午前3時50分には気象班のメンバーが集まってブリーフィングを行い、その日の天気のポイントや注意点、明日以降の天気の見通しなどを共有します。午前5時には気象庁から最新の予報が出るので、それをチェックして、本番に備えます。

 気象キャスターにとって、天気図などを示すときに使う天気棒は「相棒」のような存在です。長さや色など好きな棒を選べるのですが、私は5時台のスタジオでの放送では近藤さんのピンクの天気棒を使っています。戻ってくるまでつないでおくよ!と一緒に放送している気持ちです。

ー毎日の中継ではどんなことに気をつけていますか。

 朝なので、一番は明るく元気に。中継スタッフにもかつての仲間がいて心強いです。毎日同じ場所に立つことで感じる変化をできるだけ微細に伝えたいと思っています。東京は快晴でも別の地域では大雨ということもあるので、伝え方には配慮をしています。

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 7時台のネタは、スタッフと共に数日前から考えます。パネルの絵や順番を考えたり、梅シロップを持ち込んだ日はマドラーを入れてカランカランと涼しげな音をたててみたり、いろいろ工夫しています。毎回1〜2分ほどの持ち時間で、ただ情報を淡々と伝えるのではもったいない。穏やかな日は季節を感じてもらいたいですし、お花や野菜、生活情報など、さまざまな分野を織り交ぜて楽しく伝えていけたらと思っています。

 一方で、気象情報の大きな役割は防災です。この夏も記録的な大雨や猛暑に見舞われていますが、私たちは気象災害による被害を少しでも減らし、人の健康や命を守るための情報発信をしています。自分の言葉で原稿を作り、呼びかけ、伝えていくところに大きな責任とやりがいを感じています。

出勤前には、家族に置き手紙

ー小学生のお子さんが3人いて、しかも下の2人は双子だそうですね。

 気象キャスターとしての復帰は実は今回ではなくて、2022年に代行でNHKラジオ第1「マイあさ!」(土日)で気象情報を担当したときでした。

 当時は午前2時起床、3時半出勤で、その時に子どもたちは「お母さんが暗いうちに出て行く」ことを経験していたので、今回、家族はそれほど驚きませんでした。でもコミュニケーションは取りたいので、出勤前には毎日、家族に置き手紙を書いています。学校の忘れ物チェックも兼ねて。

 朝ご飯の時間に私はいませんが、子どもたちは自分でパンや卵を焼いたりできます。ちょっとくらいやけどしてもいいから、と。会社員の夫のサポートが大きいですが、子どもたちにはできることは自分でやらせる。こちらが待っていると、意外とできるようになるのですよね。

 自分でやったほうが早いのでつい手をだしがちですが。子どもたちがひとつ心配したのは「髪を結う人がいない」こと。地味だけれど結構な問題で、子どもたちは特訓の結果、最初は泣きながらでしたが、ちゃんと自分でできるようになりました。あとは習い事を自宅の近くに固めて、子どもたちが自分で行けるようにしました。

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 体力が必要な仕事なので、自分の健康も大事。睡眠は分割で取っています。仕事を終えて自宅に帰ったらまず2時間仮眠を取って、子どもたちが学校から帰ってきたら、夕ご飯を作ったり家事をしたりして、午後7時半には一緒に寝ちゃいます。2時間と4時間、確保していますね。

 食事にも気をつけています。体にいいものを取り入れたいので、なかなか時間はないのですが、プランターで野菜を育てたり、梅シロップを作ったり。プランターではオクラ、ゴーヤー、ナス、枝豆を育てていて、あと放送でも登場したサンショウもプランターで。料理はあまり得意ではないですが、子どもたちも素材そのものを好んで食べてくれるので、ブロッコリーをゆでるだけとか。無理はせずにやっています。

 「おはよう日本」メインキャスターの首藤奈知子さんは同世代で、お子さんがいるのに早朝のキャスターをされているので、すごく勇気づけられましたね。私の場合は期間が限られていて家族に協力を頼みやすかったし、子どもが小学生になって送迎やお弁当作りがなくなったのも大きいです。

