「お父さんは育児をしていますか」1歳6カ月健診の質問、なぜ”母親が主体”の前提なのか? 厚労省に聞いてみた

青木孝行、小形佳奈 (2020年4月21日付 東京新聞朝刊)
 「お父さんは育児をしていますか?」。保健所での1歳6カ月健診時に行われたアンケートで、母親が育児することを前提にした設問に疑問を持ちました-という内容の投稿が東京新聞の読者からの発言欄に掲載されました。なぜこんな設問になっているのか、記者が調べました。 

「休日は家事のほとんどを夫がする」と話す小笠原知美さん(手前)と1歳8カ月の長男。夫の祥さんは台所で食器を洗う=東京都大田区で

「積極的に育児している父親の割合」を調べるため

 厚生労働省によると、アンケートは、育児不安の軽減や小児保健医療水準の向上などを目的とした国の「健やか親子21」の指標に合わせ、同省がつくった。乳幼児健診の実施主体である都道府県や政令市、特別区の母子保健担当部署に通知され、結果を各都道府県が取りまとめて厚労省に報告する。

 指摘された設問は「積極的に育児をしている父親の割合」を調べるためのもの。両親の喫煙率や、子どもを虐待していると思われる親の割合を調べる設問もある。

厚労省「2015年からの10カ年計画」 当初の指標

 投稿した東京都大田区の会社員小笠原知美さん(35)は、夫の祥さん(35)と1歳8カ月の長男との3人暮らし。祥さんは平日、保育園の送りのほか、夜9時ごろの帰宅後に掃除や洗濯物干し、休日は家事のほぼ全てをこなす。小笠原さんは「家事・育児の6、7割を夫が担当している」と言い、祥さんが健診に行ったら「この問いにどう答えればいいのか」と首をひねった。

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 厚労省母子保健課の担当者は10カ年の第2次計画が2015年度から行われており「当初の指標を変えられないし、計画途中で設問の表現を変えると統計としてゆがみが生じる」と説明。その上で「まだまだ女性の方が子育てを担っている状況もある」と理解を求めた。

男性の育児参画が進み、保健師からも疑問の声

 ただ、アンケートで「(父親は育児を)よくやっている」と答えた人の割合は、2013年度の47.2%から2017年度は59.9%に上昇している。

 男性の育児参画が進む中、自治体の保健師などから「『子育ては母親が主体という聞き方はどうなのか』『父親が健診に連れてきていることもある』という意見をいただいている」と担当者は話した。

東京23区では独自の問診票も 「主に育児をしている方」「パートナー」

 東京23区の自治体の中には、1歳6カ月健診時のアンケートの際、独自の問診票で親や周囲の育児の関わりを問う区もある。

 荒川区は「主に育児をしている方におたずねします」と前置きした上で「子育てや家事を手伝ってくれる人はいますか」と質問。「母・父・祖母・祖父・その他(自由記述)」から選んでもらう。

 渋谷区は「(育児について)悩んでいる時に相談や、協力してくれる人はどなたですか?」との質問に対する選択肢のうち「配偶者」の部分を8年ほど前に「パートナー(配偶者)」に置き換えた。ひとり親家庭や未婚の人を想定して見直したという。渋谷区では2015年に全国初の同性パートナーシップ条例を制定。担当者は「条例にも合致しているので引き続き同じ選択肢にしている」と説明する。

「子育てをどのように分かち合っていますか」と聞けばいいのでは

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◇恵泉女学園大学長の大日向雅美さん(写真)の話
 子育ては、夫婦で分かち合うもの。女性は、相手に何をしてくれるかを望んでいるのではなく、子育ての同志でありたいと願っている。1歳6カ月児の健診アンケートでは「子育てをどのように分かち合っていますか」といった設問にすべきではないか。

1歳6カ月児健診とは

 母子保健法に基づく健康診断。国が自治体に、満1歳を超え、満2歳に達しない全ての幼児への実施を義務付けている。身体発育の状況や、栄養状態、歯や口腔(こうくう)疾病、四肢運動障害の有無など11項目を診断。厚生労働省によると、2017年度の受診人数は、97万8831人で、受診率は96.2%。過去5年間、94~96%台で推移している。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2020年4月21日

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