主婦から絵本作家に転身!「ぎょうざ」シリーズ第2弾「ぎょうざが となりに ひっこしてきました」玉田美知子さん 大ヒット作のきっかけは防災無線!?

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専業主婦から絵本作家に転身した玉田美知子さん=東京都文京区の講談社で(池田まみ撮影)

 専業主婦から絵本作家になった玉田美知子さん。デビュー作で、第43回講談社絵本新人賞を受賞した「ぎょうざが いなくなり さがしています」は出版から1年で5万部の大ヒットとなりました。今夏、「ぎょうざ」シリーズ第2弾「ぎょうざが となりに ひっこしてきました」が刊行されました。玉田さんに絵本作家になるまでの経緯や、「ぎょうざ」シリーズの制作の裏側などを尋ねました。

子どもが高2になって「自分の時間」

ー専業主婦から絵本作家になったそうですね。以前から絵本作家になりたかったのですか。

 子どもの頃から絵本が大好きでした。幼稚園で、定期購読していた「キンダーおはなしえほん」が毎月の楽しみだったんです。中学2年生の頃、自分の進路を考え始める時に、絵にまつわることがしたいと考え、その時から絵本作家になりたいと思っていました。だけど、どうやったらなれるのかわからず、まずは美大に進むことにしました。

写真 玉田美知子さん

「子どもの頃から絵にまつわる仕事がしたいと思っていました」と笑顔を見せる

 大学卒業後は文房具などのデザインをしたり、CDショップでアルバイトをしたりしていました。その後、結婚、出産と日々忙しくしていて、子どもが高校2年生の時に、はじめて自分の時間が持てるようになり、「本当に自分がやりたいことをやろう」と絵本を描くための教室に通い始めました。

ー教室ではどんなことを学んだのですか。

 絵本の基本を学びます。ラフづくりや、与えられたテーマで絵本を描く課題があり、それを絵本作家さんや絵本の編集者さんが講評してくれます。アイデアの膨らませ方、お話の作り方など絵本創作の基礎をここで学びました。

ーどんな絵本作家が講師をされているのですか。

 飯野和好さん、三浦太郎さん、やぎたみこさんなど、人気絵本作家の先生たちが講師になってくれて、会えるだけでも興奮しました。先生たちは絵の描き方や、自分がどんな画材を使っているかなども、事細かに教えてくれました。

ーどのくらいの期間通ったのですか。

 週に1回、8カ月間通いました。とにかく課題をこなすのに精いっぱいだったのですが、その時に作ったお話が今、形になっているものもあり、アイデアのストックになりました。

「人並みに好きなくらいなんです」

ーその後、2022年「ぎょうざが いなくなり さがしています」(応募時は「まよいぎょうざ」)で講談社絵本新人賞を受賞され、2023年絵本作家としてデビューされます。なぜ、ギョーザを主役に?

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デビュー作「ぎょうざが いなくなり さがしています」(講談社)

 ギョーザに深い意味はないんです。私が住んでいる地域では、いろんな情報が防災無線で流れています。そんな中で、「誰々がいなくなり、探しています」というのを聞くと、どうしたのかな?何があったのかな?と心配になり、しばらくして、「無事に見つかりました」というお知らせを耳にし、ほっとするということがありました。

 そんな時、普通逃げ出さないものが、「逃げ出した」という放送が流れたら面白いんじゃないかと思い、絵本を描き始めたんです。下絵の段階で「無事に保護されました」という放送を考えながら、一連の流れがギョーザだったら面白いのでは?と思い、ギョーザを主役にしました。

ー絵本の中には、ギョーザにまつわることも細かく描かれています。例えば駅名が「浜都宮」駅となっていて、浜松、宇都宮、宮崎といった餃子が有名な土地の名前が入っていて面白かったです。玉田さんは、ギョーザが大好きな方なのかなと思っていました。

 人並みに好きなくらいなんです。だけど、この絵本を描いてから、ギョーザの情報が集まるようになりました。お祝いで、冷凍ギョーザをいただいたりもしました。

 また、昨年、「真夏のぎょうざ祭り」という企画を版元さんがしてくれて、「ぎょうざ」の絵本の売り上げが一番多い書店にトロフィーを贈るというイベントを開催しました。宇都宮の書店さんがとても頑張ってくれて、4位から最終的に1位に追い上げてくれました。ギョーザと共に、絵本を応援してくれるという、予想していなかった広がりもあり、「ぎょうざさん、ありがとう」という感謝の気持ちでいっぱいです。

要所で娘から的確なアドバイスが

ー絵本を描かれている時に、大変だった点はありますか。

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絵本制作の裏側について語る玉田美知子さん

 作品を描いていると没入してしまうので、自分が面白いと思っていることが本当に読者も面白いのか、私の独りよがりではないかと常に思っています。描きながら何度も読み返すので、客観的な視点がなくなってしまっている気がして、これって読者は面白いのかな?と迷うこともありました。

ー娘さんにアドバイスをもらうことはありますか。

 1作目の最後のシーンは娘のアイデアなんです。娘は要所要所で、的確なアドバイスをくれます。すごい意見を言うなぁと思う時もあるんですよ。私よりも読者の子どもたちに年齢が近いからでしょうか(笑)。

