コロナで増えた不登校 大きく変わった学校の風景、表面化した不安 「行かない」選択をする子どもたち

長田真由美 (2020年10月23日付 東京新聞朝刊)

不登校の先に

 不登校の小中学生が18万人を超え、過去最多だ。新型コロナウイルス感染への警戒が続く中、学校生活や人間関係の変化などへのストレスから、「行かない選択」をする子も出てきている。不登校の原因や対処法は、子ども自身の特性、親や教師、友達との関係などで異なる。これから月1回、さまざまなテーマで、居場所や進学など子と親が見つめる「不登校の先」を考える。 
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得意なのは絵と小説。最初は色鉛筆で描いていたが、最近はタブレット端末を使うことが増えた女子生徒=愛知県内で

もし感染したら、友達にうつすのが怖い

 3月からの一斉休校のさなか、小学2年の息子(8つ)がつぶやいた。「僕がコロナに感染すると、友達にうつす可能性があるよね」。東京都内に住む女性(43)は、息子が不安を抱えているのを感じた。

 休校が終わり、6月から始まった分散登校。息子は基礎疾患のあるクラスメートのことを気にしていた。万が一、満員電車で通勤する父親から感染し、その子にうつしたら? 「怖い」と漏らし、「ワクチンができるまで、学校は休もうかな」と言った。

 女性は、ケアワーカーとして働いていた時に培った感染症の知識を基に、休校前の2月から息子にマスクを着けさせた。マスク姿はまだ珍しく、学校では友達に「外せよ」と言われることも。ただ、親から見ても性格は明るく、放課後に遊ぶ友達もいた。

 「休もうかな」と聞いても、あわてることはなかったという。「おうちの方が安心」と、意思が「明確だった」からだ。当時は新聞もテレビもコロナ一色で、社会全体が騒がしかった。安心して学校に行けるのが一番大事―。夫婦で話し合い、決めた。息子とは「勉強や運動をマイペースで頑張ろうね」と約束した。

 今は通信教育で勉強したり、サイクリングに出掛けたりと伸び伸び過ごす。友達とはオンラインで2回話した。一度は虫捕りにも出掛けた。女性は「行きたい、と思うタイミングで戻ればいい」と考えている。

以前から不登校の14歳は「変わらない」 

 「一斉休校後、登校を渋る」「人を怖がる」「不登校になりつつあって押しつぶされそう」…。ツイッターには、コロナの感染拡大と軌を一にした親の悩みがあふれる。

 大人でも心が揺れ動くこの異常事態をどう受けとめるかは、子どもによって違う。不安に駆られたり、反対に周囲の変化を冷静に見つめていたり…。コロナ禍前から不登校だった子の思いもさまざまだ。

 「自分は何も変わらない」。愛知県内に住む中学2年の女子生徒(14)は言う。

 学校に行けなくなったのは小学2年ごろ。登校するとおなかが痛くなった。音にも敏感で、複数の人がそばでしゃべる声でも気分が悪くなる。3年生の時、心療内科で発達障害と診断された。今は2週間に1度、放課後に登校する。

 「何の変化もない」と言うが、一つだけ、期待することがある。通信制高校に進みたいが、教室で授業を受けるスクーリングが定期的にあると難しい。国が6月下旬、各教育委員会に実施した調査によると、感染への警戒から、普段の対面授業に近い同時双方向型のオンライン指導を行った高校は47%に上った。オンライン授業が身近になる様子に「リモートでクラスメートと話せたら」と願う。

 「私には得意なことがある」という自信が生徒を支える。それは、絵と小説。1月、好きなアニメやゲームのキャラクターが登場する小説を書き、初めてSNSに上げると、閲覧数は1000を超え、全く知らない人から反響があった。ゲームの登場人物について知りたくて歴史を調べるなど、学びのきっかけにもなっている。

 学校に行きたくても、行けない。でも「これが、自分」。コロナ禍でも、一つ一つ得意なことを伸ばしながら、居場所を広げている。

不登校は「周りの価値観を離れて、自分と対話している時間」 親はどうすればいい?

 「子どもが学校に行きたがらない」—。不登校の親子らを支援する一般社団法人「不登校支援センター」名古屋支部(名古屋市中区)では、一斉休校明けの6月下旬から、保護者らからの新規相談が急増した。例年7月は10件ほどだが、今年は30件を超え、9月も21件に。カウンセラーの伊藤みゆきさん(47)は「以前は中高生が中心だったが、今は小学校低学年から大学生まで幅広い」と話す。

全国調査 22%の学校が「増えた」

 教室でも全員がマスクをして、席を離して座る。給食中は友達としゃべらず、窓の方を向いて食べるよう促す学校も。伊藤さんは「学校の風景が大きく変わったことで、不安を感じる子どもがいる」と指摘する。ただ「いきなり不登校になるわけではない」とも。以前から学校や家庭で募らせていた不安やもやもやがコロナ禍であふれたとみる。

グラフ 不登校の小中学生数の推移

 短い夏休み明けにも、子どもたちの異変が広がった。日本教職員組合が8月末から9月中旬、全国の小中高校や特別支援学校計1152校から回答を得た調査では、22.7%が不登校や保健室登校などの子どもが「増えた」と回答。自由記述では「生活リズムが乱れているのか、遅刻も増えている」「体調不良を訴える子どもが増えた」との声が寄せられた。

原因の特定より、気持ちに寄り添う

 わが子が不登校になったとき、「なぜ」と理由や原因を探す保護者も多いだろう。しかし、伊藤さんは「原因の特定と解決にこだわると、不登校が長期化することもある」と指摘。例えば子どもが「いじめられた」と訴えた場合でも、いじめる相手がいなくなったら学校に行くようになるとは限らない。他にいじめる子が現れたり、別の理由が出てきたりするかもしれない。「子どもが今どういう気持ちでいるのかを聞いてあげて」と強調する。

 国や自治体の不登校対策はかつて、子どもを学校に復帰させることが目標だった。2017年に全面施行された教育機会確保法を受け、無理に登校させない方針に転換。文部科学省は昨年10月、民間のフリースクールなど学校外の施設で学んでも、一定の条件を満たせば「出席扱い」とすることも全国の教育委員会に通知した。

「悪いこと」という考え方を変える

 「まずは保護者も『不登校は悪いこと』という考えを変える必要がある」と話すのは、岐阜県立希望が丘こども医療福祉センター・発達精神医学研究所顧問で、児童精神科医の高岡健さん(67)だ。「コロナ禍を機に、自宅からでも授業を受けられることが分かった。その子にあった学び方ができればいい」と訴える。

 高岡さんによると、学校を休んでいる子どもの心の状態は「自分と対話している時間」。周りの価値観から離れて、自分が本当に何をしたいのか考え、新しい自分をつくり直しているという。「大人が小説を読んで自分と向き合うように、今の子どもは漫画やゲーム、動画に親しみながら自分と対話し、進む道を選択していく」と言う。

 保護者から「不登校になった子どもにどう声を掛けたらいいか」との相談も多いが、高岡さんは「何をしたらいいか分からないときは何もしないで」と助言。「子どもにばかり目が向くと、親子とも行き詰まる」と、保護者が自分自身のための時間をつくることも呼び掛ける。趣味や仕事、ボランティアなど何でもいい。「保護者が自立した姿を見せることで、子どもも圧力を感じなくなり、自分とより深く向き合っていける」

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