ー大学卒業後の就職先は出版社でした。

 マスコミ志望で、出版や放送関係を受けていました。そこで2年間、営業や編集の仕事をし、2004年にNHK前橋放送局の契約キャスターに転職しました。自分でいろいろ企画してカメラも回して、楽しかったです。

 農業関係の取材をすることが多く、天気予報が頼りにされていることを実感したことが気象予報士の資格を取ろうと思ったきっかけでした。仕事をしながら2年間勉強し、2007年3月に取得しました。

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 2007年4月からはNHK首都圏放送センターで1年間リポーターとして働きました。「ゆうどきネットワーク」で、日本全国の企画や取材もバンバンできたので、どう企画を立て、どう放送原稿を書くのかなどいろいろ勉強になりました。

 2008年4月に「おはよう日本」の気象キャスターになりましたが、前橋と首都圏で、自分で企画して表現していた経験が、気象キャスターとして原稿を書いたり、画面でどう見せるかを考えたりするのにとても役立っています。瞬発力が鍛えられた気がしますね。

チリでも細々と仕事を続けて

ー2011年9月、夫の海外赴任のために「おはよう日本」での仕事を終了しました。

 すごく悩んで、2カ月、決断できませんでした。やっと軌道に乗ってきたところで辞めて良いのか?と。周りに相談すると「せっかくなのにもったいない」という人も「行ってみたら」という人もいました。私自身が親の海外駐在で子どもの頃にシンガポールとオーストラリアで過ごしたことがあり、その楽しさを知っていたことと、夫婦で一緒に行ったほうがいいのではないかと考え、決めました。南米で暮らす経験などなかなかできないですし。

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2012年1月、チリの公園で飼育されているリャマと(渕岡友美さん提供)

 チリに行ってすぐはホームシックのようになりました。英語は通じずスペイン語はできなかったので言葉が分からなくて、「言葉を使う仕事をしてきたのに、言っていることが分からない!」ということが悲しくて。でも元来、切り替えは早いタイプなので、スペイン語やダンスの学校に通い始め、スペイン語を学習。チリ人やコロンビア人の友人もできて楽しくなりました。

 イースター島やパタゴニア、アルゼンチンなど中南米各地を回って刺激をたくさんもらい、視野も広がり度胸もつきました。おかげさまで、以前よりどっしりとした気象キャスターになれたかもしれません。

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2012年9月、イースター島で(渕岡友美さん提供)

 チリに住んでいた5年間、NHK時代の上司の紹介で、NHK「ラジオ深夜便」で月に1回、海外リポーターとして5分のコーナーを持たせてもらいました。そんなにネタの多い国ではないのですが、およそ全60回、毎回違うネタを出すということが自分だけのひそかなこだわりでした。気象予報士の先輩で今の事務所の社長でもある南利幸さんに「何でもいいから仕事をしたほうがいい」とアドバイスももらっていて、細々とでも続けられたことは大きかったなと思います。

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2014年12月、チリのラベンダー畑で(渕岡友美さん提供)

 2016年に帰国した後は、双子の出産があって大変な時期でしたが、司会など単発の仕事を自分で探してやっていました。社会とのつながりは何かしら持っていたいなと思って。コロナ下の2020年には自宅の近くにある大学で週2回、秘書の仕事もしました。気象予報士とはまったく関係ない事務の仕事でしたが、違う世界をのぞくことができ、大学院生と接して彼らの頑張りを見ていて「私も頑張ろう!」と刺激をもらいました。

 それもきっかけになり、南さんに相談し、南気象予報士事務所(兵庫県西宮市)に所属。2022年5月にNHKラジオ第1「マイあさ!」(土日)の代行に入ることになり、そこで気象キャスターとして復帰したという形です。今回「おはよう日本」の代行が終わったら、ラジオセンターに戻る予定です。

気候変動の背景も伝えたい

ー南さんといえば、だじゃれ。渕岡さんのだじゃれは南さん直伝ですか。

 違います(笑)。「マイあさ!」(土日)でご一緒した畠山智之キャスターから「南さんの事務所だからできるよね」と向けられたのをきっかけにだじゃれを時々交えていたら、意外と面白くなって。父が関西人なのでよくだじゃれを言っていたことも影響しているかもしれません。せっかくなので聴いて楽しい気象予報にしたいですし、気象予報士にはだじゃれが好きな人が多い気がします。特にラジオはだじゃれと親和性がありますね。