2作目はぎょうざが引っ越してきて…

ー2作目の「ぎょうざが となりに ひっこしてきました」が6月30日に刊行されました。

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「ぎょうざ」シリーズ第2弾「ぎょうざが となりに ひっこしてきました」(講談社)1650円

 続編は考えていませんでした。次の絵本について、編集者さんと話しているうちに、2作目もギョーザの話を描くことになったんです。「世界最速のギョーザ」などいろんなアイデアを考えているうちに、「ひっこしぎょうざ」が浮かんできました。

ーぎょうざが隣に引っ越してくるという今作も斬新なお話ですよね。読んでいるうちにわかるのですが、最初、語り手が誰だかわかりません。

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ぎょうざさんが引っ越しのあいさつにくる場面(講談社提供)

 1作目はすぐに語り手がわかりますが、今作では「語り手がこの人!?」と思わせたかったのです。ドラマとかでも、結末を知るまで気がつかないシーンってありますよね。一度読んだだけでは気がつかないような絵本にしたかったのです。前作の世界観は残し、語り手はきっとこの人だろうなと思わせつつ、実は…というのを描きたかったんです。

「キャベツの高騰」現実の方が高値に

ーニラやキャベツ不足など、世相を反映させるような場面もありました。ちょうど、去年、キャベツが高騰した時期がありました。

 本描きをしている時に、キャベツの値上がりがはじまりました。普段の価格の5倍くらい値上がってしまったというニュースが流れていて、絵本の世界と現実がシンクロしていると思いました。絵本で自分が考えていた値段よりも、現実の方が高値になっていて、ビックリしました。

ー絵本の中で、野菜の高騰のニュースのコメンテーターとしてぎょうざが出てきます。ぎょうざだからこそ言えるコメントもあり、面白かったですし、子どもたちと野菜やお米の値上がりについて話すきっかけにもなりますよね。そんな中、またぎょうざがいなくなってしまいます。

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コメンテーターとしてニラ不足について話すぎょうざさん(講談社提供)

 今作でもぎょうざがいなくなってしまいます。前作は語り手の男の子が妄想を繰り広げていくのですが、今回はどうしたのかな?と読者にも想像してもらって、最後のオチを描きました。

「何度も読んで、いろいろ発見して」

ー仕掛け絵本ではないのに、ところどころでたくさんの仕掛けがちりばめられています。いろんな読み方ができますね。

 2回、3回と読んで、文字の語呂合わせなどを発見できるようにしました。なので、絵の中に出てくる言葉は全て意味を持たせています。読者から前作で「数字に意味はあるのですか?」と聞かれたことがあって、「特にないです」と答えてしまったことがありました。

 今作では、数字も全て語呂合わせをしているので、いろいろ探してもらいたいです。

ー読み手は伏線回収みたいなものを求めますよね。前作よりパワーアップしています。読者の方にはどのように読んでもらいたいですか。

 前作とつながっているなと読んでもらってもいいですし、全く別の物語として、今作から読みすすんでもらってもいいです。何度も読んでもらい、読むたびに新たな発見をしてもらえたらうれしいですね。

3作目も構想中 ぎょうざが世界へ?

ー「ぎょうざ」シリーズ第3弾は考えていますか。

 ぼんやりと考えています。タイトルも前2作と同じく長いものにしたいなぁと思っています。1作目を作る時に、世界を放浪するギョーザが、いろんなギョーザに出会うのもいいなと思ったりしました。3作目は構想中ですが、また、どこかにいなくなってしまうかも…?

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ー一体どこにいなくなってしまうのでしょう! シリーズは続くと思うのですが、今後はどんな絵本を描いていきたいですか。

 近所の子どもたちが「こんな食べ物の絵本を描いたらどう?」などと、アドバイスをくれるんです。なので、他の食べ物もいいなと考えていますし、コーヒーが好きなので、コーヒーの絵本も作りたいなぁと思っています。

 いま、おにぎりを紙粘土で立体にした絵本も作っています。いろんな画材を使い、さまざまな表現方法で作っていきたいですね。

 こんな作風でいいのかなと思いながら、常に迷っているのですが、読者からの言葉に励まされています。「面白かった」と言ってもらえるのが、とてもうれしく、頑張ってやっていこうと支えになっています。

玉田美知子

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1977年生まれ、神奈川県在住。多摩美術大立体デザイン専攻卒業。2022年に、『ぎょうざが いなくなり さがしています』(講談社)で第43回講談社絵本新人賞を受賞し、絵本作家デビュー。2024年、同作でMOE絵本屋さん大賞新人賞第1位を受賞。コーヒー豆のサブスクリプションサービスも運営する。

 

 

 

 

筆者 長壁綾子

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1988年、群馬県生まれ。2018年より毎週「えほん」のコーナーで新刊の絵本を紹介している。また、絵本、児童書について取材しており、作家のみなさんが作品に込めた思いを伝える。ギョーザが大好物!お気に入りのギョーザのお店は立川市にある「餃子天国」。

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