「セサミストリート」50年、長寿の秘密は? 雑貨店主役・ムラオカさんに聞く”多様性と包摂”
低所得層やマイノリティーの学力アップに寄与
初代店長の名にちなんだ「フーパーさんのお店」の4代目店主を演じて21年。ムラオカさんは「最も重要なのは、教育的であると同時に面白いこと。子どもたちをより賢く、強く、優しく育てることを常に意識している」と話す。
教育や児童心理学の専門家が制作に加わる番組の最大の狙いは、低所得者層やマイノリティー(民族的少数派)の読み書きや計算能力を向上させることだ。
番組には、俳優のナタリー・ポートマンさんやミシェル・オバマ大統領夫人(当時)ら有名人が頻繁に登場する。親にも一緒に見てもらうためで、ムラオカさんは「親と会話を交わすことで、子どもは番組に一層溶け込む」と強調する。
差別、いじめ、死…難しいテーマにも向き合う
人種差別やいじめなど難しいテーマとも格闘してきた。「子どもに人の死とは何かを考えさせたのも番組が初めて」(ムラオカさん)とされる。
初代店長を演じた俳優が番組放映中に急死した時、死を理解できないビッグバードに大人たちが「フーパーさんはもう永遠に戻ってこない。いなくても、私たちには彼との思い出があるよ」と説いて聞かせた。
特に印象深かった「9.11テロ」 消防士も出演
ムラオカさんが演じて、特に印象深かったのは2001年9月の米中枢同時テロ後の物語。旅客機の衝突で世界貿易センタービルが崩壊した惨事を子どもにどう理解させるか。雑貨店の台所でボヤが発生したという設定で、説明を試みた。
エルモは煙や駆けつけた消防士の重装備にすっかりおびえてしまう。親切な消防士が「どんなに怖くても助けてあげるから安心して」とエルモを励まし、消防署を案内。エルモはすっかり消防士が好きになる-。
実際に、ビル崩壊の現場に通い続けるニューヨーク消防本部の消防士らが出演。ムラオカさんは「仲間を失いつつも現場で活動を続ける消防士と経験を共有でき、とても誇りに思う」と振り返った。
自閉症のキャラに当事者「よく代弁してくれた」
数年かけて準備した自閉症の少女ジュリア(4つ)の紹介も思い出深い。ムラオカさんは番組で、ジュリアの振る舞いに戸惑うビッグバードに「時々返事するのがみんなより時間がかかるんだ」などと自閉症の症状を説明する。すっかり仲良くなると、多くの歌を暗記しているジュリアと一緒に「みんなそれぞれ違う/違いをほめようよ/そうすれば仲良くなれるよ」と歌う。
「自閉症の症状は人によって異なる。ジュリアができるだけ正確に表現できるようプレッシャーがかかったが、自閉症の子を持つ親は『私たちのことをよく代弁してくれた』と好意的に受け止めてくれた」
多様性に富んだ街の住人に黒人、ヒスパニック(中南米系)に加えてアジア系が加わるのは自然な流れだった。ただムラオカさんは、ステレオタイプな演出には反対した。スタッフから以前、「空手教室の先生を演じてくれないか」と打診を受けたが断り、代わりに「ヒスパニックの女性が先生で、私が生徒という設定はどうか」と提案したという。「(番組づくりで)率直にものが言えるところがセサミストリートの素晴らしいところ」とムラオカさん。年明けからまた撮影が始まり、改装されたお店で仲間たちを笑顔で迎える。
アラン・ムラオカ
俳優、劇場監督。1962年、カリフォルニア州ミッションヒルズ生まれ。カリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)演劇学部卒。ニューヨークのブロードウェーで「アラジン」「ミス・サイゴン」「王様と私」などにも出演。
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