出前授業、教員側は大変? 学びは深まるが企画・打ち合わせ「準備に時間」 渋谷区は教委・有志でサポート

(2025年3月12日付 東京新聞朝刊に一部加筆)
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出前授業でフェイクニュースが広がる理由について学ぶ4年生の児童=東京都中央区で

 企業などが社会貢献とPRを兼ねて学校で実施する出前授業。子どもたちの学びを深めることができ、教員側にも外部の力を借りることによって負担を軽減できる面があるため、積極的に活用する学校も増えている。ただ、企画や打ち合わせなど、教員にはそれなりの準備が必要だという。悩ましさがにじむ現場の声は。

教員の働き方改革につながるか?

 「この中にフェイクニュースはある?」。昨年12月に東京都中央区の京橋築地小で行われた、デジタルメディアとの付き合い方を考える出前授業。講師の声かけで、4年生の児童たちがインターネット上の4本のニュースから虚偽のニュースを見つけ出す問題に挑戦した。発信された日付や発信者をチェックしたり、キーワードをネットで検索したりして内容を確認。2時間の授業の中で、何度もワークシートに自分の考えを書き込み、手を動かして情報を集めた。

 この出前授業を行ったのはキャリア教育プログラム「TERAKOYA Program」を手がけるイコールチャンス社(同区)。区教育委員会と連携して区内の各小学校のリクエストに応じた授業を提供している。経済産業省の「働き方改革支援補助金」を利用し、同社は2024年度、区内17小学校のうち、9校で人工知能や金融などの授業を展開してきた。

 利用した学校の教員からは「教材研究に充てる時間がないことが課題だった。準備の時間が浮いただけではなく、自分では教えられない授業を子どもたちに届けてもらった」「車いすの児童も参加できるような提案をしてもらえた」と評価する声が上がった。

 文部科学省の調査によると、23年度の月平均残業時間が国の指針が定める上限45時間を超えた教員は、小学校で24.8%、中学校で42.5%に上った。同区教育委員会指導室の平野収統括指導主事は、その分野に秀でた外部の力を借りることで「子どもたちに対して魅力的な授業ができるだけでなく、結果的に教員の働き方改革にもなっている」と話す。

協力先の「リスト化・調整支援」も

 ただ、実際に別の企業の出前授業を利用したことのある教員からは、「打ち合わせに時間を取られ、かえって負担だった」「せっかく苦労していい形を作ったので次年度に引き継ぎたくても、次の年は実施されなかったり、すでに他校の予約で埋まり利用できなかったりすることも多い」といった厳しい声も聞かれる。

 都内の公立小に勤める40代前半の女性教員は「効果的に出前授業を取り入れるためには、教育課程に沿うように企画・打ち合わせをし、在籍する子どもたちの特性に合わせた内容の検討も必要になってくる。その負担は小さくはない」と打ち明ける。

 協力を得られる企業や団体の数には、地域によって濃淡がある。積極的に出前授業を受け入れている都内の公立小の50代の男性校長は「地域柄、協力企業が多く、5~6年生は年間10回くらい出前授業を組み込んでいる。子どもたちが本物に触れられる機会は貴重だが、担当する教員にはある程度の力量が必要で、準備の負担も大きい。内容が良い授業はなるべく毎年継続して実施をお願いすることで、打ち合わせなどにかかる時間を減らしている」と活用する上での工夫を説明する。

 埼玉県内の公立中で勤務する40代半ばの女性教員は、「毎年1人の教員の手元に来る企業などからの案内は2~3社。東京都内のように選択肢がたくさんあるわけではない」と話す。外部の力を借りる場合、「1学年4クラスあるので、例えばキャリア教育なら複数の企業に同じ日程で来てもらい、生徒が選択できるようにしようとすると、協力先を探すところからの準備は非常に大変」。

 そんな教員たちをサポートする動きもある。24年度から小中学校の総合学習の時間を倍増し、「シブヤ未来科」という探究学習をスタートさせた渋谷区では、教員の負担を減らすため、区教育委員会とPTA有志らが連携し、協力先の企業や団体を発掘・リスト化して、調整の支援をしている。協力する企業・団体は200を超える。

 イコールチャンス社の同プログラム主任で教員経験もある内野直弥さん(31)は「企業の側も、学校の実情や対象となる児童生徒の発達段階を踏まえた出前授業の提案ができると、学校は負担を感じずに導入しやすくなる」と指摘する。

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