 南さんはだじゃれの印象が強いかもしれませんが、実は日本語をとても大事にされています。災害時の情報の伝え方など「今の言い方はこうしたほうがいい」と丁寧に指導してくださいます。テレビだとつい「では、見てみましょう」などと言いがちですが、視覚障害のある方もいるかもしれないから配慮しましょう、と日頃からおっしゃっています。硬軟を自然に使い分ける偉大な先輩です。

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 事務所では気象キャスターが講師を務める「予報士試験対策講座」もやっています。天気が趣味という方、転職を目指す方、キャスターを目指す方、さまざまですね。天気が好きな方はすてきな方が多いように思います。まじめで素直に取り組んで、みんなで知識を高めていこうと勉強にも熱心で。気象情報は本当に奥が深いです。

 事務所に所属したときには私も久しぶりだったので、天気図の解析などを勉強し直しました。教科書的な答えはあっても、実際の天気の解析はやってもやってもゴールがありません。事務所内では定例の勉強会があり、1人ずつ天気図の解析を発表したりするのですが、毎回ちがう天気図とにらめっこすることは難しくも面白い時間です。人によって主観もちがうし、自分の解析を予報士仲間に伝えるのは放送以上に緊張します。

 あと、気象キャスターは全国各地にたくさんいて、地方局だとたった1人で頑張っていたりします。ぜひそういう方々にも目を向けてもらえたらうれしいですね。

ー今後はどのようにキャリアを続けていきたいですか。

 「おはよう日本」が終わったらラジオに戻る予定で、声だけで伝えるのもすごく楽しいです。自由度が高いし、テレビだと1〜2分ですがラジオだと3〜5分くらいあっておしゃべりしている感じで伝えられて。ラジオはヘビーリスナーがいて、メールやX(旧ツイッター)でやりとりできるのも楽しいですね。だじゃれを言ったらすぐに「今、滑りましたね」とメッセージが寄せられたり。熱中症の話をしたときには「私も」「私も」と反応がくるなど、一緒に番組を作る楽しさがあります。

 気象予報士の間では、温暖化が進んでいることももっと伝えて食い止めなければいけないよねと話しています。この猛暑も大雨災害も、一つには温暖化の影響が大きく、地球レベルの問題となっています。天気予報の短い放送時間の中でどうやって盛り込むかは難しいのですが、気候変動などの背景も本当は伝えたい。以前は、小中学校での「地球温暖化」の出前授業も多数行っていたので、また子どもたちに伝える活動もできたらとも思っています。

 この先の自分がどうなるかは分かりません。家族の状況に合わせながら決める、行き当たりばったりかも! でも、大好きな仕事なので、この先も気象キャスターは続けたいです。

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渕岡友美(ふちおか・ゆみ)

 1979年生まれ、横浜市出身。慶応義塾大総合政策学部卒業。出版社勤務を経て2004年4月にNHK前橋放送局で契約キャスターになり、2007年4月からNHK首都圏「ゆうどきネットワーク」でリポーター。2007年3月に気象予報士の資格を取得、2008年4月から「おはよう日本」で気象キャスターを務める。夫の転勤のため2011年9月にキャスターを辞め、チリに移住。2012年4月から帰国するまでの5年間、NHKラジオ第1「ラジオ深夜便」でチリの情報を月に1度リポートする。2022年5月にNHKラジオ第1「マイあさ!」(土日)代行で気象キャスターに復帰。2023年4月から毎週金曜にNHKラジオの昼間の気象情報を担当し、「おはよう日本」の代行が終わったら戻る予定。チリで長女、帰国後に双子の男女を出産。

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  • 匿名 says:

    渕岡さん担当、おはよう日本の気象予報が、とても、自然体で話されていて、とても印象が良く、ブログを拝見させていただいて、投稿させていただきました。

    私も、渕岡さんと同じ環境の娘がいます。出来れば、長く、担当出演して下さい。

     男性 70代以上

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